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『お題系小説まとめ』

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『イエティを待ちわびて』(シロクマ文芸部×珈琲と)

『イエティを待ちわびて』(シロクマ文芸部×珈琲と)

「珈琲とってくるか」

暖炉の前に腰かけていた老人が、大仰な素振りで立ち上がった。10数年雪山の友として履き古したヘラジカの皮で編まれたブーツの紐がきちんと結ばれている。それは老人の性格を表したものだった。

老人の妻は焼きあがった干しブドウのパンケーキを暖炉の前の老いたテーブルの上に載せ、時計を見た。

「もう、そんな時間なのね」

「うん、年を取ると、まず時間の感覚がぼやけていくから厄介だな」

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惑星『月めくり』でグッバイ (シロクマ文芸部)

惑星『月めくり』でグッバイ (シロクマ文芸部)

『月めくり』は人口168人の小さな惑星だった。

1969年7月20日 アメリカ合衆国の『アポロ11号計画』で月面に降り立った船員は月の裏側から惑星『月めくり』を発見した。

月を捲ったところにあった惑星だから『月めくり』
その後の調査でどうにも環境が地球に似ているとのことで、極秘に人類移住計画が進められていた。

アメリカとソ連の間で勃発していた宇宙開発技術力の覇権争いは、アメリカに落ち着き、ア

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忍法変わり身の術(忍者×ラブレター)(ショート(もはやショートではない))

忍法変わり身の術(忍者×ラブレター)(ショート(もはやショートではない))

(3493文字にて注意)

ーー今しばらく、貴殿のお時間を頂きたいでござる

パチンコに負けて、公園のブランコで腐っていたら、
支払期限の迫った携帯の着信が鳴った。

数年ぶりに
『公衆電話』という表示を見て、懐かしくなった。

気がつけば、夕焼けがさらに傾いて、赤い光線が鈍い煙のように充満した公園には俺しかいなかった。

なんとなく、公衆電話からの着信に『通話』ボタンを押してしまったのは、
夕焼

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たまには本気でリンゴを追いかけたっていいじゃない。(リンゴ箱×シロクマ文芸部)

たまには本気でリンゴを追いかけたっていいじゃない。(リンゴ箱×シロクマ文芸部)

りんご箱を持った男が電車に乗った。白衣を着ていた。

東京郊外へ向けて走る電車は空いていたが、白衣を着た男は何も考えずに女性の横に腰かけた。
そして二秒後に女性の頭を指さして叫び出した。

「ぁぁあぁっぁああ!!あなたの頭に毒っ、ひぃ、毒蜘蛛がいます!」

女も反射的に叫びそうになったが白衣を着た男が静かにっと怒鳴った。

「ダメだ、下手に刺激してはいけない、私は毒蜘蛛学者のハッポンアシ・ハルヨシ

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数学者ダージリン博士による幸福論

数学者ダージリン博士による幸福論

21.4点

ーーさすがはうちの子だ。

ーーねえねえ、点数以外に何か書いてあるわよ?

ーー本当だ、なになに

・高校の進学は学校を選ばなければ入学可能です。
・中学校卒業時に就ける仕事の種類は14,5程です。
・大学進学された場合、就ける職種が16、7に増加します。

ーー大学はお金が勿体ないってことね。
それだけでなく、大学出ても就ける仕事の数が1、2個しか増えないなら、高校の学費だって無駄

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水がこぼれても、また汲める。(秋桜×シロクマ文芸部)

水がこぼれても、また汲める。(秋桜×シロクマ文芸部)

「秋桜のことなんだけどさ、あれ辞めてくれないか?怖いんだよ、朝5時から集まって秋桜畑で秋桜を採集して、つぶして、ピンク色の液体作ってそれを常に首から下げてさ、どこに食べに行っても、水が出てきたらそのピンクの液体を入れて、色を変えたりして飲んでさ」

男は目の前にいる、やせ細った妻にそういった。
妻の手元にはいつも必ず「秋桜(コスモス)世界を超越せし潜在パワーの発現、全ては秋桜エキスによる松果体活性

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良き隣人(走らない×シロクマ文芸部)

良き隣人(走らない×シロクマ文芸部)

「走らないで、順番は守ってくださいね」

「はい、すいませんドクター、今年もお願いします」

神妙な面持ちをした男性が、使い古された丸椅子に座って、一人の男性を見つめている。

視線の先にいるドクターと言われた男は、音もなく「うん」と頷き、男の目線を受け止めた。

「ジョージ・ヤッパリアゴワレテール」

ドクターは丸椅子に座った、一見30歳の迷子にも見える男性の名前を呼んだ。

名前を呼ばれた本人

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甘い、赤い、時の、金平糖【秋の空×時計】

甘い、赤い、時の、金平糖【秋の空×時計】

何の前触れもなく、日本が秋を迎える周期で、世界の時間は停止する。
どの時代であれ9月26日の16時43分22秒に一番甘いものを食べた人間以外の時間が止まってしまうのだ。
それは、太古から繰り返されてきた地球よりも大きなものが持つ命のリズム。

今年は、ある子どもの金平糖によって世界中のすべてが、秋の空の中に閉じ込められた。
こうなると、ブラジルだろうか、タンザニアだろうか、南極だろうか、真っ赤な夕

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優柔不断な飼育員ってだけ。【なるべく動物園】

優柔不断な飼育員ってだけ。【なるべく動物園】

ナルキッソスという花が好きだけど、なぜか動物関係の専門学校を卒業して、なるべく動物を扱う仕事から離れたいと考えながら、動物園に就職をしていた。

私の人生って、そう、なんていうのか。
動物とばっかり話していると言葉が出てこなくなる。
あ、そうそう、優柔不断だ。
その連続で出来ていると思う。まじめに。

優柔不断ポイントを集めて、換金できるなら、私ってとっくに大金持ちなのに。

考え事をしていたら、

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『超能力de読む時間!』(シロクマ文芸部)

『超能力de読む時間!』(シロクマ文芸部)

『特別生放送!!超能力de読む時間!!~証明されるまで終わりま1000時間~』

眠りこける観覧席、静まり返るスタジオ、カメラは二人の中年男性を切り取る。
裏では番組スタッフが数々のテロップや装飾を施し、プロデューサーは手もみしながら彼らを眺めている。

中年男性はそれぞれ、間隔の近い別なテーブルの前に立っていた。
テーブル上には人の顔程の大きさがある、黒い正方形の箱が一つずつ。
これが銀の楕円形

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トウコ『秋が……好きなの』(青春恋愛小説)#シロクマ文芸部

トウコ『秋が……好きなの』(青春恋愛小説)#シロクマ文芸部

トウコ『秋が……好きなの』

ところどころ朽ちている錆びた焼却炉、紅葉震わす木立の群れ、
人の熱を奪い、人の温もりが恋しくなる一歩手前の季節。
やや冷たい風に擦れた頬が少し赤くなる。
トウコの頬が赤い。これって季節のせいだろか。
そんなわけがない。

とっくに夏は別れを告げ、来週にはテストがあって、もう季節は秋で、
僕らは二人だけの世界に取り残されて、校舎の裏にいる。

そして、とんでもない事実だ

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愛は犬へ(シロクマ文芸部)(短編小説)

愛は犬へ(シロクマ文芸部)(短編小説)

『アイ、ハイヌヘ』

「何のメッセージだね、これは?」
「知らないわよ、これが何か関係あるの?」
「とりあえず遺言書保管所から届いたのだから、これは母様からの遺言に違いない、それにしても……」

三人の口調が揃う。

『愛は犬へ?』

夏の気配を帯びた6月の日差しを受けた戸口では4匹の犬がじゃれあっている。
少し古いが威厳のある螺旋階段をのぼっていけば、2階にも3階にも数匹ずつ犬がいた。

飼い主

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