739番 田中

中卒。元受刑者。4年の獄中で読書に目覚めました。当時の読書録に少し加筆してUPしてます…

739番 田中

中卒。元受刑者。4年の獄中で読書に目覚めました。当時の読書録に少し加筆してUPしてます。真面目にやってます。感想文はすべて【ネタバレ】です。独断と偏見に満ちているのを前もって謝罪します。こちらからのフォローは経歴がよくないので遠慮してますが、していただいたフォローはお返しします。

最近の記事

レイモンド・チャンドラー「待っている」読書感想文

ハードボイルドの大作家とは知っている。 現代の作家にもお手本にされていて、あちこちの本の作中で紹介もされている。 1回は読もうとは思っていたけど、今までに読んだハードボイルドって、それほど好きにはなれなかったので躊躇させていた。 しかしながら。 期待してない読書のほうがおもしろい場合が多々ある。 試しに読んでみた。 この本には、5編が収められている。 4つの中編と、1つの短編。 終わりにある短編の題名が『待っている』となる。 感想テイストがちがう。 今までなんだった

    • 瀬戸内晴美「女の海」読書感想文

      瀬戸内晴美を読まなければ。 のちの瀬戸内寂聴の『いのち』を読み終えて思った。 それを著す95歳の瀬戸内寂聴は、体の不調で書くこともできなくなりつつある。 ラストには自嘲する。 今まで400冊以上書いたがベストセラーがない。 もう片目が見えなくなっているし、ペンを持つ指も曲がっている。 それでも断筆することなく未練がましく書いていると、3ページほどとりとめもない。 が、最後の一文だけは力強い。 あの世から生まれ変わっても、私はまた小説家でありたい。それも女の。 こ

      • 浅田次郎「天切り松 闇がたり 第1巻」読書感想文

        天切りとは夜盗の手法。 深夜に大屋敷のてっぺんに上り、風に吹かれて腕を組んで、ズイッと仁王立など決めるのが劇的。 そして、瓦4枚を外して入り込んで盗る。 闇がたりとは、盗人の話法。 6尺四方から先には声が届かない。 松とは村田松蔵。 老齢の元夜盗。 9歳で盗人の一家に入った大正6年から大正12年頃までの、見たこと聞いたことが語られる。 「鼠小僧のそのまた昔、富蔵藤十郎が大内山の御金蔵からかすめ取ったる四千両。江戸の華てぇ荒芸を今日の今日まで伝えてきたこの松蔵が・・・」

        • ちばてつや「あしたのジョー」マンガ感想文

          実はよく知らないマンガだった。 よく見ると、55年前のマンガになる。 読んだことがないのに、読んだつもりになっている。 矢吹丈、力石徹、丹下段平という名前も、泪橋という交差点が明治通りにあることも、名言だってラストシーンだって知ってはいるのに、あらすじはよく知らない。 改めて読んでみた感想としては、全12巻のうち5巻終盤までの第一部がおもしろい。 矢吹丈と力石徹との対戦となる 力石のストイックさ、減量のすさまじさ。 その死で第一部が終わる。 どうしてボクシングのマンガ

        レイモンド・チャンドラー「待っている」読書感想文

          司馬遼太郎「草原の記」読書感想文

          空想に付き合っていただきたい。 という書き出し。 次に1行が空く。 モンゴル高原が天に近いということについてである。 と続く。 それからの語句のチョイスがいい。 天、空、馬、草、という語句が、モンゴル高原の様子を目に浮かばせる。 なんか詩的だ。 今回の司馬遼太郎は。 この本を目にしたときから、絶対におもしろいだろうなと思ったのは当たりだった。 というのも。 司馬遼太郎は、大阪外語学校で蒙古語を専攻していた。 作家になるずっと前から、モンゴルに興味を抱いていた。

          司馬遼太郎「草原の記」読書感想文

          又吉直樹「火花」読書感想文

          読んでみると、おもしろいの一言しか感想が浮かばない。 それでは読書感想文にならないので、もっと考えてみた。 まずは、文章のテンポがいい。 読んでいて気持ちがいい。 登場人物のセリフが、文章のアクセントになっているように感じるし、これは話すことを仕事としている人の成せる技なのかと思わせる。 148ページという短い物語の中に、20歳から32歳までの12年間の場面が、テンポよく流れるよう書かれて収まっている。 あとはなんだろう。 以外なおもしろさ、というのはある。 ギャップ

          又吉直樹「火花」読書感想文

          東野圭吾「手紙」読書感想文

          ほとんどの受刑者が読む本ではないのか? 差入れ本の中では、この『手紙』がダントツに多かった。 1週間に1冊か2冊は、差入れされてるのを見かけていた。 2年目からは図書係も兼ねていたから、この本を目にする度に『また “ 手紙 ” が入っている』とずっと思っていた。 受刑者は、差入れされた本は必ず読む。 好きじゃないから読まない、なんてことはない。 本とは、これほどうれしく感じるものなのか。 力が沸くものなのか。 いつも手にする度に思っていたし、皆の様子もそうだった。

          東野圭吾「手紙」読書感想文

          スティーヴン・キング「スタンド・バイ・ミー」読書感想文

          初めてのスティーヴン・キング。 映画の原作者とは知っていたし、3本ほど観ていた。 たまたまかもしれないけど、その3本とも、よくわからないまま話が進んで、やがて「軍がきた!」となって、やはりよくわからないまま終わるパターンだった。 それでいて、アメリカでは有名なホラー作家だという。 さらに10年はかかって、映画の『スタンド・バイ・ミー』の原作者でもあるとも自然に知った。 つまりは、興味もなかったスティーヴン・キングだった。 ホラー小説も読んだことがないし、オバケの類は苦

          スティーヴン・キング「スタンド・バイ・ミー」読書感想文

          渡辺淳一「泪壺」読書感想文

          渡辺淳一の短編集。 6作が収められている。 短編も好きだし、渡辺淳一も好き。 作品がというよりも、言っていることが好き。 いちばん好きな言葉はなんだろう。 「セックマルは決してエロではない、むしろ人間がいとおしく見える」あたりか。 2014年に80歳で死去したときに、新聞で紹介されていた。 元医者なのだなと、生への俯瞰を感じさせる。 だから渡辺淳一は、男女の性愛をエロの一言で済ませたりしないし、恥ずかしいことだと隠さない。 こんなにも堂々とセックマルについて語れる

          渡辺淳一「泪壺」読書感想文

          清水一行「苦い札束」読書感想文

          清水一行の初期作品。 6つの短編が収められている。 『昭和の経済事件史』と改題してもいい。 50年以上が経った令和になっても、同じような事件がおきているのが考えさせられる。 ※ 筆者註 ・・・ 以下、長めの要約となってます。もっと短くしようとあれこれしましたが無理でした。スキームを中心にした要約となってますが、本編ではもっと人間が書き込まれてます。清水一行作品に付き物の “ 女 ” も登場しますがカットしてあります。金額は当時のもので、現在に換算すると3倍から5倍に相当し

          清水一行「苦い札束」読書感想文

          清水一行「銀行恐喝」読書感想文

          『不正融資』と改題してもいい。 とある地方銀行の不正融資が描かれている。 1945年の終戦後から、1998年の平成10年にわたる時代の変化が、やがては不正融資となっていく。 作中には “ N県の西海市 ” とある。 これは、長崎県の佐世保市だとは10ページも読めばわかる。 巻末の解説では、同じく作中にある “ 西海銀行 ” とは ” 親和銀行 ” だと明かされている。 1998年の『親和銀行不正融資事件』だ。 元頭取らが、商法の特別背任容疑で逮捕されている。 翌年に

          清水一行「銀行恐喝」読書感想文

          清水一行「絶対者の自負」読書感想文

          清水一行は “ トップ屋 ” から小説家になった。 トップ屋とは、週刊誌が全盛期の昭和のフリーライター。 新聞が書かない特ダネを追い、派手に誌面のトップをとるから、当時は “ トップ屋 ” と呼ばれたとのこと。 それだからか。 事件や、スキャンダルや、不祥事を、暴くようにして書かれる小説が主となる。 人々が何に興味を持つのか、どこを知りたがるのか、並みの作家よりわかっていると感じる。 そんな清水一行の小説の特徴としては、金額がはっきりと何度もよく書き込まれているのを1

          清水一行「絶対者の自負」読書感想文

          石川拓治「奇跡のリンゴ」読書感想文

          無農薬でのリンゴ栽培がいかに難しいのか。 いや、絶対に不可能といわれていたのか。 誰も考えなくて、挑戦もしてない出来事だったのはよくわかった。 なぜ無農薬で栽培ができるのか、学術的な解説はほぼない。 そもそもが、解明されてない。 はっきりとわかっているのは、通常のリンゴの木の根は数メートルに対して、木村秋則(以下敬称略)のそれは20メートルはあること。 土の中の微生物が多いこと。 虫の生態系や雑草、病気や菌やカビが密接に絡まって無農薬のリンゴができること、とだけはわか

          石川拓治「奇跡のリンゴ」読書感想文

          落合信彦「20世紀最後の真実」読書感想文

          落合信彦は、世界各地へ取材に飛ぶ。 ニューヨークからカナダへ。 チリ、パラグアイ、ブラジル、アルゼンチンを回る。 そこからロスを経由して、西ドイツ。 小型機をチャーターして、デンマーク、ノルウェーへ。 “ その情報 ” をキャッチしてから、下調べと準備に2年間を費やしていた。 取材は1ヶ月に及び、1980年に『週間プレイボーイ』に連載された記事が本となった。 いったい “ その情報 ” とはなんなのか? 元ナチスの幹部である。 多くが南米に逃れているというのだ。

          落合信彦「20世紀最後の真実」読書感想文

          齋藤慎子訳「アランの幸福論」読書感想文

          幸福になりたい。 著者はまったく知らないが題名がいい。 前回に読んだ『超訳 ニーチェの言葉』の隣にあった本。 同じ出版社で、同じ重厚感がある装丁。 シリーズとなっているようだ。 手にとってペラペラ読みしてみると、1ページにひとつの言葉が抜粋されていて、意訳が数行あって、空白が多めになっている。 なにかひとつでも。 なにか心に残れば、と借りた。 噛みしめるようにして、じっくり読んだ。 通常の読書では、口に出す “ 音読 ” はしない。 が、あえて音読して、じっくり2時間

          齋藤慎子訳「アランの幸福論」読書感想文

          白取春彦編訳「超訳 ニーチェの言葉」読書感想文

          ニーチェの本となると、読む前から挫折しそうな気が。 でも避けて通れない。 その名前と、昔の哲学者とは知っている 官本室にあってマークしていた本となる。 春の日だった。 手にとってパラパラとめくってみた。 文字量は少なくて、余白が多い。 1ページには抜粋がひとつ。 そこに、数行の意訳があるだけの232ページ。 これだったら読めそうだ。 実際に1時間ほどでペラペラと読める本だった。 読んだはいいけど、どうも抜粋だと頭に入ってこない。 超訳すぎるかも、という感想だ。 1時

          白取春彦編訳「超訳 ニーチェの言葉」読書感想文