つじもとひでお

ビール会社に5年間務めたあと、キリスト教主義の高校で英語を教えました。部活動ではジャズ…

つじもとひでお

ビール会社に5年間務めたあと、キリスト教主義の高校で英語を教えました。部活動ではジャズバンドを指導していました。今は大学の学生寮の寮監をしています。みなさんがちょっとだけ幸せになれるような、本や映画の紹介、イラスト、エッセイ、小説、漫画を投稿してゆきたいと思います。

マガジン

  • イラストエッセイ 私家版パンセ

    ぼくは30年間の教師生活を送りました。その30年間、子供たちが元気になれるような言葉はないかなと考え続けて来ました。  そんな風にして考えた小さな思考の断片をご紹介します。  これらの言葉がほんの少しでも誰かの力になれたら幸いです。  週3回程度投稿いたします。

  • イラストエッセイ「読まずに死ねない本」

    ドストエフスキーとトルストイ、カフカ、ゲーテ、夏目漱石は全作読み、日本文学全集も通読しました。  学生時代は古代ギリシャ文学を専攻し、今まで文学を中心に何千冊もの本を読んできました。 その中で、何度も読み返したおすすめの本をご紹介したいと思います。

  • イラストエッセイ 北国の春

    北国の春に咲く山野草をご紹介します。

  • イラストエッセイ ぼくが住んでいる町 新潟県胎内市

    ぼくが住んでいる新潟県胎内市とその周辺の様子を、絵とイラストでご紹介します。

記事一覧

20240824 イラストエッセイ「私家版パンセ」 0045 迷宮体験

 観劇や読書、美術館巡りや音楽鑑賞は、一種の迷宮体験です。  迷宮体験とは、とある迷宮に入り込んで一定時間を過ごし、再び外に出た時、以前の自分とは違ったものにな…

20240821 イラストエッセイ「私家版パンセ」0044 読書について

 今日は、読書のすばらしさについてお話ししたいと思います。  読書はとても創造的な営みです。  まず、文字という記号を音声に変換するという作業を行います。  次に…

20240817 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」022 宮沢賢治「セロ弾きのゴーシュ」

 宮沢賢治の作品はどれも素晴らしいのですが、文学史に残る名作といえば「銀河鉄道の夜」。伝統的な日本文学と言っても良い情感あふれる作品は「風の又三郎」。  でもぼ…

20240809 イラストエッセイ「私家版パンセ」0043 「形式か破格か」自由は本当に人間を自由にするか

 形式を好むか破格を好むかと聞かれたら、ぼくは形式を好む方だと思います。  形式という制約の中で創造力が豊かに働くと信じるからです。形式とは普遍と言い換えても良…

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20240808 イラストエッセイ「私家版パンセ」0042 「認知特性」(見ることと聞くことは難しい)

 二十年近く、高校生や子供のジャズバンドを指導してきました。  ぼくはどちらかというと理論派で、言葉で説明するのが得意でした。  プロのミュージシャンの方たちが説…

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20240807 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」 021 ソルジェニーツィン「イワン・デニーソヴィチの一日」

 ソルジェニーツィンはドストエフスキーと並んで ぼくが一番尊敬しているソビエト・ロシアの作家です。  強制収容所で8年を過ごし、「収容所群島」「イワン・デニーソ…

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20240807 イラストエッセイ「私家版パンセ」0041 アリストテレスによる学問の定義によせて 雑感

 人間は古来、経験的知識を積み重ねてきました。黒雲が空をおおうと雨になるとか、新月と満月の時に大塩になるとか。  「こうすればうまくゆく」といった、いわゆるノウ…

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20240806 イラストエッセイ「私家版パンセ」0040 「死について」

 ギリシア神話では、「昼」は「夜」から生まれたとされます。  「死」から「生」が生まれる、というのは死と再生の神話でもあります。  カトリックの教会は基本的に墳墓…

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20240802 イラストエッセイ「私家版パンセ」0039 神について 自分の望まぬことこそ神のみ心である。

私家版パンセとは  ぼくは5年間のサラリーマン生活をした後、キリスト教主義の学校で30年間、英語を教えました。 たくさんの人と出会い、貴重な学びと経験を得ること…

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20240801 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」020 「ムーミン谷のすい星」トーベ・ヤンソン著

 ある日ムーミン谷にすい星がやってきます。  ムーミンはスナフキン、スニフらとおさびし山にある天文台に行って、すい星の調査をしようと思い立ちます。  道中、干上が…

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20240731 イラストエッセイ「私家版パンセ」0038 知恵と技術こそ何よりの財産

 豊かな人生を送りたいですね。  でも、「豊か」とは何でしょう?  普通、モノや金、財産がたくさんあることだと考えます。  実際、そのために多くの人が受験勉強をし…

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20240730 イラストエッセイ「私家版パンセ」0037 自分が絶対に正しいという人が一番間違っている 正義について

 正義論というものがあります。有名なのは、サンデル先生の白熱教室。  ロールズの正義論も有名です。  意外なようですけれど、よくよく考えてみると正義は絶対的なもの…

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20240729 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」019 「銀河鉄道の夜」宮沢賢治

 宮沢賢治を童話だと思ったことはないんです。  もちろん子供も読めますけど、大人も楽しめる。  宮沢賢治は昔の一般的な日本文学全集には収録されていませんでした。文…

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20240716 イラストエッセイ「私家版パンセ」0036 日本は二流国?

  命の危険にさらされた時、人は財産と自分の命のどちらを選ぶでしょうか?  間違いなく自分の命です。命は金で買えないからです。  戦後、日本はアメリカ(西側諸国)…

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20240725 イラストエッセイ「私家版パンセ」0035 「大文明と帝国そして日本文化」

 人類史上、偉大な文明と呼ばれるものがあります。  古代バビロニア帝国、ペルシア帝国、古代中国やローマ帝国、オスマントルコ帝国、フランスや大英帝国、そして今日の…

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20240724 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」018 「罪と罰」ドストエフスキイ

 ぼくの人生を二つの時期に分けるとすると、ドストエフスキイの「罪と罰」を読む以前と読んだ後ということになります。笑  勉強ができず、運動も得意じゃなく、本を読ん…

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20240824 イラストエッセイ「私家版パンセ」 0045 迷宮体験

20240824 イラストエッセイ「私家版パンセ」 0045 迷宮体験

 観劇や読書、美術館巡りや音楽鑑賞は、一種の迷宮体験です。
 迷宮体験とは、とある迷宮に入り込んで一定時間を過ごし、再び外に出た時、以前の自分とは違ったものになっている、という体験です。
 ちょうど一人の若者が迷宮に入り込み、ミノタウロスを倒した後、英雄となったテセウスの伝説のように。
 迷宮の中で行われるのは死と復活の儀式です。迷宮を経た後、人は新しい自己として再生します。
 人は人生の重要な事

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20240821 イラストエッセイ「私家版パンセ」0044 読書について

20240821 イラストエッセイ「私家版パンセ」0044 読書について

 今日は、読書のすばらしさについてお話ししたいと思います。
 読書はとても創造的な営みです。
 まず、文字という記号を音声に変換するという作業を行います。
 次に音声から具体的な事物や行動を思い描きます。
 この間、脳はフル活動しているんです。画像や動画を見るよりこの部分が多いわけです。
 文章は不完全です。ですから、登場人物の顔つき、表情、動き、背景、小道具など、全て自分の想像力で補ってゆかねば

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20240817 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」022 宮沢賢治「セロ弾きのゴーシュ」

20240817 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」022 宮沢賢治「セロ弾きのゴーシュ」

 宮沢賢治の作品はどれも素晴らしいのですが、文学史に残る名作といえば「銀河鉄道の夜」。伝統的な日本文学と言っても良い情感あふれる作品は「風の又三郎」。
 でもぼくは「セロ弾きのゴーシュ」が個人的には一番のお気に入りです。

 アニメにもなっていますし、エンターテイメント作品としても構成がしっかりしていて完成されています。
 ぼくが好きな点は、ゴーシュに賢治の人間臭さが現れている点です。

 楽団で

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20240809 イラストエッセイ「私家版パンセ」0043 「形式か破格か」自由は本当に人間を自由にするか

20240809 イラストエッセイ「私家版パンセ」0043 「形式か破格か」自由は本当に人間を自由にするか

 形式を好むか破格を好むかと聞かれたら、ぼくは形式を好む方だと思います。
 形式という制約の中で創造力が豊かに働くと信じるからです。形式とは普遍と言い換えても良いかも知れません。あるいは制約と言っても良いでしょう。
 「シャボン玉」の歌は我が子を失った悲しみを歌っているそうです。
 「悲しい!」という叫びは個人的なものですけれど、その悲しみを形式の中に当てはめることによって、普遍的な芸術になった。

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20240808 イラストエッセイ「私家版パンセ」0042 「認知特性」(見ることと聞くことは難しい)

20240808 イラストエッセイ「私家版パンセ」0042 「認知特性」(見ることと聞くことは難しい)

 二十年近く、高校生や子供のジャズバンドを指導してきました。
 ぼくはどちらかというと理論派で、言葉で説明するのが得意でした。
 プロのミュージシャンの方たちが説明したことを、子供たちにも分かるように言い換えるのも得意で、重宝がられたこともありました。

 音楽のアプローチも、まず「サイクルオブフォース」を教えて、なぜ一オクターブに12の音があるのかを説明します。
 そして、12の調性があることを

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20240807 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」 021 ソルジェニーツィン「イワン・デニーソヴィチの一日」

20240807 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」 021 ソルジェニーツィン「イワン・デニーソヴィチの一日」

 ソルジェニーツィンはドストエフスキーと並んで ぼくが一番尊敬しているソビエト・ロシアの作家です。
 強制収容所で8年を過ごし、「収容所群島」「イワン・デニーソヴィチの一日」でノーベル文学賞を受賞しました。

 ノーベル賞作家ということと、ソビエトの強制収容所を描いたということで、冷戦さなかの1970年代には西欧で大ブームになりました。西側による反共産主義のプロパガンダに使われたのだと今では思いま

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20240807 イラストエッセイ「私家版パンセ」0041 アリストテレスによる学問の定義によせて 雑感

20240807 イラストエッセイ「私家版パンセ」0041 アリストテレスによる学問の定義によせて 雑感

 人間は古来、経験的知識を積み重ねてきました。黒雲が空をおおうと雨になるとか、新月と満月の時に大塩になるとか。
 「こうすればうまくゆく」といった、いわゆるノウハウものも経験知になります。
 しかしアリストテレスはこれを学問的知識とは認めませんでした。
 学問の祖であるアリストテレスは、学問的知識とは「原因」を問うものと定義しました。
 つまり、新月と満月には大潮になることは知っている。しかし何故

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20240806 イラストエッセイ「私家版パンセ」0040 「死について」

20240806 イラストエッセイ「私家版パンセ」0040 「死について」

 ギリシア神話では、「昼」は「夜」から生まれたとされます。
 「死」から「生」が生まれる、というのは死と再生の神話でもあります。
 カトリックの教会は基本的に墳墓だと思うのです。
 教会堂に死者を葬ることは初代教会からの伝統だったし、ローマ時代の教会は信徒の墓であるカタコンブを内包していました。
 しかし何より御堂にはイエスの御聖体が安置されている。つまり教会はイエスの墓なのです。
 カトリックの

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20240802 イラストエッセイ「私家版パンセ」0039 神について 自分の望まぬことこそ神のみ心である。

20240802 イラストエッセイ「私家版パンセ」0039 神について 自分の望まぬことこそ神のみ心である。

私家版パンセとは

 ぼくは5年間のサラリーマン生活をした後、キリスト教主義の学校で30年間、英語を教えました。 たくさんの人と出会い、貴重な学びと経験を得ることができました。もちろん、本からも学び続け、考え続けて来ました。 そんな生活の中で、いくつかの言葉が残りました。そんな小さな思考の断片をご紹介したいと思います。 これらの言葉がほんの少しでも誰かの力になれたら幸いです。

20240801 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」020 「ムーミン谷のすい星」トーベ・ヤンソン著

20240801 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」020 「ムーミン谷のすい星」トーベ・ヤンソン著

 ある日ムーミン谷にすい星がやってきます。
 ムーミンはスナフキン、スニフらとおさびし山にある天文台に行って、すい星の調査をしようと思い立ちます。
 道中、干上がった海底を歩いたり、地底の川を渡ったり、スノークのお嬢さんを救ったり、さまざまな冒険をくりひろげます。
 森の中で小さな生き物たちの夏至のお祭りがあったり、まるで夢の中を旅するような素敵なお話。

 ムーミンシリーズの魅力は何といってもそ

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20240731 イラストエッセイ「私家版パンセ」0038 知恵と技術こそ何よりの財産

20240731 イラストエッセイ「私家版パンセ」0038 知恵と技術こそ何よりの財産

 豊かな人生を送りたいですね。
 でも、「豊か」とは何でしょう?
 普通、モノや金、財産がたくさんあることだと考えます。
 実際、そのために多くの人が受験勉強をし、良い学校に入り、良い会社に就職しようと頑張っています。日本中がこの価値観で、子供の時からずっと努力しているんです。
 勉強も仕事も全て豊かになるため、と言っても良い。

 何でも金で買える世の中ですけれど、お金で買えないものもあります。

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20240730 イラストエッセイ「私家版パンセ」0037 自分が絶対に正しいという人が一番間違っている 正義について

20240730 イラストエッセイ「私家版パンセ」0037 自分が絶対に正しいという人が一番間違っている 正義について

 正義論というものがあります。有名なのは、サンデル先生の白熱教室。
 ロールズの正義論も有名です。
 意外なようですけれど、よくよく考えてみると正義は絶対的なものではなく、立場によって違うものだということが分かります。
 「ポイントを切り替える難問」というものがありますよね。暴走列車が数十人の路線作業員のところへ突っ込もうとしている。あなたはポイントの切り替えスイッチを持っている。切り替えると、暴

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20240729 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」019 「銀河鉄道の夜」宮沢賢治

20240729 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」019 「銀河鉄道の夜」宮沢賢治

 宮沢賢治を童話だと思ったことはないんです。
 もちろん子供も読めますけど、大人も楽しめる。
 宮沢賢治は昔の一般的な日本文学全集には収録されていませんでした。文学とはみなされていなかったんですね。今は、ちゃんと収録されるようになりましたけれど。
 いわゆる日本文学(純文学)の幅が狭かったんだと思います。

 漫画は今、市民権を得ています。でも昭和の頃、手塚治虫、白土三平、水木しげる諸先生が活躍さ

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20240716 イラストエッセイ「私家版パンセ」0036 日本は二流国?

20240716 イラストエッセイ「私家版パンセ」0036 日本は二流国?

  命の危険にさらされた時、人は財産と自分の命のどちらを選ぶでしょうか?
 間違いなく自分の命です。命は金で買えないからです。
 戦後、日本はアメリカ(西側諸国)の同盟国として、あらゆる紛争、戦争に多額の金を出しました。
 けれども、どれだけ多くの金を払っても決して尊敬されることはありませんでした。
 武士道精神においても、騎士道精神においても、自らの命捧げること以上に崇高な行為はありません。
 

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20240725 イラストエッセイ「私家版パンセ」0035 「大文明と帝国そして日本文化」

20240725 イラストエッセイ「私家版パンセ」0035 「大文明と帝国そして日本文化」

 人類史上、偉大な文明と呼ばれるものがあります。
 古代バビロニア帝国、ペルシア帝国、古代中国やローマ帝国、オスマントルコ帝国、フランスや大英帝国、そして今日のアメリカの文明。
 面白いのは、これら大文明がほぼ例外なく帝国であったということ。

 帝国とは、皇帝が支配する権威主義国家というイメージがありますが、むしろ多くの民族、言語集団を支配する強力な政治体制と定義した方が良いと思います。少し前で

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20240724 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」018 「罪と罰」ドストエフスキイ

20240724 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」018 「罪と罰」ドストエフスキイ

 ぼくの人生を二つの時期に分けるとすると、ドストエフスキイの「罪と罰」を読む以前と読んだ後ということになります。笑
 勉強ができず、運動も得意じゃなく、本を読んだこともなく、漫画ばかり見ていて、何事も長続きせず、何をするにもめんどくさく、努力が嫌いで、根気もない。褒められもせず、苦にもされず、まあ、のび太くんのような子供でした。
 そんなぼくが都立高校に進学したのですが、そこはいわゆる底辺校。時代

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