桐原永叔 ( IT批評 編集長)
記事一覧
小林秀雄とエリック・ホッファー 機械文明と大衆、そして労働について
毎回、話題をかえて書きつづけてきたつもりが、このところはひとつの方向に知らず知らずのうちに執着しているのが、拙い原稿を読みなおすとみえてくる。それはきっと根っこのところで忘れえず抱えている哀しみや怒りを引きずり出してしまうせいだろう。
戦後を生きた知の巨人
最近、この記事を書きはじめるとき、前回までの振り返りからになることが多くなっている。それが悪いわけではないのだが、続きものを書きたいわけで
近代の超克/ポストモダン、歴史/生活、偏在/遍在
前回、すこし本道を離れて論じた「PERFECT DATS」はロングランをつづけている。その前(No.40)にはブギウギの笠置シズ子から京都学派、「Whole Earth Catalog」をめぐってユク・ホイの宇宙技芸まで触れてみた。今回は、その続きから。
日米開戦日の夜のジャズ
前々回、笠置シズ子と服部良一のブギウギから昭和の大衆音楽シーンを語ったのだったが、その際に参照した輪島裕介がその著書
何故なしに生きるということ 「PERFECT DAYS」と神秘主義
ここ数回は香港の哲学者、ユク・ホイの著書に感銘をいだいたことをきっかけに京都学派にあたり東洋思想の影響なんかを交えて、近代とテクノロジーについて考えを巡らせてきた。しかし、今回はちょっとばかしこのテーマは措く。
ヴェンダースが選んだもの
年末年始の休みにヴィム・ヴェンダース監督の映画「PERFECT DAYS」を観た。主演の役所広司が2023年5月のカンヌ国際映画祭で主演男優賞を、2004年の
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鈴木大拙からスチュワート・ブランドへ ホールアースは宇宙技芸論で語れるか?
現在、放映されているNHKの朝ドラ(連続テレビ小説)は「ブギウギ」だ。主人公のモデルになっているのは、「ブギの女王」と呼ばれた笠置シズ子である。今回はここから始めて、京都学派、「ホールアース・カタログ」を経てユク・ホイの宇宙技芸へと話を広げていく。
J-POPのDNAはどこからきたのか
笠置シズ子は言わずと知れた歌謡界の大スターだ。大阪の松竹少女歌劇団でデビューし東宝へ移籍、太平洋戦争を挟んで
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永劫回帰と再帰性、キッチュと偶然性 ミラン・クンデラから考える
ここ数年、わたしが考え書き残してきたのは、テクノロジーのあり方についてであった。そのために、あるときは技術の概説に目を通し、あるときは科学哲学を参照し、またあるときは経済学にあたった。しかし、それより前の数年はずっと芸術表現の価値──美のあり方と言ってしまうのも面映い──のことを考えていた。
存在で耐えられないのは“軽さ”なのか?
こんな書き出しで始まるのは今年の夏に亡くなった小説家ミラン・ク
新しい「大きな物語」のために ヒューマニズムを更新する試み
ちょっと前の記事で、人類史に注目が集まっているのは、大きな時代の変化の象徴ではないかと書いた。「ビッグヒストリー」といわれる新しい学問分野さえ誕生している。私たちが未来に向かっていくにはなにが必要か?
現代はどういう時代か
パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム武装勢力ハマスがイスラエルを急襲したのは2023年10月7日で、これに対しイスラエルが報復攻撃に出たのは翌8日のことだ。昨年のロシ
DX(デジタルトランスフォーメンション)の本当の未来
テクノロジーとはなにか? 生成AIが衝撃といえるような登場を果たして以来、テクノロジー論は日常会話にも確実に浸透してはじめている。いわく、仕事を奪われる。いわく、ただの道具だ。誰もが無関係とはいえなくなった。それがもっとも大きな出来事だろう。
いまそこにあるDX
GPT-3.5がリリースされて、とくにテクノロジーに関心のない人でもふれるようなって最初に危機感めいた話をきいたのは今年の1月だっ
刊行ラッシュの生成AI関連書で内生的経済成長を考えてみる
生成AIが喧しい。書店のビジネス書のコーナーにいけば「生成AI」「ChatGPT」とタイトルにある書籍が平積みされ、Amazonの検索窓に「生成AI」と入力すれば、技術専門書よりもビジネス書、新書でいっぱいになる。
生成AI関連書籍の刊行ラッシュ
この連載ではこれで数回連続になってしまうがChatGPTだ。昨年末あたりから始まったChatGPTショックが、現在は関連書籍の刊行ラッシュにつながっ
「沈黙」を知らないChatGPT 紋切り型と記号接地問題
この連載はChatGPTが人口に膾炙する以前から言葉をテーマにしてきた。それがAIを語るうえでも知能を語るうえでも重要なファクターであることはいうまでもない。私にとって最も重要なのは、言葉がこの世の中をつくっていることだ。
戦場の言葉
少し前になるが、芥川賞作家の丸山健二先生の講演会でモデレーターを務めさせていただいた。講演会は二部構成で、第一部では丸山先生の講演、第二部は「ウクライナの現状、
ChatGPTと言語ゲーム 似非インテリに欠けたる粋
ChatGPTの基礎的な技術になっている大規模言語モデル(LLM)は言語の集合であるコーパスを大量に学習する。かつてのように単語の意味や文法の論理といったルールを記憶するだけではえられなかった、大規模言語モデル(LLM)の成果こそ、今まさに人類を驚嘆せしめているものの中心ではないだろうか。
AIが人間の知性に近づいたことへの沈黙
人間の知的活動あるいは知能といったものは非常に複雑な構造と複合的
ヒューマニズムはテクノロジーを語れるか?
現在のAIを語るときに避けて通れない研究者がいる。ジェフリー・ヒントンだ。今月、私にとっては衝撃的なあるニュースが流れた。
第一人者の想定を超える進化スピード
ジェフリー・ヒントンはイギリス生まれのAI学者であり、第3次AIブームの火付け役となったディープラーニングを生み出し、そのディープラーニングの重要な手法である誤差逆伝播法(バックプロパゲーション)を開発したことでつとに有名である。
ヒン
映画『生きる-LIVING』は名画か? 官僚主義と“善”の陳腐さ
こうした論考を数年間つづけていると、信念のようにしていた考えがただの思い込み、もっと悪くして偏見に過ぎなかったと気づくことがある。そうした過誤に気づく瞬間というのは重要だ。その瞬間がもっとも思考が深くなるからだ。
黒澤へのオマージュから覗く小津
ノーベル賞作家のカズオ・イシグロが脚本を書いたことで話題の映画『生きる-LIVING』を観た。知られているようにこれは黒澤明が1952年に、志村喬を主
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科学技術と野球の150年
東京オリンピック、FIFAワールドカップカタール大会と時々の話題をさらうニュースについて書いてきた。となれば、今回もそんな話をするしかないだろう。ここでは時事性も取り込みながら、歴史を記しておきたいからだ。
プロ野球という神話
第5回目となるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表が実に14年ぶり、3回目の優勝を果たしたのは2023年3月22日のことだ。
日本は平日の午前中であっ
ChatGPTから考える身体と「心」
ChatGPTが話題をさらっている。これまでにない文章作成の能力をみなのものにし、この分野にさほど興味のなかった人たちにも触れられるようになって、AIの先端技術が人口に膾炙していく様を目の当たりにしている。
ChatGPTは前衛か?
これはChatGPTに「月に天ぷらが浮かぶという詩を詠んでください。」と入力した、その答えだ。よくできているとも思わないし、ましてや感動などとは程遠いが、詩の体を
脳の可塑性と自然の可塑性、または落語に救われた話
「尾籠(びろう)な話」という。もともとは、愚かで分別がないという意味の「痴(おこ)」という言葉に当て字してできた。なにが尾籠かといえば、排泄や排泄物と決まっているが、そのくせそういう話題の最初には、こんな洒落た言葉を使うというわけだ。
脳の機能はつくり直せる
長い入院をしていたことがある。2018年8月から11月にかけてだから、もう4年半も前だ。どうしてそうなったかといえば、近所の銭湯で脳梗塞
マルクス・ガブリエルと小沢健二 ニヒリズムとメランコラリズムを超えていく
前回の記事では、サッカーW杯での機械判定の導入がもたらすもの、人間の判断と機械の判断をめぐって考えた。記事をアップした直後、機械判定を象徴するプレーが発生した。それは2022年12月2日のことである。
機械の正しさと人間の道徳
その後、「三苫の1ミリ」と言われるようになる、機械によるジャッジのもっとも象徴的なシーンが生まれたのは、日本対スペイン戦の後半のことである。観戦していた多くの人たちがラ