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【無料】小説・詩など

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長編小説、超短編小説、実験小説、詩、、朗読ライヴの元ネタ、文体の研究などなど。多すぎてどれ読んでいいかわからない時は「【おすすめ】創作編」というマガジンをどうぞ。
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#文学

【超短編】もうだれも車を取りに来ることはない駐車場

【超短編】もうだれも車を取りに来ることはない駐車場

月極駐車場で車たちはおとなしくたたずんでいた。

どの車もうだれも取りに来ることはない。何日も、何か月も、もうずっとそうだった。

車というのは移動しないと存在価値がない。
だから、駐車場でずっと待つということは車にとっては緩慢に死んでいくのと同じだ。
はじめのうちは、主が現れないことをどの車も異変に感じ、そわそわしていた。
しかしもう、どの車も主との再会を諦め、眠るように、自らが自らの墓標となる

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【超短編】みてはいけないものでいっぱいの美術館

【超短編】みてはいけないものでいっぱいの美術館

みてはいけないものでいっぱいの美術館が話題になっている。

美術館に並ぶ彫刻のうち、いくつもに鉄の覆いがほどこされ、まるで工事中の建設物のように、警備員が立ちふさがり、何が隠れているかも全く分からないのだという。

「一瞬でも見たら目に毒が入る、っていう噂だけど」
「目だけから入る毒なんて初めて聞いた。普通は触るとかにおいをかぐとか、瘴気を吸い込むとかでしょ。近くに行っても問題ないのに、直接見たら

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「作者=主人公」と捉えられがち問題 ~綿矢りさ『インストール』を例に~

「作者=主人公」と捉えられがち問題 ~綿矢りさ『インストール』を例に~

先ほど、綿矢りさ『インストール』をオマージュした実験小説をアップしましたが、それの解説的な記事です。オマージュ小説を先に読まれることをおすすめしますが、こちらを先に読んでも楽しめます。そしてタイトルに興味があれば『インストール』が未読でも楽しめます。

先ほどアップした「綿矢りさ『インストール』が好きすぎてオマージュ小説を書いてみた」は、女子高生作家リサと話にツーショットチャットルームを訪れた客た

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綿矢りさ『インストール』が好きすぎてオマージュ小説を書いてみた

綿矢りさ『インストール』が好きすぎてオマージュ小説を書いてみた

『文壇のアイドル・リサちゃんがツーショットチャットルームを開設したよ! みんな気軽に遊びに来てね♪』2001年の文壇に彗星のごとく現れ話題をかっさらった17歳の女子高生作家・綿矢りさ。彼女の処女作「インストール」のオマージュ短編です。チャット文体なのですぐ読めます。5000字。「インストール」を読んだこと無くても楽しめるよ!

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リサさんが入室しました。
タカさんが入室しまし

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スタートラインでスカート履き

スタートラインでスカート履き

スタートラインでスカート履き。つまんない私。やむなく女に、うやむや、むしゃくしゃ、不確かなプランからアップデートアップデート待つステートメントはスペルマと手垢のすげえつまんねえの。すげえつまんねえのきた。ミートゥーはミートがトゥーマッチの略。私達が最早肉なのになぜ食べる必要がある?肉。みすみす逃すの? 記者会見。みたかい? いえ。面会謝絶のみずみずしい肉体。天涯孤独のミスお茶の水。ミューズはここに

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超短編小説 『春の旬』 (お題:春画)

超短編小説 『春の旬』 (お題:春画)

「春」を大事にかくまって展示室に飾る国と、のびのびと野放しにしてダダ漏れにさせている国のお話。2000字で語るスタイリッシュな寓話。

短いのですぐ読めます。お気軽にどうぞ。

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ようこそ。春を観に来られたのですね。もっと、奥まで。さ、おあたりになって。あたたかいですから、遠慮せず。……素敵でしょう。喜びが、こんなに素直に、たくましく、みずみずしく、

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はたから見たらごんぎつね

はたから見たらごんぎつね

bookshortsという、おとぎ話や民話や著作権の切れた物語をリメイクした短編を公募している賞があるのですが、月間優秀作に選ばれたものを転載しておきます。(サイトから既に読んでくれていた人はすみません)(書いた小説をひとところにまとめとかないと、分かんなくなっちゃうんですよね~…)

↓↓優秀作として掲載されているページはこちら

新見南吉「ごんぎつね」をリメイクしました。

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あなたはかわいい

あなたはかわいい

bookshortsという、おとぎ話や民話や著作権の切れた物語をリメイクした短編を公募している賞があるのですが、月間優秀作に選ばれたものを転載しておきます。(サイトから既に読んでくれていた人はすみません)

↓↓優秀作として掲載されているページはこちら

私は新見南吉「手袋を買いに」をリメイクしました。

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「人間ってほんとにこわいものなんだよ。人間はね、相手

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【超短編小説】『ツイハイ』

【超短編小説】『ツイハイ』

NovelJam 2018年2/10~12日の3日間、著者・編集者・デザイナーの三者がチームとなって小説を作り電子書籍出版をする合宿「noveljam2018」に参加しました。そこで完成した小説「ツイハイ」を、全文無料公開します。7000字程度です。

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「ツイハイ」

〈著者〉渋澤怜〈編集者〉ふじいそう〈デザイナー〉澤俊之

@Tu

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【中編小説】インターネットであそぼ

【中編小説】インターネットであそぼ



原稿用紙換算枚数:70枚(23000字くらい)

たしか3年くらい前に書いた小説です。

上記にも書きましたが、作中のかなりの割合を、小説家志望の女・リナと、ネットライターの確変マチ子のDMが占めています。リナが無職バンドマンのセフレから抜け出せず、お金も返してもらえず…という状況をマチ子が叱咤激励するシーンから始まります。

……と書くと、あらすじはわりとえげつない感じですが、最後は激エモで

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新しい小説を書きたい。シーンを作りたい。仲間が欲しい。

新しい小説を書きたい。シーンを作りたい。仲間が欲しい。

昨日のの記事↓↓の補足記事です。

昨日は
「私の愛する純文学が、インターネット時代において廃れかけていることが悲しい。でも、インターネット時代の今、早くて分かりやすいコンテンツが好まれるのは、時代の潮流だから仕方ない。だから「ネット時代にも読んでもらえる純文学」を作るしかないよ」という話を書きました。

昨日の記事は本当に、私の2018年の目標でありここ最近のnoteの集大成だし、リスクもとった

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「文学なんか今時読まれない」に全力で抗う。ネット時代にも読まれる文学を作る。

「文学なんか今時読まれない」に全力で抗う。ネット時代にも読まれる文学を作る。

上記タイトルが、今年の私の目標です。

・「ネットの文章は「質より量」」という風潮に違和感がある人
・小説(特に純文学)が好きな人、書いてる人
・「良い芸術を作っても食べていけない」という現実に憤りがある人

にはぜひ読んでもらいたい。

■こんにちは、「ライヴが出来る小説家」、渋澤怜です。私はもともとずっと純文学を書いていたのですが、

「小説、しかも純文学なんてウルトラマイナージャンルを読む人

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【長編小説】音楽の花嫁 19/19

【長編小説】音楽の花嫁 19/19

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通夜と葬式はつつがなく行われた。最後、煙となったおじいさんを火葬場の外から眺めると、やっと肩の荷が降りたように思って安心してしまった。葬式は疲れる。兄も同じように感じていたようで、慣れないスーツのネクタイを緩めてシャツを腕まくりして、「あちー」と言って手であおいだ。母はそんな私達を見ながらくすりと笑って、
「ねえ綾乃ちゃん、あのフルートどうしたの?」
と聞いてきた。
「うん?」

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