齋藤慎子訳「アランの幸福論」読書感想文
幸福になりたい。
著者はまったく知らないが題名がいい。
前回に読んだ『超訳 ニーチェの言葉』の隣にあった本。
同じ出版社で、同じ重厚感がある装丁。
シリーズとなっているようだ。
手にとってペラペラ読みしてみると、1ページにひとつの言葉が抜粋されていて、意訳が数行あって、空白が多めになっている。
なにかひとつでも。
なにか心に残れば、と借りた。
噛みしめるようにして、じっくり読んだ。
通常の読書では、口に出す “ 音読 ” はしない。
が、あえて音読して、じっくり2時間ほどかけて読み終えた。
が、なんだろう。
幸福になれる気が少しもしなかった、という感想だ。
少しもと強調したのは、本当に、まったく、幸福になれる気がしなかった。
だって、当たり前のことしか書いてないんだもん。
当たり前すぎる文章が延々と続く。
自分ですら、似たような言葉を、すぐに作れる。
ハラが減ったらメシを食え、とか。
汗をかいたら水を飲め、とか。
雨が降ったらカサをさせ、とか。
その類の言葉が、160ページに連なっている本。
感想
驚きがなかった。
「こんなひねくれた考えがあるんだ」とか「こんな突飛もない見方もあるんだ」という驚きが。
ひょっとして疲れているのか。
そんな気になったまま就寝時間となる。
朝起きてからは所々を読み返してみた。
が、やはり、幸福になれる気が少しもしない。
これはマズいのではないのか。
人として。
世界的名著である『幸福論』を読んでも、幸福になれる気が少しもしないなんて。
だから、こんな檻の中にいるんだと自己嫌悪にもなり、これはアランじゃなくて、訳者の齋藤慎子とやらがマズいのかもと責任転嫁もした。
原本の完全版の『幸福論』もあるので、そっちを読んでみたほうがいいのかもしれない。
よくよく考えるに、前回の『ニーチェの言葉』と比べてしまってもいる。
ニーチェは牧師の父親を持つ。
それなのにアンチキリストだった。
だから言葉に必死さがある。
が、アランはキリストに寄りかかって、祈りで心の平穏なんていって、すっかりと幸せになっちゃっている。
この差をはっきりと感じたのが、アランの言葉を、なおさらつまらなくさせた。
覚えるために筆記してみた
この、アランとヒルティとラッセルの『幸福論』が、世界三大幸福論といわれているという。
とにかくアランはつまらないという感想しかないが、せっかくだから覚えてみる。
読書録に筆記した。
まず、アランはペンネームだという。
エミール・オーギュスト・シァルティエ
1868年~1951年
83歳没
フランス、ノルマンディー地方モルターニュ生まれ
日本でいえば、明治元年生まれか。
最近といえば最近の人だ。
昭和まで生きているから、当時としては長生きだ。
多くの著者や論文を執筆した。
哲学教師の傍ら、約5000編を新聞や雑誌に寄稿する。
それらをまとめて、1928年に『幸福論』は発表された。
アランの言葉と感想
※ 筆者註 ・・・ 数行ほどの意訳を、さらに3行ほどにまとめてありますが、大きくはズレてないです。
「あくびをする」
あくびは、命の叫び、言うなれば健康を回復することでもあり、深刻な状況への拒否反応の現れである。
いわば、無頓着さを思い切り宣言しているようなものだ。
~ あくびの技術 ~
・・・ だからなんだと、ちょっとめんどくさそうなヤツだなという気がしないでもない。
「喜びは健康につながる」
喜びは、どんな名医よりも身体を健康にするのかがうまい。
病気への不安は、きまって健康を悪化させるが、その不安がもうなくなってしまうからである。
~ 健康のコツ ~
・・・ こんな言葉をありがたがっていた昔の人は、よっぽど不健康だっただろうかと心配になってくる。
「むやみにスピードを求めない」
列車のスピードが遅いというだけで、イライラとする乗客がいる。
誰だって1日に15分くらい、ぼうっとしたりする。
そのくらいの時間を、どうして列車に乗ってやり過ごすことができないのだろうか?
~ スピード ~
・・・ そうですようねぇ、としかいいようがなくて返答に困る言葉だ。
アランはなにをしたいのかと、こっちが悩んでしまう。
「窓の外の風景をながめる」
列車の中ほど幸せを感じるところはない。
すばらしい風景アルバムが次々とめくるように広がる。
これと並ぶながめがあるだろうか。
~ スピード ~
・・・ アランは列車が好き、というのはわかった。
幸せも感じていたのだろう。
しかしながら、読んでいるこっちは飽きてきている。
「まず行動する」
誰が選択をしたというのか。
ありえない。
だれも選択をせず、その前にただ行動してきたのである。
~ 宿命 ~
・・・ おそらく、哲学的な解釈したり、文学的な読解力が必要だとは思われるが、まあ、そこまでしなくてもなぁというのが正直な気持ちである。
「戦争は退屈から生まれる」
戦争には、おそらく賭けごとの要素がある。
その証拠に、いつだって、仕事や悩みの種がだれよりも少ない人たちが、いちばん好戦的ではないか!
~ 賭けごと ~
・・・ 戦争は武器があるから生まれるんでしょ、しっかりしろよと、アランの肩を揺すってやりたいところである。
「思いやりを持つ」
りっぱに人生を送ること。
悪いほうに感化したり、悲しみを大げさに言ったりすることで、他人や自分を傷つけないこと。
~ 上機嫌 ~
・・・ オマエはオレのお袋か!とアランの首を絞めてやりたい。
「天気の悪いときこそ晴れやかな顔をする」
ぶつぶついってもはじまらない。
雨のときは、なおさら晴れやかな顔を見たいものである。
~ 幸せに生きるコツ ~
・・・ この言葉がいちばんよかったかな、という感想である。
が、わざわざ本で読むものなのか、という疑問もある。
なんかこうパンチないままに、170の言葉が終わった。
パンチなど求めてはいけないかもしれない。
アランがおもしろくないのか。
抜粋すぎて、おもしろさが削げてしまったのか。
完全訳のほうがいいのは確かなようだ。
それとも、幸福をそれほど考えてなかったのか。
すべて混ざってもいるのか。
もしかして。
当たり前だと感じるということは、幸福になっているのか。
なんだかよくわからない読書だった。