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琴線に触れた言葉

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とっても個人的に読んでグッと来た、時には泣いた、そんな大切にしておきたい投稿を集めました。
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記事一覧

出生前診断をせずに、三人目を産むことを決意するまで

出生前診断をせずに、三人目を産むことを決意するまで

雪が舞う朝だった。
毛布に包んだ二女を抱えて、私は近くの病院へ駆け込んだ。娘は昨夜から急に高熱を出し、呼吸が荒くてゼーゼーいっている。

当時5歳だった娘は、インフルエンザに罹っていた。彼女はもともと感染症に弱くて重症化しやすい身体のため、奥のベッドですぐに点滴の処置が始まった。

私も昨夜から少し熱っぽかったので、念のために検査をお願いした。思った通り、私もインフルエンザに罹患していた。

私の

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承認欲求は、存在欲求を満たせない。

承認欲求は、存在欲求を満たせない。

娘がブラック企業で働いていて、家でしくしくと泣くことが増えたんです。頑張れって言い過ぎることもどうかと思って、この前、娘の背中に一時間くらい手を当ててみたんです。手当てって言葉もありますが、長い時間娘の背中に手を当てていたら、彼女の辛さや苦しさが伝わってきて、話しているだけではわからない感覚を感じることができて、なんだかすごいよかったんです。ずっと手を当てていたら、最後の方、ふわっと自分の手が軽く

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ホームをレスした話(8)

ホームをレスした話(8)

重く考えるな。軽く生きろ。

人間、生きているとどうしても「自分と似たような境遇の、自分と似たような人々」ばかりと過ごすことになる。小さな世界でまとまってしまう。が、家なし生活はその垣根をぶち壊した。普段だったら出会わない人々、会社員だけではなく風俗関係や極道関係の方々、あるいは、表面的には普通に見えるようでも「蓋をあけてみたら結構やばい」人々との出会いに恵まれた。

日に日に批判も増えた。お前み

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ことだまり 《ひと色展》

ことだまり 《ひと色展》

泣いているの?

え、どうして?
そう答えたけれど、顎からしたたる水滴に自分自身が一番驚いた
私、泣いてるの?
そう聞いたら、彼女はほんの少し首を傾げながら静かに微笑んだ

泣いてはいけなかった
泣くとオオカミがその匂いを嗅ぎつけて食べにくるから
兄弟が1人、また1人と食べられて行くのを、私はずっと時計の中から見ていた

助けて、お母さん助けて!

そう叫んでいる兄弟を助けることができなかった

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風が吹いていた

風が吹いていた

長く長く続く一本道は、先が見えない。

来る時には途方もなく感じた距離は、

帰りには驚くほどに大したことなく感じる。

経験とは、人の感覚を簡単に変える。

3月30日の私と、4月1日の私でさえこうも違う。

4月1日。三番目の息子の引っ越しを終えて、私達夫婦はその日に自宅への帰路につくことにしていた。

朝、3人で近所で美味しいと評判のパンと

甘いカフェオレを飲んだ。

ただしくは、息子はパ

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寂しさの見方

寂しさの見方

4月になった。

いつもこの時期になると思い出すことがある。
かれこれ15年前になる。

私の息子は年子で二人。

長男が進学で家を出た翌年には
やはり進学で出て行く二男を見送った。

灯りのともらない家に帰るのは辛いかな?
と、想像したりしていたが、
仕事でクタクタになって帰ることもあり、
毎日、まったく淡々としていた。

彼らの夕食のことを考えなくていい分、
むしろ、どこか気楽さもあった。

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自己紹介(追記)と虹の船

自己紹介(追記)と虹の船

こんにちは。
いつも読んでいただき、「スキ」や「コメント」を残して下さるnoteクリエーターの皆様、いつもありがとうございます。

そして何かのご縁で初めて記事を目に留めて下さる方、はじめまして、
ぞうさん。と申します。

以前、新年のご挨拶も兼ね簡単な自己紹介を書かせていただきました。

その際書ききれなかったこと、お伝えしておきたいなと思っていること、そして日頃の感謝の気持ちをどうにか伝えるこ

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掌編小説【王様のバナナ】

掌編小説【王様のバナナ】

お題「バナナ」

「王様のバナナ」

ちいさな男の子が黄色い三輪車に乗っている。男の子の名前はハルト。ハルトは黄色が大好きだ。黄色いズボン、黄色い帽子、そしてバナナ。
バナナ?
そう、ハルトはバナナが大好きだから、おかあさんはいつもおやつに二本持たせてくれる。一本はハルトのために。もう一本は一緒にあそぶかもしれない友だちのために。
ちりりん、ハルトは三輪車のベルを鳴らしながら、通いなれた近所の公園

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人生のスポットライト

人生のスポットライト

💡これは数年前に、急に書きたくなって書いた記事です。ずっとパソコンの中で眠っていました。
今回リライトしながら、20年前の出来事に想いを馳せることができました。
noteの海にいる皆さまに読んでいただけたら幸いです💐

東京の病院で、看護師として病棟勤務をしている時のおはなし。

スポットライトへの憧れ

看護師は裏方の仕事が多い。
裏方よりも「縁の下の力持ち」と言ったほうが似合うのかもしれ

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「ロックンロールとキリスト教」

三浦綾子の小説に影響を受けた私は、キリスト教の教えに興味を持つようになった。20歳を過ぎた頃、東京でイラン人の牧師と出会った。その人はイランでストリートチルドレンとして生活し、弟たちの面倒を見るために窃盗や強盗を続けた。喧嘩が強くなければ生きていけないため、腕を磨き続けた。それが功を奏して、レスリングの世界大会に出場するようになった。だが、母国で戦争が起こり、軍人として戦地に赴いた。戦場は悲惨だっ

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サザエさんの息子

サザエさんの息子

「サイフを忘れて愉快な…」ことなんて、しょっちゅうだった。

ボクの母ちゃんは、

ちらし寿司を作って桶ごと冷ましていたら、
玄関でピンポンと鳴って「はーい」と足をつっこんだ。

テレビの視聴者プレゼントに応募しようと、
スーパーのチラシの裏に大事に応募先をメモっても、
必ずどこかへ失くした。

家に来客があったとき、
うっかり犬のご飯を作る鍋でお茶を沸かした。

あわてんぼで、おっちょこちょいだ

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表現してもしなくても。ここにいる理由なんて探さなくても、いいよ。

表現してもしなくても。ここにいる理由なんて探さなくても、いいよ。

昨日、書くために書かないようにしたいと

つぶやいて、noteをお休みした。

この「書くために書かない」問題ってわたしの

なかでいつも渦巻いている。

書きたいのに書けないとかでもなく。

書けそうなのだけど、その書きたいは

ほんとうに今言わなければいけない

ことかなって思うと、後ずさってしまい

たくなるようなそんな気分だ。

無理に書いてしまうと、ぼやけるのだ。

たぶん、書いているも

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【“それくらいで”なんて、そんな言葉で他者の痛みを片づけていいわけがなかった】

【“それくらいで”なんて、そんな言葉で他者の痛みを片づけていいわけがなかった】

自分以外の人間の痛みに、ひどく鈍感だった。

誰かの痛みに躊躇いなく「No」を突きつける。過去、私はそういう人間だった。他者の悲鳴を耳にするたび、「これくらいで」と思っていた。10代の終わり頃、私は自分の痛みを武器に、無意識で人を殴っていた。



虐待サバイバーである私は、過酷な原体験ゆえに心身に数多くの支障を抱えている。主にメンタル面がうまくコントロールできず、時々欠ける記憶にも振り回され、

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サイコロの転がったその先で

サイコロの転がったその先で

先日、メキシコシティ在住の日本舞踊師範でファッションデザイナー・木原直子さんにインタビューをさせて頂いた。

偶然の出会いから生まれたこのインタビューに、わたしはこれから一生忘れない、「生きるヒント」を教えてもらった。



実は、わたしを直子さんに出会わせてくれたのは、直子さんの夫・準さんだった。準さんが院長を務める歯科医院はわが家のすぐそばにあり、1年以上前から歯の治療をしていただいていた。

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