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20240807 イラストエッセイ「私家版パンセ」0041 アリストテレスによる学問の定義によせて 雑感

 人間は古来、経験的知識を積み重ねてきました。黒雲が空をおおうと雨になるとか、新月と満月の時に大塩になるとか。
 「こうすればうまくゆく」といった、いわゆるノウハウものも経験知になります。
 しかしアリストテレスはこれを学問的知識とは認めませんでした。
 学問の祖であるアリストテレスは、学問的知識とは「原因」を問うものと定義しました。
 つまり、新月と満月には大潮になることは知っている。しかし何故それが起こるのかを究明するのが学問であるというのです。

 アリストテレスはさらに、原因には本質、質料、始源、目的の四種類があると説きました。例えば宇宙が何故存在するのかということについて、宇宙の物理的法則を明らかにするのが本質。どのような物質で出来ているのかを解明するのが質料。どのような歴史を経て今日の姿になったのかを考えるのが資源ということになります。
 興味深いのは、アリストテレスは原因の中で最も大切なものは四番目の目的だと言うんですね。つまり、何のために宇宙は存在するのか?
 アリストテレスは答えを持っていました。
 その目的は善であると。
 つまり、宇宙が存在する目的は「善」であるというのですね。
 
 現代の学問、科学ではこの四番目は重視されません。むしろ、学問、科学の対象から外されています。それは宗教、哲学の守備範囲ということなのでしょう。
 しかし全ての事象には目的がある。この考えは重要だと思います。
 特に人間社会を見る上では。
 人生を生きる上では。

 AIは正解を出すが、なぜその結論に至ったのか説明できないといいます。
 アリストテレスの定義からすれば、これは学問ではありません。
 経験知ということになります。
 AIの出した結論の「理由」「原因」を探ることがこれからの科学の主流になると言われているのは、興味深いですね。

 もう一つ、人間が何かを認識する時、因果関係によってしか認識できないという、いわゆる人間の持つ認知バイアスがアリストテレスにも見られる点も興味深い。
 クモは因果関係を知らなくても巣をつくる。
 学問的知識が万能ではないということです。

 養老孟子先生は、現代人は「ああすればこうなる病」にかかっていると言い、これをバカの壁と呼んでいます。
 物ごとの因果関係は全て明らかになるはずだというバイアスのことです。
 例えば、良い学校に進学すれば幸せになれるはず、のような。

 人間は複雑系を理解することはできません。
 事象の原因は複雑にからまりあっており、単純には説明できない。
 事象の真の目的も分からない。そこは宗教に頼るしかありません。
 人間は何も知らない。
 結局、ソクラテスの無知の知に行きつくことになるのかも知れません。

オリジナルイラスト アリストテレス




 


私家版パンセとは

 ぼくは5年間のサラリーマン生活をした後、キリスト教主義の学校で30年間、英語を教えました。 たくさんの人と出会い、貴重な学びと経験を得ることができました。もちろん、本からも学び続け、考え続けて来ました。 そんな生活の中で、いくつかの言葉が残りました。そんな小さな思考の断片をご紹介したいと思います。 これらの言葉がほんの少しでも誰かの力になれたら幸いです。

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