リチャード・パワーズ(2013)『幸福の遺伝子』新潮社の感想

リチャード・パワーズ著、木原善彦訳の『幸福の遺伝子』(新潮社)を読んだ。

実は、パワーズの著作は、何度も読みかけては挫折しており、今回初めて通読することができ、それだけで妙な満足感を得ている。

あらすじは以下の通り。

スランプに陥った元人気作家の創作講義に、アルジェリア出身の学生がやってくる。過酷な生い立ちにもかかわらず幸福感に満ちあふれた彼女は、周囲の人々をも幸せにしてしまう。やがてある事

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ありがとうございます!頑張ります!
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コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』が、バリー・ジェンキンス監督によりドラマ化。5月14日よりAmazon Prime Videoにて配信

かつてアメリカ合衆国に、奴隷州から自由州に逃れようとする人々を支援する「地下鉄道」という名の組織があった。もしも「地下鉄道」がその名のとおり、本当に地下を走る鉄道だったら――。

そんな設定で書かれる長篇小説『地下鉄道』(コルソン・ホワイトヘッド著)。2016年に刊行されると、またたくまに注目を集め、ピュリッツァー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞など7つの文学賞を受賞。日本では、谷崎由依訳

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ありがとうございます!今日のおすすめは『ヒトの目、驚異の進化』です!
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最愛の者を失い、自らを失いかけていた女が、新しい生を得る物語。

『複眼人』呉明益 小栗山智 訳
海の上をぷかぷか浮きながら漂う島といえば、我々の世代は『ひょっこりひょうたん島』を思い出すが、時代が変われば、物事は変わるものだ。近頃では廃プラスチックが寄り集まってできたゴミが島となって漂う。「二〇〇六年ごろネットで、太平洋にゆっくりと漂流する巨大なゴミの渦が現れ、科学者にも解決の手立てがないという英文記事を読」んだのが、作家にこの小説を構想させたようだ。

複数

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香水についても詳しくないと、私立探偵はつとまらない。

チャンドラー『湖中の女を訳す』第十七章(2)【訳文】

「ろくでなしめ」彼は声を低くした。「あいつはあれを見限ったんだろう」
「そいつはどうかな」私は言った。「あなたにとっては動機が不充分だったんじゃ、文明人だからという理由でね。でも、彼女にとってはそれが充分な動機になるんですか」
「同じ動機という訳じゃない」彼は噛みつくように言った。「それに、女は男より衝動的だ」
「猫が犬より衝動的なのと同じよ

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ディーパ・アーナパーラ「ブート・バザールの少年探偵」

インドのスラムで起きた、子供の失踪事件。

スラムが題材の作品は「スラムドッグミリオネア」、小説だと「三つ編み」を読んだけど、それらが航空写真としたらこっちはハンディカメラで潜入したよう。
子供の視点まで姿勢をさげて、風景を細かく切り取る。

インド出身で貧困層の取材をしていたジャーナリストでもある作者が描く、スラムの少女が見つめる手のひらの描写はこんなだ。

「指のまわりにぐるっとできたマメやタ

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ありがとうございます
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“24時間書店”は避けて通れない。



初めての著者。
解説を担当されたゲームデザイナー・米光一成さんによると、本書は『Mr.penumbra’s24hour Bookstore』の全訳で、東京創元社から2014年に出ていて、“ぼくたちがいま読むべき本ベスト1長編”だそうだ。

ロビン・スローンは作家。と最初に書かれているが、2004年には情報社会の未来を予想したFlashムービー「EPIC2014」を共同制作して話題を呼んだひとで

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ありがとうございます。これからもながーい目でひとつ。
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< in a nice way>は「いい意味で」

チャンドラー『湖中の女を訳す』第十七章(1)

【訳文】

 アスレティック・クラブのベルボーイは三分後に戻ってきて、一緒に来るようにうなずいた。四階まで上がり、角を曲がったところで半開きのドアを私に示した。
「左に折れたところです。できるだけお静かに。何人か、お休み中の会員がおられます」
 私はクラブの図書室に入った。硝子戸の向こうに本が、長い中央テーブルの上には雑誌が置かれ、クラブの創立者の肖

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あの日の私がここにいた。短編小説集『ショウコの微笑』

 冬のある朝、夢の中で「ショウコの微笑」という言葉が何度も登場したことがあった。目覚めた後、夢の詳細はすっかり忘れてしまったのに、その言葉だけがはっきりと、頭の中でぬくもりを放っていた。

 布団の中でスマートフォンを手に取り、早速調べてみると、それは韓国の作家が書いた小説のタイトルだった。チェ・ウニョン著『ショウコの微笑』。

 「ああ、なんだ。本の名前か」とすっきりしたところで身体を起こし、何

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幸せです♡
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あの「リア王」が、現代のメディア王に。 エドワード・セント・オービン『語りなおしシェイクスピア2 リア王 ダンバー メディア王の悲劇』【電子版も配信中!】

世界のベストセラー作家が
シェイクスピアの名作を語りなおすシリーズ第二弾。
あの「リア王」が、現代のメディア王に。
巨大な企業王国をめぐる三人の娘の忠誠と裏切り。

『語りなおしシェイクスピア2 リア王 ダンバー メディア王の悲劇』

エドワード・セント・オービン

訳:小川高義

〈内容紹介〉
テレビ局や新聞社を傘下に収めるメディア王ダンバーは、会社の乗っとりを狙う娘たちによって療養所に入れられ

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ありがとうございます!
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<ingenuous>は「純真な」という意味。まさか<genius>と誤読したのか?

チャンドラー『湖中の女を訳す』第十六章

【訳文】

 階下の廊下は両端にドアがあり、中ほどにもドアが二つ並んでいた。一つはリネン・クローゼットで、もう一つには鍵がかかっていた。突き当たりまで行って予備の寝室を覗いてみると、ブラインドが引かれ、使われている様子はなかった。もう一方の突き当りまで引き返し、二つ目の寝室に足を踏み入れた。幅の広いベッド、カフェオレ色の絨毯、軽い木で作られた角張った家具、

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