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占領下の抵抗 / 志賀直哉のエッセイ『国語問題』をめぐって
はじめに
志賀直哉の随筆はどれも面白い。その中には「フランス語を日本の国語にする」と主張した『国語問題』 [1]も含まれています。これがなんともいい。含蓄に富む文章です。
「フランス語を日本の国語にする」とだけ聞いた時と『国語問題』を通読した後とでは、印象は全く違います。そこには志賀直哉独特のアイロニーがある (ⅰ)。
しかしこれは単なる皮肉(cynicism)ではありません。志賀はフランス
開かれた起点『人新世の「資本論」』の感想
たいへん売れているらしい『人新世の「資本論」』斎藤幸平を読んだ。面白かった。
これは意外だった。ざっと目を通してはいたし、著者の発言も聞いてはいて、あまり興味がもてていなかったからです。
多くの人がいいと言っているのを目にしていたので、批判するにしてもきちんと読んでおこうと、そんな気持ちで本腰を入れて読んだのです。それが意外に良かった。
興味が持てなかった理由は、彼が新しい資料をもとに、新しい
小説の滑稽さと切なさと②
先日、tomato_soup_Library さんの記事を紹介しつつ、ユーモラスな小説について書きましたが↓
tomato_soup_Libraryさんがさっそく、それをまた記事にして下さいました。感謝。
今回の note 上での交流は本当に愉快でした。
それでせっかくなので、前回の記事では触れなかった僕の好きなユーモラスな小説をもう少し紹介したいと思います。
① 「おお、大砲」司馬遼太郎
小説の滑稽さと切なさと
先日、Tomato_soup_Library さんが、芥川龍之介の小説「河童」が実にユーモラスであるという事を書いているのを見つけ↓
同感するところが多かったので、それならばとコメント欄で、ユーモラスな小説として井伏鱒二の「山椒魚」と太宰治の「貨幣」と夏目漱石の「吾輩は猫である」をお勧めしたのですが、さっそくその三作品について、感想を書いていらっしゃる。↓
行動的な方だと感心しました。
どうやら
ロシアの小説家 リュドミラ・ウリツカヤの短編集「女が嘘をつくとき」
連休中にロシアの小説家 リュドミラ・ウリツカヤの短編集『女が嘘をつくとき』(沼野恭子訳) を読んだ。とても良かった。
6つの短編にはさまざまに嘘をつく女性が登場する。
その人物と嘘はそれぞれに異なるが、全話には共通の繋がりがあり、6つで一つの話であるとも云える。
訳者のあとがきによると短編集の原題は
という意味らしい。納得のいく題だ。
こんな言葉で、短編集は始まる。
作者が女性であること
藤子不二雄Aさんの漫画の思い出
藤子不二雄Aさんというと
なんといっても「魔太郎がくる!!」だ。
僕が生まれた年にはじまった漫画だけれど、小学校の時に流行ったのだ。
誰かが家にあるのを見つけて、皆で回し読みをした。
その残酷さ不気味さにドキドキしたし、同時にユーモラスでおかしくもあった。
ご冥福をお祈りします。
日本のマジック・リアリズム(改訂版)
団塊の世代 の錚々たる作家達(中上健次 1946年生まれ、立松和平1947年生まれ、津島佑子 1947年生まれ、永山則夫1949年生まれ、村上春樹1949年生まれ)の中で、なんといっても好きなのが津島佑子です。
盟友ともいえる中上健次*1 が「枯木灘」(1977年)、「鳳仙花」(1980年)と自身のスタイルを確立していった頃、津島佑子は短編「歓びの島」(1978年)、長編「山を走る女」(198
「食卓のない家」円地文子
食卓のない家/ 円地文子を読んだ。何ともそら恐ろしい小説です。
日本人の価値観を混ぜくり返そうという" 悪意 "を感じます。現実に起きた事件を題材にしている事は一見して明らかですが、実際には有り得ないような設定を潜り込ませています。そのことが返って、強いリアリティを喚起しているように思います。これが書かれた時、作者は74歳。その歳で、文学で何かを起こそうとするというのは、若気の
「罪と罰」ドストエフスキーの感性 (改訂版)
本文名作として名高いロシアの文豪 フョードル・ドストエフスキー の 「罪と罰」は、長らく僕の中で、好きな小説の2番手でした。
1番はチェコの作家 フランツ・カフカ の未完の長編小説「城」で、僕はこれを ドタバタ・コメディとして、笑いながら読んだのですが、ブックカバーの裏面に
との大仰な言葉があって、またも大笑いしてしまった。
あとがきには
とあるが、「城」はKが村を訪
アフリカの知恵 癒しの音
僕がへっぽこなりにも続けてきた西アフリカの太鼓ジェンベ Djembe(私の師によると正式名はJebe Bara)に関する本を紹介します。
「The Healing Drum - African Wisdom Teachings」 Yaya Diallo and Michell Hall とその翻訳「アフリカの知恵 癒しの音」(西アフリカのダンスの優れた踊り手である柳田知子さんの訳)て
「世界史の構造」とアフリカ文化
「世界史の構造」の著者・柄谷行人が書いた本を若い頃から読んで来ました。ほとんど全て読んでいると思います。文芸評論 から始まり、哲学、社会問題 など、縦横無尽に進んできた人だけれど、多くは決して読みやすくはない。難解と云っていいだろうと思います。なのに何故そんなに読み続けてきたかというと、何か言葉を受け取ったという感じがしたからだと思います。
若い頃、言葉で表現し難いものか