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【小説】白い世界を見おろす深海魚 77章 (告発の内容)

【概要】
2000年代前半の都内での出来事。
広告代理店に勤める新卒2年目の安田は、不得意な営業で上司から叱られる毎日。一方で同期の塩崎はライター職として活躍していた。
長時間労働・業務過多・パワハラ・一部の社員のみの優遇に不満を持ちつつ、勤務を続ける2人はグレーゾーン(マルチ)ビジネスを展開する企業『キャスト・レオ』から広報誌を作成する依頼を高額で受けるが、塩崎は日々の激務が祟り心体の不調で退職を余儀なくされる。
そんな中、安田は後輩の恋人であるミユという女性から衰退した街の再活性化を目的としたNPO法人を紹介され、安価で業務を請け負うことを懇願される。
人を騙すことで収益を得る企業と社会貢献を目指すNPO法人。2つの組織を行き来していく過程で、安田はどちらも理不尽と欲望に満ちた社会に棲む自分勝手な人間で構成されていることに気づき始めていた。本当に純粋な心を社会に向かって表現できるアーティストのミユは、彼らの利己主義によって黙殺されてようとしている。
傍若無人の人々に囲まれ、自分の立ち位置を模索している安田。キャスト・レオの会員となっていた塩崎に失望感を抱いきつつ、彼らの悪事を探るため田中という偽名を使い、勧誘を目的としたセミナー会場へ侵入するが、不審に思ったメンバーによって、これ以上の詮索を止めるよう脅しを受ける。だが、恐怖よりも嫌悪感が勝っていた。安田は業務の傍ら悪事を公表するため、記事を作成し山吹出版に原稿を持ち込み、出版にこぎつける。大業を成し遂げた気分になっていた安田に塩崎から帰郷するという連絡がくる。


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『特集 あなたの財産を狙う!? 相次ぐビジネストラブル 第二回 下流社会に潜むネットワークビジネスの影』

きっかけはコミュニティサイトの「逢いたい」から

「ブログを読みました。とてもしっかりした考えを持っていらっしゃいますね☆ あなたに、是非お会いしたいです。今度、六本木で飲み会があるのですが、よかったら一緒に楽しみませんかぁ?」

 東京都在住の会社員男性Nさん(34)に、インターネット上のコミュニティサイトを介して知り合った女性から、このようなメールが届いた。異業種交流会パーティーへ誘われ、会場であるビルの一室へ行ってみると多くの若者達が集っていた。その中にメッセージを送った女性がいた。お酒を飲みながら「夢は?」「欲しい物は?」と親しげに聞かれた。

 話が進んできた頃、彼女から「成功者になりたくない?」という質問があった。勧められたのが、通信販売の衣料品を知り合いに勧める仕事。会社に5万円を支払ってその仕事の権利を持つ「オーナー」となり新規メンバーを獲得したり、そのメンバーがその会社の製品を買うことによって利益が分配されるという。Nさんは、それがすぐにネットワークビジネスであることに気がついた。

「入会するのにお金を払うし、ネットワークビジネスの悪評も聞いていたんで断ろうとしました」

 しかし女性達は「月に50万円以上を稼げるから絶対やった方がいい」と推奨してくる。

 その後、彼はパーティーを主催した企業が行っているセミナーに参加。

「某有名タレントも着ている」「創業以来売り上げが落ちたことがない」という景気のいい話を聞かされた後、「友達を連れてくるだけ」「物を売りつける必要はない。紹介するだけ」などという誘惑で、彼は入会することにした。

「勤め先は不景気で、月に百時間以上の残業をしているのに手取りが二十万程度しかもらえない状況でしたからね。彼らの言っていることがとても魅力的に感じてしまいました」とNさんは、苦笑する。

 その後、思いつくかぎりの友人を誘ったが、結局一人も勧誘できず。それどころか逆に友人が離れていく悲惨な状態に……。数ヶ月後、儲からないと見切りをつけて退会を決意する。

「辞めた途端にパーティー会場にいた女の子からの連絡も途絶えてしまいました。結局、彼女は金儲けのために自分に近づいてきたんですよ」

 Nさんは、利益を得るどころか会費の負担に赤字の日々だったという。

 知り合いに売り物を推める合法的商売はあるが、前述のケースのように目的を告げずに誘い出して、ビジネス契約を結ばせるのは特定商取引違反となる。しかし、その定義は曖昧でグレーゾーンに位置する企業もあり、多くの被害者が泣き寝入りしている状態だ。

人件費削減で苦しい生活 若手社員を狙った新たな手段

 ネットワークビジネスに対する規制が強くなる一方、業者は勧誘方法を変えて販売網を拡大している。このビジネスは会員が所属している会社の商品を購入して、それを自分の知り合いに売りさばき、マージンを貰う方法が一般的だ。しかし、前述した衣料品の販売を行っているC•R社は少し違う。支払うのは会員費のみとなっていて、商品の購入をする必要はない。それが入会者にとって一つの魅力となり、会員数は増加。ネットワークビジネス業界の中でも群を抜く成長率が見られる。しかし、月30万円以上稼ぐ主要な拡販メンバーに商品である衣料品を身に付けさせることで、他のメンバーに商品の購入を促す雰囲気をつくりだしている。
「ネットワークビジネスって、他のメンバーとの人間関係が重要ですからね。周囲のメンバーが自社の製品を身に付けていると、自分も購入しなきゃいけないという無言の圧力がかけられます。実際それを拒んだ人は、会員集めを目的としたパーティーに誘われなくなりましたし、通常は勧誘の際にベテランの方がフォローしてくれるのですが、それもなくなりましたね」
 メンバーであるYさんは1万2千円のティーシャツを2枚買い、活動の日はそれらを着回しながら、現状を凌いでいる。

新たなターゲット 取引先にまで及ぶ勧誘網

 C•R社は、若手社員を中心に取引先までも会員に引き込む。大手企業は給与への満足度やプライドの高い社員が多いため成功率は少ないが、中小企業の若手社員は釣られやすい。
 若手を選ぶ理由は、学校を卒業して理想と現実のギャップに苦しんでいる人が多いためだ。厳しい業務と給与の少なさに悲観的になった彼らは、さらなる生活向上を夢見て、本業そっちのけで業務に励む。「儲けの八割は“孫会員”である取引先の若手社員が稼いでくる」という“親会員”もいる。しかし、多くの企業がこういった副業を禁止にしているので、最終的には勤め先を去らなければならない悲劇的な結果に陥る人も少なくない。

山吹出版『月刊アリシア 新年号』より

つづく

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ほろ酔い文学

リアルだけど、どこか物語のような文章。一方で経営者を中心としたインタビュー•店舗や商品紹介の記事も生業として書いています。ライター・脚本家としての経験あります。少しでも「いいな」と思ってくださったは、お声がけいただければ幸いです。