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甘い、赤い、時の、金平糖【秋の空×時計】

何の前触れもなく、日本が秋を迎える周期で、世界の時間は停止する。
どの時代であれ9月26日の16時43分22秒に一番甘いものを食べた人間以外の時間が止まってしまうのだ。
それは、太古から繰り返されてきた地球よりも大きなものが持つ命のリズム。

今年は、ある子どもの金平糖によって世界中のすべてが、秋の空の中に閉じ込められた。
こうなると、ブラジルだろうか、タンザニアだろうか、南極だろうか、真っ赤な夕焼けの世界が半永久的に続く。

1万年前は縄文人が食べた甘い蠅によって世界の時間は停止した。
その際、時間を動かす方法がわからず72億年の時が空白のうちに溶けた。
なぜ、時間が動き出したのか、それは時を止めた縄文人が時計を開発したからだ。
その後、動き出した縄文時代に時計を開発した縄文人は異端者として映り、すぐに他の仲間によって殺されてしまった。
最近、頭蓋骨に槍が刺さった白骨体が発見されたが、それは彼だった。

時計の針を0時に戻せば、時は動き出す。
シンデレラもかつて何億年と停止した時間のなかに監禁された子供が制作した作品だ。
賢い子供で、今後自分と同じような人間が出てこないとも限らないと考えた。
けれども、馬鹿正直に『秋の空が永遠に続いたら、時計の針を0時に戻せ』と言っても後世には残らないことを知っていた。

そこでシンデレラという物語を作ったのだ。
シンデレラを作った子供は、時が動き出し、元の世界に戻ってから、今まで絵を描くことを嫌っていたのに、誰とも話したがらず、ひらすらに絵を描いていた。

今回閉じ込められた子供は直感的にそれを知っていた。シンデレラの功績だ。
どうにも時計が関係していそうだぞ、と。

けれども、彼は時計を自分の近くに置くだけで、針には触れなかった。
彼は何百年という時間をかけて金平糖を食べている。
ガリガリぼりぼり、ちくたくちくたくと。

彼はこう思っている。
「母のいないとわかった世界で、怒られずに食べられる金平糖がこんなにおいしいなんて」

秋の空から降り注ぐ、揺蕩う夕焼けを受けた時計の影は、細く伸びて千切れてしまいそうだった。
その横には幾つもの金平糖が入っていた容器が空っぽで転がっている。
子供が座る縁石は永遠に赤く焦げ付いている。

子供の足が満足そうに揺れ続けていた。


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