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(小説)白い世界を見おろす深海魚 7章(オフィスから)

【概要】
2000年代前半の都心の片隅での出来事。
広告代理店に勤める新卒2年目の安田(男性)は、不得意な営業で上司から叱られる毎日。一方で同期の塩崎(女性)は、ライター職として活躍している。
長時間労働・業務過多・パワハラ・一部の社員のみの優遇に不満を持ちつつ、勤務を続ける2人はグレーゾーンビジネスを展開する企業から広報誌を作成する依頼を受ける。

【前回までの話】
・序章
・1章
・2章
・3章
・4章
・5章
・6章

 こんなこと、誰にも話せないよな。
 キャスト・レオのオフィスに近づくにつれて脚が重くなる。
 青田さんにどういった対応をすればいいのだろう。やはり、別れ際と同じように何事もなかったかのような素振りを見せるか。それともある程度フレンドリー接してみるのも、下手に形式的な対応を取るより自然かもしれない……というか、なんでこんな心配をしなきゃならないのだろう。
 不安を抱えたまま、塩崎さんを連れてビルを目指した。

 オフィスの入り口に設置された内線電話機で青田さんを呼び出す。
「ハーイ、お世話になっておりまーす」
 彼女は穴蔵から顔を出す野うさぎのように、ひょっこりとパーテーションから登場した。
 塩崎さんにあいさつをすると、ぼく達をオフィスの奥にある会議室へ案内した。

「今、取材対象者……インタビュイーっていうのだっけ? 彼を呼んできますから、どうぞお掛けになってお待ちください」と会議室を出て行く。
 塩崎さんは革張りのソファーに腰を下ろして、辺りを伺う。
「『マルチ』っていうから、なんか、こう……薄暗いビルでヤクザっぽい人たちが働いているところを想像しちゃったけど、安田君の言ってたとおり普通のオフィスと変わりないのね」
 彼女は観葉植物の葉っぱを人差し指と親指でつまんだ。
「担当者は優しそうな人だね……でも、まだ不安だな。安田君、なんかあったら守ってね」と笑う。

 ドアがノックされた。

つづく

【次の章】

【全章】
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#創作大賞2023


リアルだけど、どこか物語のような文章。一方で経営者を中心としたインタビュー•店舗や商品紹介の記事も生業として書いています。ライター・脚本家としての経験あります。少しでも「いいな」と思ってくださったは、お声がけいただければ幸いです。