それはそうと、君はまだ童貞かい?

それはそうと、君はまだ童貞かい?

初対面でいきなり、「君は童貞かい?」はないだろう。 失礼だし、不穏だ。 迫られた側は、瞬時に勘ぐり、無駄に身構えてしまう。 はじめて話を交わす相手には、気をつかうのが礼儀だ。 脅威をあたえてはならない。 相手の私生活には深く踏み入らないのがエチケットであり、 政治・信条に関する内容は御法度、 セクシャルな言動も論外である。 そんな論外を、三島は当然のように『金閣寺』で描きだす。 以下に引用するのは、主人公である溝口が大谷大学に進学し、同級の柏木とはじめて会話をする場面で

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"くるぶし"まで8cmの金閣寺

"くるぶし"まで8cmの金閣寺

三島由紀夫の『金閣寺』をはじめて読んだのは高校3年。 感銘をうけた。語彙が豊穣で、文章も流麗。これはすごい作家だと思った。 が、その感銘はすぐに萎えた。神保町の古書店で、三島の写真集を見てしまったからだ。たとえば、こんな写真。 以来、三島の作品を読もうとすると、この裸体が頭をよぎり、どうしても、素直な気持ちで作品を堪能できなくなってしまった。 美文を読んで唸らされる。うんうんと咀嚼しようとする。と、次の瞬間、「ふんどしのマッチョが得意満面でこちらを見つめている」図が去来

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文豪作品が意外にとっつきやすかったことーつぶやき読書日記

文豪作品が意外にとっつきやすかったことーつぶやき読書日記

いわゆる「文豪」の作品も読みたいと思ったのが1,2か月前だったか。 そこから、まずは芥川龍之介の『羅生門』を読んだ。 未読だと思って選んだら、読んだことあったあったと思い出す。国語の教科書に載っていたのだと思う。おどろおどろしくて、臭気まで漂ってきそう。とても短いので、最初の一冊としてもよかった。NHKのウェブ記事で、動画付きで解説されているものを見つけ、理解の助けになった。 つぎに手をつけたのは、谷崎潤一郎の『細雪』。 純文学のオススメ10選としてウェブ記事で紹介されて

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『仮面の告白』の〈ゆらめき〉――「盥(たらひ)のゆらめく光の縁」はなぜ「最初の記憶」ではないのか

『仮面の告白』の〈ゆらめき〉――「盥(たらひ)のゆらめく光の縁」はなぜ「最初の記憶」ではないのか

   一 二様の声  『仮面の告白』(一九四九昭24・7、河出書房)の中には二様の声が響いている。それは〈まだわからなかつた〉という声と、〈理解しはじめてゐた〉という声である。では、何が〈わからなかつた〉というのか? ――むろん〈異常性〉が、すなわち自分が「倒錯者」(第二章)であるということが、である。ここでは、現在の「私」が過去の己れの行状を〈異常性〉の有無について逐一検証し、さらに、その時々における自覚の度合いをも問題としながら語るのだ、と見えるのだ。いわば、それが『仮

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『愛の渇き』の〈はじまり〉――テレーズと悦子、末造と弥吉、メディア、ミホ

『愛の渇き』の〈はじまり〉――テレーズと悦子、末造と弥吉、メディア、ミホ

 〈おわり〉は〈はじまり〉を知るが、〈はじまり〉は〈おわり〉を知らない。〈はじまり〉は〈おわり〉の出現によってつねに凌駕されるが、〈おわり〉にとって〈はじまり〉はなお不可欠の淵源である。〈はじまり〉の悪遺伝をかこつ者も、〈おわり〉の蛇尾に歯がみする者も、ひとしく前者から後者へと向かう流れの中にあるのだ。そして、それこそが生の方向だと思い知った者は、滔々たる流れに抗して、過去を想起し、未来に問いかけ、あわよくば流れを変えようとする企てをやめない。あるいは、生の時々において、逆ら

面白い本・好きな本_建築文学篇

面白い本・好きな本_建築文学篇

とうとう東京2020オリンピックが開幕。 そして、無観客での開会式。 でも、ランダムな座席配色のおかげで、不思議と無観客であることが気にならない。 木漏れ日をイメージした5色のアースカラーのシートのおかげで、距離や明るさによっては賑わっているように見えてしまう。 競技場を設計したのは建築家・隈研吾。 昔から「地方」や「木材」や「日本的」といった時代のニーズを掴むのがとてもうまい方。 今回はそれが「コロナ」となる。 当然運もあると思うんだけど、それでもやっぱり、すごいなぁ

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オリンピックの開会式は「シンデレラ」物語のように思えた。もしも午前0時を過ぎたら。かくて、聖火はともされた

オリンピックの開会式は「シンデレラ」物語のように思えた。もしも午前0時を過ぎたら。かくて、聖火はともされた

東京オリンピックの開会式が行われた。夜空には、国立競技場の明かりがポッカリ浮き上がっている。近くに明治神宮の森があり、そこは暗く彩られているので、なおのこと、国立競技場のライトが目立っていた。 57年前の1964年。かつて行われた東京五輪の開会式は晴れ渡っていた青空の下で行われていた。この時の様子を、作家たちは以下のように表現している。 堀口大学は「澄んで清いぞ 抜けるほど。」 井上靖は「日本列島は千二百年目の秋晴れです。」 石坂洋二郎は「十月十日は、前日まで天候が気づかわ

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【感想文】潮騒/三島由紀夫

【感想文】潮騒/三島由紀夫

『変人五衰』私と妻の間には二子がおり、長男は50歳を過ぎて職歴もなく、年子の娘も同様、日がな一日部屋に籠ってばかりいる。 私はとうに定年を迎えており収入はない。ならば、子が親を養えばいいのだが我が子はそれを請け合わない。仕方がないので、当座の家賃水道光熱費は私のカツアゲで工面し、食料雑貨類は妻の万引きで賄っている。とはいえ、いつまでこんな生活が続けられるというのか。年のせいであろう、今日のカツアゲは返り討ちにされた。妻も万引きGメンの徹底マークにより迂闊に手を出せないと嘆い

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三島由紀夫にみる悪の心理(9)ー5

三島由紀夫にみる悪の心理(9)ー5

戦争あっての平和  (9)―3,4で見た通り、水素爆弾による人類破滅の不可避性を説く羽黒の考えに対し、大杉は全くもって同意していた。しかしそれにもかかわらず大杉は、(9)―2末尾で見た通り、宇宙友朋会を組織し、円盤についての巡回講演会を始め、平和を説いている。それは一体なぜなのであろうか。  大杉は羽黒に対して次のように答える。 「『その通りです。その通り』と〔大杉〕重一郎は沈着につづけた。『大体人類に平和を与えようなどという企てが、どんなに奇妙な企てか、私自身がよく知っ

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古書コショ話

古書コショ話

谷崎潤一郎先生著書総目録、という書物がある。 これは1964年にギャラリー吾八から出版された和本で、谷崎潤一郎の著書の目録である。谷崎潤一郎は特装本や限定版が死ぬほど多い。その一覧が網羅されたカタログである。四冊からなるもので、美しい辞典で、限定234部、この目録自体が3万〜前後で取引されている。もはや、これも一つの作品である。私も一時期持っていたが、もう売り払ってしまった。 谷崎本は多すぎて、蒐集している人は大変だと思う。 私が谷崎本で持っていた最高額は、『悪魔』初版本の

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