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社会が人間に厳しいのか、人間が社会を舐めているのか、それとも社会は「普通」なのか 宮口幸治/どうしても頑張れない人たち
最初に伝えておくと、非常に長いです。内容がとても濃厚だったので、読了からだいぶかかってのレビューとなりました。
わたしが働く学校は、通信制高校に在籍している子たちが学ぶ学校だ。だから、基本的に自由な時間に登校できるし、平日学校に来ず、友達と遊びに行くこともできる。
必要な単位さえ取得できれば、卒業は可能だ。
枠としてはそのくらいなので、サボれる子はいくらでもサボれるし、真面目にやろうとするとキリ
他人と距離を置くことと、他人への興味のなさを、一緒くたにしてはいけない 辻村深月/噛み合わない会話と、ある過去について
『噛み合わない会話と、ある過去について』
もうタイトルがね、秀逸。
しかも、タイトルだけでぐいぐい惹きつけてくるってだけじゃなくて、作品自体もしっかり「噛み合わない会話と、ある過去について」描かれているのだから脱帽です。
ジャンルは、「ホラー」としても過言ではないくらいの、恐怖感。
さらにその恐怖感といったら、ホラー映画なんかよりもよっぽど怖い。
じりじりと追い詰めてくるような切迫感。
浅くな
子どもを産むことにつきまとうあれこれに、現時点での答えを引き出してくれた傑作 川上未映子/夏物語
明日からまた仕事か、っていう気分で眠りにつこうとした、お盆休み最終日のこと。
この作品を、3分の2くらい読み終えた時だった。
主人公と重ねすぎたわたしは、久々に、一睡も出来ないっていうレベルで、眠れなくなった。
ここまで、「子どもを産む」ということに、ぐぐぐ、とフォーカスしていく作品だなんて思わなかった。
皮肉にも、わたし自身がその問題に、意図せずともぐぐぐ、とフォーカスしていた瞬間だったのだ。
あなたの生きづらさに寄り添ってくれる一冊 宇佐見りん/推し、燃ゆ
※この作品は2021年2月20日にブクログで記載したものです。コメントで多くの方の声を聴き、より多くの方に届いてほしいと思い、こちらでもご紹介させていただくことにしました。ブクログで背中を押してくれたみなさん、本当にありがとうございます。ブクログでのレビューはこちらです。
最近、女子高生の自殺が増えているという。
「小中高生の自殺、過去最多 コロナで大幅増、女子高生突出―文科省」
2020年
男性が口を噤むのではなく、男性の言葉を引き出す一冊になってほしい チョ・ナムジュ/82年生まれ、キム・ジヨン
「それで、あなたが失うものは何なの?」
一番刺さったのは、この部分だった。
キム・ジヨンこの名前は、韓国において1982年に出生した女の子の名前で一番多い名前だった。この作品は、その時代に産まれた普通の女性の、普通の物語を描いた小説である。
しかし、これはただの小説ではない。キム・ジヨンが、一人の女性として、男社会の中で必死にもがいて戦う物語。まるでノンフィクション、ドキュメンタリーのような筆
薄味で仕上げることのうまみ 島本理生/ファーストラヴ
1.作品全体のことタイトルの「ファーストラヴ」。
これが何を意味するのか。
由紀の大学時代のことか、と思った。
けれど、環奈とその母親の背景を知ったとき、一番最初に愛情をもたらしてくれる存在、もしくは、由紀の夫・我聞さんのような、一番の愛情をもたらしてくれる存在。
そういう意味が込められているのかなと。
この作品が、第159回直木賞を受賞した意味合い。
2018年という現代に、受賞した意味合い
飾らない苦悩と飾ることのたやすさ 若林正恭/表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬
リトルトゥースである。
オードリーのラジオは、いつも、何かしらの違和感を凝りほぐしてくれる。
寝不足の通勤電車で読んだ、DJ松永の解説。思わず嗚咽でも漏れてしまうのではないかと、焦りつつも読むのを止めることができなかった。だから、くしゃみと咳が同時に出てしまったようなふりをして、その場を乗り切った。自意識過剰である。
違和感と自意識。そんなものを常に抱えている人、この国で生きづらさを抱えてい
村田紗耶香さんの「殺人出産」の解説を勝手に書いてみた
先日読んだ衝撃作
村田紗耶香 / 殺人出産
文庫本なんですけど、解説が入っていなかったので、大変おこがましいのですが、ちょっと、解説を書かせていただくような気持ちで書かせていただけたらと思います。
本作品は、表題作「殺人出産」を含む4つの作品を収録した短編集。割合としては、表題作「殺人出産」が全体の3分の2を占めていて、他の作品は徐々に少なくなってゆく。最後の「余命」は約4ページほどだ。
"望まない妊娠"の背景にある複雑性にフォーカスした作品 辻村深月/「朝が来る」
先日、こちらの記事を書かせていただきました。
■概要
・性教育は「命」に直結する大切な教育。
・だけど日本では性に対する事柄を曖昧にしすぎて、性教育を下ネタのように捉えている。子どもへの性犯罪すら「イタズラ」というとんでもない言葉で片付けることができてしまう。
・例えば最近では繁華街でコロナウイルスの感染が広がることに対して、"いわゆる夜の街関連"という曖昧な言葉で片付ける。
・そういうやって性
最近の作品に共通する人間の浅ましさ、ドーナツはその象徴 湊かなえ/「カケラ」
ある少女の自殺。その自殺の背景とは。彼女をとりまく人たちが、一人語りをすることで徐々に浮かび上がってくる、少女の像。最後に明かされるその真相があまりにも衝撃すぎて、眠れなくなった。やっと眠れたのは朝方。外はようよう白くなりゆく。
先日の王様のブランチで、ネタバレすれっすれで紹介されていた本作品。湊さんもリモートで出演されており、この作品についての想いを語っておられました。
本中に何度も出てくる、
【感想】あなたの善意が、時に誰かの心を殺す凶器となるかもしれない。「流浪の月」/凪良ゆう
どこかに理性が残ってた。邪魔だった。
この、わたしの中にある理性のような、正義感のようなものはなんなのだ。
気づけば、「善意をふりまく側」になって読んでいた。
仕事でずっと、子どもと関わっている。中には、壮絶な環境で育った子もいる。だからたぶん、そっち側の立場で読んでしまったのだろう。その仕事をするために、国家資格だって取った。だからもう、感覚として染み込んでしまっているものがある。
資格取得の
【感想】〈生きる意味〉を考え尽くしたその先にある〈何があっても生きていく〉朝井リョウ「どうしても生きてる」
“死にがいを求めて生きているの”を読んでから約2年。
その作品からはものすごいエネルギーを感じて、わたしの中で、苦手だった作家さんが好きな作家さんになった瞬間だった。そんな、大切な大切な一冊。
そして、本作品“どうしても生きてる”。デビュー10周年という節目の作品にもなるようで、この作品からも並々ならぬエネルギーを感じた。
“死にがい~”では生きるための原動力、生きる意味、というところに焦点があ