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【1980年代のアーバン・ブルース】 映画『フラッシュ・ダンス』エイドリアン・ライン監督

映画のオープニング、
アイリーン・キャラ歌う『What a feeling』が流れるなか、
ピッツバーグの街をジェニファー・ビールスが滑るようにチャリで走り、
彼女を追うカメラは彼女が働く鉄工所へと入っていく。
スティーラーズ、鉄工の街だ。

‘80年代サウンドバリバリのシンセスネアと鉄工所の作業風景が同期し始めたな、と思った瞬間、
工員の振り下ろすハンマー音とサウンドトラックの打ち込みスネアがピッタリと同期する、

「おいおい!『ベイビー・ドライバー』より40年近く早いぞ!」
とビックラこく。

最近流行りの「サントラとシーンがピタリと同期する」を筆者は『ベイビードライバー』で初めて体験したが(他にも色々あるらしい)、
この映画はその先駆と言え、後の「MVスタイル」の映画に多大な影響を与えた。

そして、この映画の中には「1980年代」の空気が満ち溢れている

誰もが「夢と希望」に溢れていた時代だ。

夜はナイトクラブで踊るジェニファー・ビールスは非白人で、
白人権威の殿堂である「バレエ」の門を潜りたいが、
彼女が抱える「コンプレックス」が彼女の足を踏み止まらせる。

彼女には同じくフィギュアスケーターを夢見る女友達が居て、
お互いを励まし合い暮らしている。

そして、ナイトクラブの厨房には、同じくコメディアンを夢見る青年がいる。

この世界には「突き抜ける人と、とどまる人」が居る。

今の言葉で言うと「持っている人と、持っていない人」。

ジェニファー・ビールスはもちろん持っている人で、
この映画で彗星の如くデビューした彼女の煌めきは凄まじく、
彼女が映っていれば「映画」になってしまう程だ。

「オードリーヘップバーンが映っているだけ」の映画『ローマの休日』を彷彿とさせる(この「○○が映ってるだけ映画」には名作が多い)。

しかし、「持っている」だけではブレイクスルーは出来ない。

彼氏となった彼女の「社長」もかつては貧困であり、コンプレックスの塊であった。

その社長や元バレエダンサーでジェニファーの善き相談相手ハンナおばあさんがジェニファーを後押しする。

しかし、そのたびに彼女は「怒り狂って」踏み止まる。

そう、彼女は「怖い」のだ。

そんな時、肝心なオーディションで大失敗したフィギュアスケーターの女友達が身を堕としてストリップバーで働いていることをジェニファーは知る。

酔漢の前で裸で踊る女友達を見つけたジェニファーは彼女を外に連れ出して叫ぶ、

「あんなのダンスじゃない!」

オーディション前日、
ジェニファーは「いつものように」ハンナおばあさんを訪問するが、彼女は「亡くなっている」。

安心して暮らしていた「いつもの日常」が突然壊れる瞬間である。

この瞬間、ジェニファーの「スィッチが入り」バレエ団のオーディションに臨む。

審査員たちの前で踊る順番がやってきた。

クラシック・バレエを踊り出す。

しかし、出だしでいきなりシクる。

ここで彼女はハッ!と理解する、
「借り物ではなく、自分の人生を生きよう」と。

彼女は、自分がこれまで培い、身体に染み込んだ
ストリートダンスで勝負に出る。

見違えるように生き生きと踊る。

その圧倒的な「グルーヴ」は権威を揺さぶり、
彼女は遂に「向こう側」に突き抜ける。

審査員は拍手喝采。

こうして「ストリート」vs「権威」は優しいエンディングを迎える。

そしてこの映画は敗者にも優しい。

「肝心なところでしくじる女(スケーター)」

「そもそもの才能が無い男(コメディアン志望)」

彼らの「日常」は死ぬまで「日常」のままだ。

誰もが日常から飛び出す「翼」を持っている訳ではない。

そんな彼らが奏でるそれぞれの日常の「ブルース」。

ついでに言うと「悪役」の社長の元嫁も大して悪くない笑。

なんかみんな優しいのだ。

筆者はこの時代のアメリカに居たが(1984〜1985)、
ビックリするくらい皆んな優しかった。

日本で暮らすよりも、ずっと遥かにアメリカは優しかった。

そんな中で、成功して飛び出す人もあれば、日常にとどまる人も居る。

ただ、
「オレはジェニファー・ビールスと同じ時代に生きてたぜ!」
とい矜持は、スクリーンの内外、皆んながずっと大切に抱えている
(筆者註:同時期の映画シーンにはモリー・リングウォルドという、
もう一人の「時代のミューズ」が居た。ちなみに筆者はモリー派であった)。

ジェニファーにはジェニファーの、
しくじる女にはしくじる女の「役割」がある。

それぞれの「役」をそれぞれが演じている。

彼らの背景には街という「舞台」があり、

そこにはいつも音楽(時にブルース)か流れているのである。

完。


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