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夕遊の映画座

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マガジン機能の練習中。見て良かった映画の感想をまとめています。おすすめを紹介していただけると、喜び踊ります。
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2020年12月の記事一覧

できたら、私も旅してみたい。『旅猫リポート』有川浩

できたら、私も旅してみたい。『旅猫リポート』有川浩

有川さんは人気作家さんで、この作品は映画化されて、舞台化もされたとか。私は、有川さんの作品はほとんど読んだことがなかったのですが、知り合いの大学生に勧められて、この本を手に取りました。

物語の主人公は青年と猫。青年が猫を飼えなくなったので、貰い手を探して銀色のバンで旅する話です。かつての友達を頼って、いろんな土地を猫と一緒に旅します。そうやって、青年の人生をたどっていきます。

予備知識ゼロで読

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中世の修道院は結構こわい。映画『薔薇の名前』仏伊西独、1987年。

中世の修道院は結構こわい。映画『薔薇の名前』仏伊西独、1987年。

イタリアの記号論学者ウンベルト・エーコ原作。中世北イタリアのベネディクト会修道院で起きた不可解な殺人事件を描いた小説の映画化。修道院に本がたくさん所蔵されていたことや、修道院で薬草を作っていたことなんかを利用して、物語がつくられています。あと、本(羊皮紙)の保管と異端審問などなど世界史好き、本好きにはうれしい映画です。

舞台になった修道院は、ヨーロッパ中の貴重な書物の保管をする図書館で、ギリシア

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2020年最高だった映画たち

2020年最高だった映画たち

今年も終わりですね。未曽有のパンデミックがあったこともあり、大作映画は軒並み公開延期。3月から6月くらいまではぱっくりとあいてしまっています。こんなに公開が少なかった年もないんじゃないでしょうか。仕方ないことですが、悲しいですなあ。

ただ、それでもやっぱり面白い作品というのはあるもので、今年よかった映画を少しでも紹介していこうかと思います。GO TOも停止されたことですし、外食もなかなかしづらい

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普通に暮らすことが難しい国のエネルギッシュな映画『薬の神じゃない!』中国、2018年。

普通に暮らすことが難しい国のエネルギッシュな映画『薬の神じゃない!』中国、2018年。

中国のジェネリック薬密輸事件をベースにしたエンタメ映画。2018年の公開当時から話題になっていたけれど、とうとう今年、日本公開。年末ギリギリで見に行けてうれしいです。

主人公の程勇(徐崢)は、妻に逃げられ、息子の親権を取られそうになり、父親は入院。商売のインド製回春薬の販売も不振で、店の家賃も払えなくて追い出され、とうとうお金のために白血病患者の呂受益(王伝君)の頼みを聞いて、インド製ジェネリッ

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情熱と狂気と愛情の物語。映画『博士と狂人』イギリス、アイルランド、フランス、アイスランド、2019年

情熱と狂気と愛情の物語。映画『博士と狂人』イギリス、アイルランド、フランス、アイスランド、2019年

原作は、サイモン・ウィンチェスターのノンフィクション『博士と狂人―世界最高の辞書 OEDの誕生秘話』。タイトルだけだと何のことかわからないですが、英語辞書の最高峰といわれる『オックスフォード英語大辞典』を編纂する物語。『舟を編む』みたいな話かと思いきや、こんな有名な辞書の編纂をリードしたのが、学士の資格も持たなかった独学者マレーと、殺人犯として精神病院に収監されていた元軍医のマイナー博士。しかも、

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期待に違わぬおもしろさ。映画『人魚姫』中国・香港、2016年

期待に違わぬおもしろさ。映画『人魚姫』中国・香港、2016年

日本では『少林サッカー』が有名なチャウ・シンチー監督の映画。香港大好きな友達と観に行きました。

ストーリーは単純。中国のとある岬に隠れ住む人魚たちが、岬のリゾート開発をしようとする大企業の社長リウの暗殺して、プロジェクトを止めようとするお話。人魚たちは、純朴な娘シャンシャンでハニートラップを仕掛けようとしたのに、シャンシャンと社長が恋に落ちてしまう。ライバル会社の女社長が開発を強引にすすめ、つい

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ジェット・リーのやさしい世界。映画『海洋天堂』中国・香港・台湾、2010年。

ジェット・リーのやさしい世界。映画『海洋天堂』中国・香港・台湾、2010年。

あちこちから、いい評判が聞こえてきたので、とても楽しみにしていた映画です。韓国の自閉症の青年を描いた映画『マラソン』みたいな感じかなあと思っていたけど、違いました。これはこれで全く別の物語。世の中が、こうだったらいいなあ……というお伽話のようなお話。

ジェット・リー(李連杰)といえば、アクション映画で超有名。そんな彼が男で一つで自閉症の子供の父親を演じる。自分の命の先がないことを知り、息子と心中

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自由への願い。映画『勝利への脱出』アメリカ、1981年

自由への願い。映画『勝利への脱出』アメリカ、1981年

第二次大戦中、ドイツの捕虜になっていた連合軍のサッカーチームとドイツチームが試合をすることになり、試合にかこつけて捕虜たちは脱走を計画する。脱走を手伝うために、捕虜収容所と外部をつなぐのは若い若いスタローン。ドイツ占領下のパリで行われる脱走劇は成功するのか、試合はどうなるのか。ペレを筆頭に、引退した元サッカーのスターたちが多数出演した伝説の作品。

『勝利への脱出』は、1942年に行われたドイツ選

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ほんわり、じんわり。映画『ノッティングヒルの洋菓子店』イギリス、2020年

ほんわり、じんわり。映画『ノッティングヒルの洋菓子店』イギリス、2020年

なんとなく、映画が見たくて、ちょっとだけ自分を励まして、気分を上向きにしたいときにぴったりの映画。日本語のタイトルが昔の映画『ノッティングヒルの恋人』と混同しそうで、しかも内容とズレているのが残念。この映画はスイーツがメインじゃなくて、亡くなった人への思いや人と人とのつながりが中心です。

ストーリーは、親友のサラと二人で夢だったカフェを開く直前に彼女を失ったイザベル。サラの娘は母の死を受け入れら

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神様の記録。映画『ペレ 伝説の誕生』アメリカ、2015年

神様の記録。映画『ペレ 伝説の誕生』アメリカ、2015年

娘と映画を見に行くときは、なるべく楽しい映画を選びます。スポーツ映画は王道。深刻なドキュメンタリーも必要だけど、見た後に元気になって、「明日からまたがんばろう」って思える映画や思い出が人生には必要だから。

ペレといえば、サッカーの神様。ブラジルの英雄。サッカーにあまり詳しくない私でも知っています。でも、一番昔の記憶では、夜中まで起きてワールドカップの試合を見ていた頃のスター選手はマラドーナやベッ

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だしを極めたドキュメンタリー映画。『千年の一滴』日本・フランス、2014年

だしを極めたドキュメンタリー映画。『千年の一滴』日本・フランス、2014年

2013年12月に放送したNHKスペシャル『和食』をベースに、柴田昌平監督がパリに行き、フランスやイギリス、アルゼンチンの海外スタッフと仕上げたおいしすぎる作品。

劇場で予告編を見て、すごく楽しみにしていた作品。第1章は「だし 大自然のエッセンス」をテーマに、しょうゆやみりんといった調味料の「うまみ」のもととなる麹カビを特殊な撮影によるミクロ映像で楽しませてくれる。第2章「しょうゆ ミクロの世界

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多国籍なおいしさ。映画『エイブのキッチンストーリー』アメリカ・ブラジル2019年。

多国籍なおいしさ。映画『エイブのキッチンストーリー』アメリカ・ブラジル2019年。

予告編を見たときから、かわいくて絶対見ようと思っていました。ニューヨークに住む主人公のエイブラハムは12才で、イブラヒムとか、アブラハムとか呼ばれる。というのも、お母さんがユダヤ人でお父さんがパレスチナ出身のイスラムだから。祖父母たち家族はいつも、団らんのはずの食卓で、宗教やら政治の話題でもめてしまう。

無宗教でやりたい父親。アイデンティティの問題をないがしろにしたくない母親。エイブはどっちもや

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やさしくて切ない映画『ディア・ドクター』2009年。

やさしくて切ない映画『ディア・ドクター』2009年。

冒頭の「俺、免許ないねん」で、あれ? と思ったけど、車と医者のをかけてるところから、するっとひきこまれました。主人公は、笑福亭鶴瓶演じる田舎の偽医者。無医村を回っているうちに、重宝がられてとうとう大先生に祭り上げられてしまった男の話。

主人公に限らず、登場人物たちは、みんなそれぞれ嘘をついて生きている。老人に早く亡くなって欲しい家族たちから、癌の治療のために娘に心配かけたくない母親まで。そして、

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音は身体で感じる。ドキュメンタリー映画『Touch the Sound そこにある音』ドイツ、2004年。

音は身体で感じる。ドキュメンタリー映画『Touch the Sound そこにある音』ドイツ、2004年。

主人公は、グラミー賞を2度も受賞した音楽家のエヴリン・グレニー。12歳で耳が正常に機能しなくなったけれど、その後も身体全体で音を感じながら制作活動を続けているパーカッショニスト。重度の聴覚障害とともに演奏活動を続ける彼女の日常、音と風景を捉えたフィルムです。

演奏も、日常生活も、フィルムでは健常者にしか見えない彼女。電話のシーンのときに、ようやく彼女の障害がわかる。彼女は、電話は聞き取れない。だ

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