マガジンのカバー画像

夕遊の映画座

256
マガジン機能の練習中。見て良かった映画の感想をまとめています。おすすめを紹介していただけると、喜び踊ります。
運営しているクリエイター

記事一覧

大好きな人たちと見たい映画『バジュランギおじさんと、小さな迷子』2015年、インド。

大好きな人たちと見たい映画『バジュランギおじさんと、小さな迷子』2015年、インド。

数年前にものすごく評判がよかったので名前は知っていたけれど、劇場に行く時間がなくて未見だったインド映画。今週末から1ヶ月くらいの間、日本各地で再上映されることになったようなのですが、フォローしている映画詳しいアカウントから一斉に、「絶対見て!」メッセージであふれてきたので、久しぶりに夫と映画館デートしてきました。

ストーリーの基本は単純。迷子の女の子を、お人好しのおじさんが送り届ける話。予告編だ

もっとみる
「14億分の10憶」のリアル『中国農村の現在』田原史起

「14億分の10憶」のリアル『中国農村の現在』田原史起

読む前から、間違いなく田原先生の本なら面白いだろうなと期待させられる本。そして、実際隅から隅まで面白かったです。タイトルは、シンプルですが、サブタイトルは習近平を書いた、こちらの本を意識したものですね。

田原先生が中国関係の仕事を初めた頃、中国は8割が農民人口だと言われた発展途上国。今では都市化率60%以上とも言われますが、都会に住んでいても実家や戸籍が農村にある人は70%くらいでざっと10憶人

もっとみる
耽美をめぐる社会情勢と魅力『BLと中国』周密

耽美をめぐる社会情勢と魅力『BLと中国』周密

以前から興味を持っていた分野なので、すごく読みたかった本ですが、発売前から重版がかかるほどとは。ドラマ『陳情令』の原作『魔道祖師』や『天官賜福』の作者・墨香銅臭さんのインタビューが掲載されていた『すばる』2003年6月号もすごかったですから、当然といえば当然なのかも。

さて、周密さんの『BLと中国』は、日本でいわゆる「BL」とされる物語が、中国では「耽美」(Danmei)と呼ばれている、その語源

もっとみる
ノスタルジー上海。『長恨歌』王安憶(飯塚容訳)

ノスタルジー上海。『長恨歌』王安憶(飯塚容訳)

予備知識ゼロで手に取った、王安憶の長編『長恨歌』。白居易の『長恨歌』と同じ名前の現代小説なんて、一体どんなだろうと読み始めたのですが、独特な文体にあっという間に引き込まれました。彼女の文体は、中国で「評論叙事文体」と名付けられたそうです。

凝った表現や、美麗な修辞でもなくて、一文、一文はシンプルで短いのに、それが一つ、また一つと連ねられると、他の誰とも違う雰囲気を醸し出す不思議。例えば、冒頭はこ

もっとみる
ホームドラマみたいなドキュメンタリー映画『◯月◯日、区長になる女』2024年。

ホームドラマみたいなドキュメンタリー映画『◯月◯日、区長になる女』2024年。

たまたまSNSで宣伝見つけて、家族で見に行きました。久しぶりの大阪十三の第七藝術劇場は、別の映画の監督さんの舞台挨拶があったせいか、エレベーターフロアに人だかりで身動きとれないほど。『夢見る給食』のオオタヴィン監督の舞台挨拶だったそうです。

そういえば、日本のだし文化と、素材を生かした料理のすばらしさを撮ったドキュメンタリー映画『千年の一滴』もこの映画館で見たんでしたっけ。

さて、この『◯月◯

もっとみる
日露戦争に人生を狂わされた男たちの物語。映画『ゴールデンカムイ』2024年

日露戦争に人生を狂わされた男たちの物語。映画『ゴールデンカムイ』2024年

オープニングのすさまじい二〇三高地のシーンから、主人公の杉元とアシㇼパが出会い、困難を乗り越えて相棒(バディ)を組むまで。この映画は、壮大な物語の「序章」です。内容は原作のテイストそのままですが、なんといっても生身の俳優さんたちがくりひろげるアクションシーンがすばらしい。そして、合間、合間に広がる試される大地、北海道の雄大な景色。映画ならではの表現で、原作の世界を存分に表現しています。

タイトル

もっとみる
大あたりのコメディ映画『宝くじの不時着~1等当選くじが飛んでいきました』韓国、2022年。

大あたりのコメディ映画『宝くじの不時着~1等当選くじが飛んでいきました』韓国、2022年。

ヒット作があれば、パロディがつくられる。これは小説でも映画でも同じようです。パロディ作品については、当たりもあれば外れもあるので、宝くじみたい。超有名どころでは、小松左京の『日本沈没』と筒井康隆の『日本以外全部沈没』でしょうか。

さて、韓国ドラマの超ヒット作『愛の不時着』は未見ですが(そろそろ本気でnetflix考えないと)、韓国映画『宝くじの不時着』は、ポスターを見た瞬間「絶対、当たり!」の予

もっとみる
「中国」との相克の戦後史。『台湾のアイデンティティ』家永真幸

「中国」との相克の戦後史。『台湾のアイデンティティ』家永真幸

タイトルを見たときは、現代台湾事情を中心にビギナー向けにまとめた本なのかなと思いました。家永さんといえば、やはりデビュー作『パンダ外交』のイメージが強くて、身近な話題をきっちりした資料と分析で、政治や歴史の枠にまとめるのが上手という印象だから、よけいに現代にシフトした話だと思ったのかもしれません。

でも、実際の内容は、サブタイトルの「「中国」との相克の戦後史」。台湾や日本の歴史について、ある程度

もっとみる
好みすぎる中国古代史ミステリー。『蘭亭序之謎』唐隠著、立原透耶監訳

好みすぎる中国古代史ミステリー。『蘭亭序之謎』唐隠著、立原透耶監訳

中国の長い歴史の中でも、一番華やかな時代のイメージがある「唐」。7世紀から10世紀まで、日本でいえばざっくり奈良・平安時代です。このミステリーの舞台は、めちゃくちゃ栄えていた唐が、楊貴妃を愛したことで有名な玄宗皇帝の時代に起きた安史の乱の後、だんだん力が弱まって、帝国としてのまとまりが崩れていく時代です。

そして、この本の謎の中心になる「蘭亭序」は、有名な書聖・王羲之の作品。王羲之は4世紀前半の

もっとみる
予想を超えた、破壊力あるメッセージ。映画『窓ぎわのトットちゃん』

予想を超えた、破壊力あるメッセージ。映画『窓ぎわのトットちゃん』

今の中国の書店には、日本文学の翻訳がたくさんあります。村上春樹さんを筆頭に東野圭吾さん、宮部みゆきさんから松本清張さんなど日本でも有名な作家さんたちの本から、私が知らない作家さんの本まで幅広くあって、外国文学コーナーで一番大きなスペースをとっています。

中国で日本語の本が紹介されるようになった、最初の頃からあるのが黒柳徹子さんの『窓ぎわのトットちゃん』。いわさきちひろさんのかわいいイラストは、中

もっとみる
ダサいけど無視できない。『戦狼中国の対日工作』安田峰俊

ダサいけど無視できない。『戦狼中国の対日工作』安田峰俊

今から50年ほど前、当時国交のなかった中国と交渉するために訪中した田中角栄は、ホテルの部屋が極端に暑がりな彼の好みぴったりの温度に調整され、彼の好きな日本の老舗のアンパンがウェルカムスイーツで置かれていたのを見て、中国側の事前情報の収集っぷりと交渉への並々ならぬ準備に、「これは大変な国に来てしまった」(≒交渉は相当手強いぞ)と言ったとか。1972年、日中国交正常化にまつわる有名なエピソードの1つで

もっとみる
広島ぶらり散策、柑橘類天国

広島ぶらり散策、柑橘類天国

広島での仕事が終わった翌日。朝、のんびり散歩しておいしいカフェでモーニングしたい!ということで、ホテルをチェックアウト。ところが、広島駅ではコインロッカー難民になり、重い仕事道具を抱えて歩くも、おいしそうな喫茶店やカフェは、どこも満席&ウェイティングの長い列。日曜の広島を舐めてました……京都並の観光客ごったがえし(反省)

でも、広島は京都にないだろう(?)素敵なところがあります。それは柑橘類。繁

もっとみる
静かな強いドキュメンタリー映画。『燃えあがる女性記者たち』インド、2021年

静かな強いドキュメンタリー映画。『燃えあがる女性記者たち』インド、2021年

先日、大阪民博の特別展『交感する神と人』を見に行ったんです。とってもエキゾチックなのに親近感ある素敵な展示で、よく見るインド映画の神様たちが、具体的にはどういうものなのか、人々はどんな風に神様を祀っているのか、素朴で不思議な状況を過不足なく名楽しめて、グッズもたくさん購入できて楽しかったんです。疲れた心にプラス100点。

でも、『燃えあがる女性記者たち』を見たら、気持ちはちょっとづつマイナスに揺

もっとみる
アマチュアの歴史的大発見と実話ベースのファンタジー。映画『ロスト・キング』イギリス、2020年。

アマチュアの歴史的大発見と実話ベースのファンタジー。映画『ロスト・キング』イギリス、2020年。

シェイクスピアの演劇で有名な、イギリスの王様リチャード3世。多分、日本ではそれほど有名じゃないと思います。私が知っているのも、『7人のシェイクスピア』という名作コミックのおかげ。本題から少し脱線しますが、この作品の中でもリチャード3世の演劇は魅力的です。続きが早く読みたくてたまりません。

さて、歴史上のリチャード3世は身体が不自由で、野心家で正当な王の権利を持たない簒奪者というイメージらしく、そ

もっとみる