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オルタナティヴな未來への跳躍

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こじらせ系作家による名刺代わりの記事一覧。すべてがフィクションかもしれないし、ノンフィクションかもしれないし、あるいはセミフィクションかもしれない。いずれにせよ言えることはただ一…
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サマー、ショートステイ

サマー、ショートステイ

 福祉業界に携わっていたことがある。

 職場は関東某所に位置するユニット型の特別養護老人ホーム。無資格未経験の、モラトリアム卒業からまだ日の浅いフリーター上がりにとって当施設での介護職員生活は、言うなれば全身をサンダーボルトに打たれたかのようなカルチャーショックの連続であった。

 ツチノコと見紛うほどのご立派な排泄物を「これどうぞ」と手づかみでお裾分けしてくださる心優しきマダムに、ベッド上でフ

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【祝】はんぺんチーズフライって、とってもエモーショナルな味がするんだね【編集部のおすすめ選出】

【祝】はんぺんチーズフライって、とってもエモーショナルな味がするんだね【編集部のおすすめ選出】

 掲示板に「210」の文字はなかった。

 つまり僕は、受験に失敗したらしい。

 同世代らの麗らかな声が響き渡る県立A高校玄関前。不合格なる酷な現実を前に、しかしそれでいて己が心はまるで鏡よろしく凪いでいた。

 何せ十五歳当時の僕ときたら分厚い参考書よりも電撃文庫や富士見ファンタジア文庫などの、いわゆるライトノベルを手に取る頻度の方が遥かに多かったわけであって、当然最悪のシナリオも想定内、いや

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八朔の月に、希う

八朔の月に、希う

 遺骨を抱いていた。二十歳の夏だった。

 葬儀終了後、斎場前のだだっ広い駐車場にて「ちょっと一服してくる」とのセリフと共に父さんから手渡された骨壺はまだほのかに温かく、いやむしろ熱いくらいで、両腕にはずしりと応える重みがあった。

 これが、骨になっちまった人間の重さか……。

 脳天に響かんばかりのセミのトレモロをBGMに、棺に入ったばあさんの新雪のように白い顔が曖昧模糊として脳裏に浮かび上

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生まれて初めての夜ふかしは、いつか観たサーカスよりもワクワクし、好きなコの横顔を盗み見る一瞬よりもドキドキした

生まれて初めての夜ふかしは、いつか観たサーカスよりもワクワクし、好きなコの横顔を盗み見る一瞬よりもドキドキした

 夜ふかしをしたことがない子どもだった。

 平日はもちろんのこと、たまの休日でさえ二十三時前後には鞴のような寝息を立てていた僕にとって、それ以降――つまり深夜帯は、言うならば存在しない時間だった。

 十五歳、中学三年の秋頃だったと思う。所属していた腐れサッカー部を総体敗退を期に引退してからというもの目に見えて体力があり余り、なかなかスムーズに寝つくことができなくなっていた僕は、このタイミングで

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AM2:50

AM2:50

「これ、昨日ブックオフで見つけたんだ。マジでパネェから」

 と登校早々、クラスメイトのデッパがアイボリーカラーの前歯を控え目に輝かせながら、僕にとあるCDを差し出してきたのは、高校一年の夏だった。

 デッパ――本名を高部と言う。前衛的かつ自己主張の強過ぎる前歯の持ち主である彼とは中学時代からのつき合いで、お互いにバンドキッズだという理由から、よくマイナーバンドのCDを貸し借りしていた仲だった。

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【祝】ロックンロールは鳴り止まないっ【編集部のおすすめ選出】

【祝】ロックンロールは鳴り止まないっ【編集部のおすすめ選出】

 衝撃。そんな陳腐な語彙では到底表現し切れない、まさにビッグバンにも似た脳内大爆発に、僕はわなわながたがたと四肢を震わせた。

 冬で、二十代半ばで、半ニートだった。

「最近の曲なんかもうっ! クソみたいな曲だらけさああああっ!」

 都内某ライブハウス。汗とヨダレと得たいの知れない汁がほとばしる、光に満ち満ちたステージ。そのド真ん中で、数千人の観客の前で、スクワイア・ジャグマスターをギャギャギ

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