桐原永叔 ( IT批評 編集長)

「IT批評」(https://it-hihyou.com/)編集長。トリプルアイズ取締役。幻冬舎メディアコンサルティング編集局長を経て、眞人堂株式会社創立。2010年、株式会社ソフィアホールディングス取締役就任。2019年、買収合併でトリプルアイズに合流。

桐原永叔 ( IT批評 編集長)

「IT批評」(https://it-hihyou.com/)編集長。トリプルアイズ取締役。幻冬舎メディアコンサルティング編集局長を経て、眞人堂株式会社創立。2010年、株式会社ソフィアホールディングス取締役就任。2019年、買収合併でトリプルアイズに合流。

    最近の記事

    文体を得ること、思索すること 純粋な観察と洞察の到達点

    前回の記事で私は「言葉を得ること、文体を得ることが私たちの生き方をすこしだけ救ってくれるのではないかと考えている。」と述べた。同時にとりあげたショーペンハウアーも「文体は精神のもつ顔つきである。」と述べている。文体を得ることは思索することなのか? 文体を持たないお説教について ショーペンハウアーの『読書について』(斎藤忍随訳/岩波文庫)をとりあげたのも前回であった。あれだけでは不十分の感が拭えないのでちょっと補っておきたい。ショーペンハウアーは同書で必ずしも読書そのものを

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      • 倍速視聴とビジネス教養本 世の中の生きづらさを生み出す素地

        私は現在、とあるAI系のベンチャー企業にいる。こんな記事を書いていることもあり、ときどき読書好きの若手社員が声をかけてくれる。ある日、エンジニアの彼が私のデスクにもってきた新書はにわかに話題になりはじめた1冊だった。 倍速視聴の限界効用 その新書は『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ——コンテンツ消費の現在形』 (稲田豊史著/光文社新書)である。2022年4月の刊行以来、重版をつづけ8月の時点ですでに7刷だ。今年を表す1冊に数えられるタイトルになりそうだ。

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        • 現代史のなかの宗教とテロリズム安倍元首相襲撃事件で考えたこと

          決して小さくはないオフィスが一斉にざわついた。「安倍さんが撃たれたって」。その一言の波紋はすぐに広がって不穏なものが充満するように感じた。2022年7月8日昼前のことだ。この記事は結局、ITとはかけ離れてしまった。あらかじめご了承いただきたい。 単独襲撃は右派の専売特許? 誤解を恐れずに言えば政治家へのテロ行為は、安全な日本国内においてもさほど珍しいものではない。2010年代にも数件が起きている。近年の事件のほとんどが過激派右翼による左派政治家への襲撃であった。いや近年に

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          • 神話の構造がエンパワーする“人間”への帰依

            前回、書いたように近代が神の物語から人間の物語の変換の時代だったとしても、私たちはまだ神話を求めている。それはエンターテイメントでも、マーケティングでも、もちろん信仰においても──。 『マイホーム山谷』のカタルシス 古くからの友人が今年度の小学館ノンフィクション大賞(第28回)を受賞した。友人だからという贔屓目を抜きにして非常に面白かったのだが、その理由を説明するとなっていろいろ考えるところがあった。 小学館ノンフィクション大賞を受賞したのは、友人である末並俊司さんの『マ

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            神と悪魔と、人間と。量子の世界は知的枠組みの何を変えうるのか?

            前回は量子コンピューター、前々回はメタバースをテーマにしてきた。それぞれのテーマが行き着くところはある種の宗教性、魔術性である。おそらくAIについての議論もそうだろう。先端テクノロジーの極地へは神のごとき存在を避けて進めないようだ。 ニーチェと神の死 哲学者のフリードリヒ・ニーチェが「神は死んだ」と述べたのは『ツァラトゥストラはこう言った』上下(氷上英廣訳/岩波文庫)のなかでのことだ。19世紀の終わり、第二次産業革命が進行するなかで、いよいよ近代化、産業化が世界に広がって

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            量子コンピュータをめぐるプラトン主義 アインシュタインとボーア、ペンローズとホーキング

            岸田内閣が先端テクノロジー分野を明確に国家戦略に位置づけると発表したのは3月のことである。「新しい資本主義実現会議」で策定されまとめられた実行計画には先端テクノロジーとして5つの分野を重点化している。そのなかで私の目を引いたのはAIと量子技術だった。 量子力学の成立に潜む思想的な対立 前回の記事の最後で、ペンローズの量子脳について触れた。イギリスの数理物理学者であり科学哲学者でもあるロジャー・ペンローズは人間の意識、脳の働きとは量子力学の知見によっていずれ解き明かされる。

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            私たちが目の当たりにする悲惨は真実の影なのか?

            前回の記事から1カ月が経った。書いたのはロシアがウクライナに侵攻した日(2022年2月24日)であった。ウクライナ寄り、あるいはNATO寄りのメディアを一概に信じることはできないが、戦域は拡大しつつもロシアは戦略的には失敗を重ねており国内での厭戦気分も高じているように見られる。 戦争がもたらすロマン、大きな物語この戦争についてさまざまな意見が交わされている。何があっても戦争はすべきでなく、祖国を捨てても逃げるべきとの意見も見られるが、多くはゼレンスキー大統領を支持するもので

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            歴史の終わりとウクライナ侵攻 シミュラークルとしてのメタバース

            これを書いている2022年2月24日現在、ロシア軍がウクライナへの侵攻を開始している。出てくる地名は前回記事で論じた 『ワーニャ伯父さん』の台詞にあるハリコフであり、エイゼンシュテインの映画史的名作「戦艦ポチョムキン」の舞台となるオデッサだ。私が想像のなかでのみで知る彼の地に戦火が迫っている。 四半世紀前に生まれた「仮想空間」のコンセプト 「メタバース」が世間を賑わしている。2021年10月、フェイスブックが社名を「Meta」と変更したことで一気にビジネスパーソンの注目を浴

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            「ドライブ・マイ・カー」と、 ワーニャ伯父さんとダーウィンの進化論

            昨夏からロングランを続けている濱口竜介監督の映画「ドライブ・マイ・カー」は、カンヌ映画祭で脚本賞を受賞したのに続き、アメリカでもアカデミー賞の評価に大きく影響を与えるといわれる賞を次々に受賞し、年が明けても劇場を大いに賑わしている。この映画を観て考えたことから話を始めよう。 映画「トニー滝谷」の示唆この映画「ドライブ・マイ・カー」は、村上春樹の短編集『女のいない男たち』(文春文庫)のなかの同名小説を原作にしていることは有名だ。当初はむしろ村上春樹の原作だと話題になったと記憶

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            常識を嘲笑うことができなければ、芸術も哲学も私たちをただ不自由にする

            年が明けた。いつごろからだろうか。私にとって正月がさして目出度いものでもなくなったのは。歳をとって面白みがなくなったこと、1年のインターバルを短く感じるようになったことなどを原因に、「またかぁ」の気分が拭えない。 一休とラース・フォン・トリアー これは室町時代の禅僧・一休宗純が詠んだ歌として有名だ。頭蓋骨を杖の先につけて正月の都を練り歩いたとの逸話もある。まことに破戒僧となるわけだが、これをもって一休を宗教者にあらざる狂人と決めつけるのはいささか早計である。なぜなら一休が、

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            都市にイノベーションは戻るのか? アフターコロナの都市論を想像する

            まるで景気循環のように、コンドラチェフ波動のように、新型コロナ感染者数の増減は波打つものであり、次の波も来ることもじゅうぶんに想定しておかなければならないが、現在のところ我が国のコロナ禍はひと段落している。これに合わせていつの間にか、以前ほどではないとはいえ満員電車も復活の兆しである。働き方改革を加速するテレワークというのは果たして束の間の夢だったのか──。 東京一極集中は終焉するか?新型コロナの感染者が増大して、最初の「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣」が政府から発出さ

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            知能はどこまで普遍的か? 「万能の学」としてのAI研究開発

            前回は、本文では触れてはいないピーテル・ブリューゲルの「子供の遊戯」をアイキャッチ画像に置いた。それはフーコーの議論と大いに関係するものであったがそこまで辿り着けなかった。今回はそのあたりから始めたい。 社会に内包された狂気ピーテル・ブリューゲルは中世ヨーロッパのフランドル(現在のオランダからフランスにまたがる地域)で活躍した画家である。中学校の美術の教科書に必ずでてくる「バベルの塔」の画家として日本でも有名で、数年前に東京都美術館で大規模な展覧会が開かれたときは、入場まで

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            街頭のAIカメラが迫る社会の成熟

            JR東日本が駅構内に設置した防犯カメラの運用をめぐって議論がおきたのは先日のことだ。ニュースになるとJR東日本は即座に撤回して議論もしりすぼみした。これに限らず近年、街角に設置されるカメラの台数は増加している。果たしてそれは私たちに利益をもたらすのか、それとも害をもたらすのか。街頭のカメラは、わたしたちの足元を照らす灯りなのか、それとも私たちを区分けする見えない壁なのか。 1 足元を照らす灯りと切り裂きジャック JR東日本が駅構内に設置した「防犯カメラ」は顔認証AIを搭載

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            情報ではなく信用が流通するデジタルアイデンティティーの時代

            「20歳までに共産主義に傾倒しない人間は情熱が足りない。20歳を過ぎて共産主義に傾倒する人間は知恵が足りない」と言ったとされるのは、かの有名なチャーチルだが、共産主義と同じく哲学にかぶれるのは若いうちというのが通り相場だった。ところが今、一見、青臭い哲学的な問いが重要な意味を持ちはじめている。それはAIという存在が私たちに問いかけているものでもある。 1 精製されない原油というメタファー ひと頃、ビッグデータが次代の資源となって経済覇権を左右するとさかんに言われた。やや乱

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            オリンピックが教えてくれるガラパゴス日本のDXのやり方

            これを書いているのは2021年7月29日。1年遅れで東京オリンピックが開催されている。思えば、新国立競技場のデザインでザハ・ハディド案が見直しされ、エンブレムでは盗作疑惑がもちあがり、コロナ禍で延期となれば、開会式演出の関係者の炎上騒ぎがつづき……。私は毎朝、電車で隈研吾の新国立競技場を車窓ごしに見る。今ここで起きていることはなんだろう? 1 オリンピックは政治と外交の延長である半世紀を生きてしまった私にとって、もっとも古いオリンピックにまつわる記憶はモスクワ・オリンピック

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            音楽産業はイノベーションの実験室

            音楽産業の変遷が面白いのは、それがカルチャーの変遷であり、ビジネスの変遷であり、テクノロジーの変遷であるからだ。もちろん、あらゆるコンテンツ産業は同時にこの3つを変革しながら時代を経ていくのだが、音楽は常に他の文化を先導して変化してきた。すくなくとも近代以降はそうだと言える。 1 複製というテクノロジーがつくった近代 ドイツの文芸評論家だったヴァルター・ベンヤミンが『複製技術時代の芸術』(川村二郎・高木久雄・高原宏平・野村修訳/佐々木基一編集・解説/晶文社クラシックス)を

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