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【エッセイ】 一瞬の出会い、永遠のお別れ―アイドル現場で考えたこと

【2270字】
何の話か分からなくて封印していたけど、この記事に出てくる女の子にまた会えそうなのでその記念に♡

あれから何年か経って、私は結局アイドル現場に戻ってきました。
今もたまにライブに行っています。



昔から、お別れが苦手。

地下アイドル現場に行きはじめた時も、最初はなかなかお別れに慣れなかった。
3年続けばベテランだと言われるような職業なので当たり前のように今生の別れが日々繰り広げられていたりする。
好きなのに、会いたいのにもう二度と会えないこともあるんだな、って思ったりして。

私は1回だけ地下アイドルの解散イベントに行ったことがある。
「明日から一般人に戻るから、もうこの名前では戻って来られないからね」みたいなことを静かな声で言っていて、それを聞いて彼女が1人で知らない街を歩いている姿が思い浮かんだりした。

突然知らない人みたいに見えて、そっか、ずっと◯◯ちゃんって呼んでいたけど本当の名前じゃないんだ。
なんにも知らなかったんだなあ、友達じゃないんだ、って当たり前のことを思ったりして。

もう二度と会えないと思うと急にいつもダンスを頑張っているところや優しくしてくれたことが次々に思い出されて視界が滲んだ。

大して推してなかったくせに何なのって思われないだろうか、と少し不安になって周りを見回したら、私より泣いている人がたくさんいた。

大人になってもお別れは悲しいんだな、私だけじゃないんだ。
と、ちょっと安心した。

最後に「幸せになってね」って声をかけて何それ結婚式? って自分でも思ったんだけど、アイドルを卒業する人にかける言葉っていつもそれしか思い浮かばない……

帰ってチェキを見返してみたら私より背が高い彼女が何枚もある全部のチェキで中腰になって写ってくれていて、これ絶対大変だったよね、ずっと優しかったなってまた切なくなったり。

そういえば帰り際に知り合いにいつものようにじゃあね、またね、と声をかけたら「推しがいないんだからもうライブには来ないよ」と何人かの人から返事が返ってきた。
そっか、友達じゃないからもう会わないんだなってまた当たり前のことを思って。

……急に足元がぐらぐらしてきた。

ここにはライブがなくても私に会いたいって言ってくれる人は誰もいないんだと気づいてしまったからだ。
家に帰って家族の顔を見たら安心して、ふいに、私はもうアイドル現場には二度と行かないだろうという予感がした。

一時期は仲良かったけど気付いたら連絡先も消息も分かんないや、みたいな広く浅い付き合い方って苦手……

そういえば、少し仲良くなったオタク友達が突然病んでSNSを全消ししていなくなってしまったこともあった。
その子がセブンティーンアイスの自販機の前で「小さい頃からずっとマカダミアナッツがいちばん好きなんだ」って教えてくれたのが嬉しかったから、今でもたまに自販機の前を通ると思い出す。

……マカダミアナッツ、買ったことないや。
買ってみようかな?

考えてみたけど、SNSでだけ交流している人が突然いなくなるのもやっぱり寂しい。
noteを使わなくなることもあると思うけど、たまに元気だよって呟いたりしてくれると嬉しいです。

大人になるとあまり態度に出さないだけで、みんな感傷的になることってあるんじゃないかな。

……どうですか?

井伏鱒二だって「勧酒」で「ハナニアラシノタトヘモアルゾ サヨナラダケガ人生ダ」って言ってたもんね。

最近雨の日になるとヨルシカの「雨とカプチーノ」ばかり聞いているんだけど、この井伏鱒二の漢詩訳の引用がいい感じに出てくる。
この曲に出てくる2人、エイミーとエルマにも悲しいお別れが来てしまう。

(そういえば初めてライブに当選した!めちゃくちゃ楽しみ)

さあ揺蕩うように雨流れ
僕らに嵐す花に溺れ
君が褪せないような思い出を
どうか
どうか
どうか
君が溢れないように

ヨルシカ「雨とカプチーノ」

最近読んだ本の中では荒川和久さんの「「居場所がない」人たち」が良かった。
縁が切れてしまった人といっしょにいた時間は無駄だったのかというとそういうわけではなくて、たとえ目には見えなくても、自分は関わった人によって少しずつ変わっていき、新しい自分になっていくのかなと思ったり。

今は川端康成と三島由紀夫の書簡集「川端康成・三島由紀夫往復書簡」を読んでいる。
2人は師弟関係でもあり親友でもあり、でも年下の三島由紀夫の自死の2年後に川端も亡くなってしまうので、それを知っていて読むとより味わい深い……。

昔から、お別れは寂しいので別れそうな人とは最初から付き合いたくなくて、でも別れそうにない人というのはぜんぜん見つからない。
だから恋は難しいなって思っていた。
でも私の謎の価値観は当然他人にあまり理解されず、試しに付き合うとかできる人は軽々と生きているように見えてちょっと羨ましかった。

何年か前に、ふと振り返ってみると5年前に私の周りにいた人は誰もいなくなっていて、あの頃は存在さえ知らなかった人といっしょにいて名前も知らなかった町に住んでいることに気づいた。

この前もnoteのフォロワーさんと永遠があればいいよね、って話をしてたんだけど。

幸せな毎日でもふいに「永遠に続くものってどこにもないから、この生活もいつか夢だったみたいに消えてしまうのかな」って思ってしまう瞬間があって。

だからこそ目の前のものを大切にしなきゃいけないんだろうな、と思うけどいまいちやり方が分からなくて今日はこれで良かったのかな? と眠る前に考えながら日々を生きている。

うーん。
どっかに落ちてないかな、永遠。



#なんのはなしですか

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