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北欧暮らし 30本

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北欧暮らし一般および随筆をまとめさせていただいているメインのマガジンです。
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記事一覧

Noter友と実際にお会いするということ

Noter友と実際にお会いするということ

 ホワイトクリスマス、と言えば聞こえが良いが、今年のクリスマス・イブは、怒り狂ったような雪が乱舞する晩であった。そのイブの朝は、某プロレスラーの抱擁の中で起床した。

 とは言っても現実ではなく夢の中の話である。そのプロレスラーは既に天に召されているのだから。

 何故その方が、突然私の夢に出演をされたのか。

 その前日、どうやったら、ノーベル平和賞を受賞することが出来るか、ということを友人達と

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隣の芝生は青い、とは限らない

隣の芝生は青い、とは限らない

「例えばだよ、東京に二十年住んでいて、一度も外に出たことがない人がこの景観を眺めたらどう感じるんだろうね」

 橋を渡っていた時、スウェーデン人男性の声が明瞭に響いて来た。中高年の二人組の一人の声であった。

 私は一瞬歩きを止めた。通常、赤の他人の会話には注意を払わないが、やはり自国に関する名称は聴覚を過敏にする。

 日本人である私の姿が彼らの視界に入り込んだのか、おそらく違う。

 この場所

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誕生会は吹雪の中で

誕生会は吹雪の中で

 どちらかというと自身はパーティー好きである。しかし、それはパーティーの参加者がある程度、関心を示してくれる場合であり、まったくあからさまに無関心を強調されると、さすがにこちらも白ける。

 昨年、招待された誕生会の一つがその一例であった。ビール醸造所を借り切った誕生パーティーにはかなり大人数の客が招待されていた。よって、主役の少年時代からの知り合い、というような関係の客も多く、私とは何一つ接点が

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アラン・チューリング氏と「白夜の調べ」に 改名した友人を想う

アラン・チューリング氏と「白夜の調べ」に 改名した友人を想う

 人工知能学を多少なりともかじった人間ならば、また、「イミテーション・ゲーム」という映画をご覧になった方であれば、アラン・チューリング氏の名前は耳にされたことがあるかと思われる。

 アラン・チューリング氏は、現代計算機科学の父として有名であるが、第二次世界大戦中にドイツが使用したローター式暗号機であるエニグマを解読した英国の数学者としても有名である。

 同氏は、天才数学者と称賛されながらも、当

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市庁舎の鐘の鳴る島 私の街角

市庁舎の鐘の鳴る島 私の街角

 市庁舎の鐘塔は、あたかも錯乱したかのように、キンコンカーンコーンと鐘を鳴らし始める。この瞬間のみ、時代は中世に遡る。

 鐘の音は、私にとっては一様に、哀調を帯びているように響く。鳴っている最中も、その後も。

 そのような感を抱きながら市庁舎の足元に佇んでいると、自身が、除夜の鐘の国を去って欧州に根を下ろして来たことを改めて認識する。

 
 先週の金曜日は、近くにて用事があったため、数年ぶり

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「あの日電話が不意に」 ヘッド・ハンティング体験

「あの日電話が不意に」 ヘッド・ハンティング体験

 「新入社員の候補としてジョン・ブロム君を推薦したのは、確か君だね」

 人事部長から確認を問われた。

 「さようですが、何か?」

 「推薦された候補者が雇用にまで漕ぎつけたら、推薦した人に臨時ボーナスが出ることは知っているよね?」、人事はそう案内した。

 ボーナス?

 初耳であった。

 スウェーデンの会社においてはボーナスという習慣はあまり聞かない。そもそもそのような代物を戴いたことも

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あの若者達は今晩どこで眠るのか

あの若者達は今晩どこで眠るのか

 そのホテルにチェックインをした際に、「耳栓が御入用でしょうか?」と訊ねられた。時刻はかなり遅くなっており、非常に疲れてもいたが、その質問を受けた途端、ホテルを変更しようという衝動に駆られてしまった。

 戦後直後に建てられたためかなり古いホテルではあったが、その割には宿泊費は高額である印象を受けた。にも拘わらず、耳栓が必要になるほどの騒音が生じ得ると言う。

 二年半ぶりに宿泊する記念すべきホテ

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バレンタイン・デイ すれ違う二艘の船

バレンタイン・デイ すれ違う二艘の船

 そのスカイラウンジはホテルの最上階にあった。私はそこに座ってしばらくバルト海を見下ろしていた。ラウンジはオフィスビルの延長のようなしろものであり、落ち着ける空間ではなかった。しかし、数日前に予約した部屋に下りて行くまえに、私には心の準備が必要であった。

 この晩の一か月前、四年間半お付き合いをさせて頂いたスカンジナビア航空のパイロットから別れを切り出された。

 ようやく腹を括って、八階の部屋

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ご縁とタイミングを大切にしたい2022年

ご縁とタイミングを大切にしたい2022年

 スウェーデンでは、年越しの瞬間、除夜の鐘は聞けないが、毎年、スウェーデンの著名人が、国営放送の中にて「新年の鐘」と称される詩を朗読することになっている。

 今回、詩を朗読された男優には見覚えがあった。

 十年前に、私も端役で共演させて頂いたスウェーデン国営放送のドラマの主役のレイネ・ブリイノルフソンという男優であった。比較的顔立ちの柔和な俳優さんではあったが共演させて頂いたドラマの中では、比

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小さな町の小さな家の中のさらに小さな家たち

小さな町の小さな家の中のさらに小さな家たち

 小さな一軒家に住む知人のお茶会に招待を頂いた。第二アドベント(クリスマス関連の行事)の集いである。

 今回は、その集いに、私がかつてお会いしたことがない方が参加されるという。

 招待をして下さった家族には、息子と娘がいらっしゃる。娘さんには何回かお会いしたが、息子さんにはお会いしたことがなかった。

 非常に人見知りな青年で、人の集まるところには通常は姿を現さないと噂に聞いていた。

 

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母さんたちと一緒に迎える夜明け

母さんたちと一緒に迎える夜明け

 2018年ー2019年、スウェーデン。グレタ・トゥーンベリという少女が、数々の苦難と共生しながら、環境運動を「学校ストライキ」という強行手段を以て推進していた。その運動は、若者を始めとした多くの人々の賛同を受け、瞬く間にその輪を広げ、世界中のメディアにて語られることになった。

 その環境運動ほどは知られていないが、グレタの運動の裏側にはもう一つ特記すべきことがある。彼女がアスペルガー症候群を「

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第3回THE NEW COOL NOTER賞にて「始まる世界」 参加表明記事

第3回THE NEW COOL NOTER賞にて「始まる世界」 参加表明記事

お世話になっております。

お声を掛けて頂いたので、第3回THE NEW COOL NOTER賞の「始まる世界」に参加させて頂きたいと思います。

すでに一度参加をさせていただいたこともあり、しばらくは参加を躊躇しておりましたが、以下、企画の主旨に深く賛同させて頂きましたので、微力なりとも貢献することが出来れば幸いです。

これからの時代を生きる人たちへ
 やさしい世界が1ミリずつでも広がりますよ

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小高い丘に佇む秘密の花園

小高い丘に佇む秘密の花園

 今日はラウラという一人の少女の話をさせて頂きたい。正義感に燃えすぎている少女である。

 正義感があることは立派なことである。何の支障があるというのか?

 問題は、ラウラの正義感が、彼女自身を、あるいはまわりの人間を、トラブルに巻き込んでしまうことにある。

 例えば、ホームレスの人を足蹴にした人達を目撃したりすると、ラウラはその人達を追いかけて、ホームレスの人に謝罪させるまで食い下がる。十代

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ワインを独りで吞まないために

ワインを独りで吞まないために

 コネという言葉には多少抵抗を感じる。

 私がこちらに渡った当初は、コネなし、手に職無し、運なしの三拍子であった。東京では通訳・翻訳の仕事をしていたが、非英語圏であるこの国では、残念ながら英日通訳という職を介しては定収入は確保出来なかった。

 コネ、あるいは手に職を持っていた人々の中には、この国に根を下ろした翌日に定職にありつけていた人もいた。

 私がこの国に持って来たものは、若さとひとかけ

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