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DAYS

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My Diary
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silent

silent

「天気」って、
きっと多くの人が毎日気になるもの。
少なくとも自分は気になる。

「その人」は、そんな天気のような、
とても大切で、気になる存在だ。

ボクは「その人」に一度も会ったことはない。
自分はその人の顔や容姿、性格を知っているけど、「その人」はボクのことをよく知らない。

何度も夢にまで登場する「その人」も、見たことも会ったこともないボクの存在を知ってくれているけど、きっとボクのことなん

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ボクとセミとアップデート

ボクとセミとアップデート

2020年、夏。
それが終わろうとする8月下旬の頃。

夜間当直を終えたボクたちはいつものように、
「今日も無事終わって良かったなー」と話しながら、帰る準備をしようと医局に入っていくと、床にひっくり返った巨大なセミがいた。

動かない。

死んでる?

同僚たちはそのセミを見るなり、
ある種独特な悲鳴を上げながら後ずさりした。

「誰かにくっついて来たんじゃね?」
「なんでこんなとこに居んだよー!

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父親が初任給で買った腕時計

父親が初任給で買った腕時計

物心ついた時から今まで、
父親はずっと同じ腕時計をしている。

その腕時計をしていない父親を、
ボクは知らない。

「初任給で買った」というそれは
どこにでも売っていそうなものなんだけど、

父親はもう何十年も、それを毎日着けている。それなのに、キズというキズが見当たらない。

相当大切にしてきたんだろうな。

旅行先で貴重品を金庫にしまうとなると、その腕時計を真っ先に外して金庫にしまうくらい

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90歳とSNSへのパッション

90歳とSNSへのパッション

まただ。また今日も彼女は座っている。

ボクは怪訝な顔をしていたわけではない。
大丈夫かな、と心配していた。

彼女との出会いは、ふとしたことだった。

ボクたちがいつものように朝回診をしていると、顔を赤らめながら、何やらこちらをチラチラ見ている人がいた。

同僚が担当している患者さんだった。

患者としての彼女は、退院した後もちょくちょくボクの外来の日に病院にやってきては、整然と並んでいるその椅

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明石家さんまさんの選択

明石家さんまさんの選択

2020年6月14日(日)に放送された
『行列のできる法律相談所』

この放送の中で、
山Pこと山下智久さん(以下:山P)が、
長年芸能界で活躍している明石家さんまさんに質問するシーンがあった。

ボクはそのやりとりを、
本当の自分に置き換えて観ていた。

山P「20年ちょっと芸能界でやらさせていただいているんですけど、何度も挫折しそうになったり心が折れる瞬間があって、その度にモチベーションをどう

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魔女ばあちゃんと魔法の瓶

魔女ばあちゃんと魔法の瓶

子供の頃からボクはかなりヤンチャで、
毎日のようにケガをしていた。

毎週土曜日は、
親友の大輔の家でピアノ教室があって、
ボクは大輔たちと一緒にピアノを習っていた。
その時間の前は、いつも大輔の家で遊ぶのが恒例で、その日も大輔と大輔の妹の3人で、自転車で坂を下って遊んでいた。

その日は雨がパラパラ降っていた。

ボクはかなりふざけていた。

大輔→大輔の妹に続いて坂を下ろうとした時に、普通に下

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六月の雨と天気の子

六月の雨と天気の子

六月、紫陽花がそこはかとなく咲き誇る頃。 

自分の誕生日は暦の上では梅雨入りで、
その日に降る雨が嫌いだった。

雨とは、どこか切ない感じと、
気持ち的に、誕生日は晴れていてほしいという思いがあったからだ。

誕生日はいつも傘をさしていたことを
覚えている。

ボクは子供の頃からピアノを習っていた。

その頃からだ。

降っている雨は音符に見え、雨が打ち付ける音は、絶対音感としてドレミファソラシ

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東京上空から見えた世界

東京上空から見えた世界

日本は、数回訪れた過渡期を経て、
新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言が全面解除された。

でも、白い巨塔内の状況は何も変わらない。
相変わらずの重症度だ。
「生きる」か「死ぬ」か。

今日が「友引」かと思うくらい、
次々に人が亡くなった日も数えきれない。

24時間、心が休まる瞬間がない。

毎朝7時前から教授回診は始まる。
スタッフの絶対数が不足している状況で、
このコロナの対応に追われ

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見逃し三振より空振り三振

見逃し三振より空振り三振

あれは、何年前の話だろう。

大学で、
法医学の講義が始まる前に先生が言った。

「約束の時間に間に合うことができなければ、二度と会うことができないかもしれない。」

先生が何の話からそう言ったかは、
覚えていない。

まるで映画のワンシーンを切り取ったような、

先生が教壇に立って話し始めた
その部分の目に焼き付いた映像と、
音としての言葉が、
「パーン」と自分の中に入ってきたんだ。

一度きり

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チャンスの女神に後ろ髪はない

チャンスの女神に後ろ髪はない

『ピンチはチャンス』という言葉がある。

ある日、同僚と話をしていた。
AさんとBさんの異動にまつわる話。

ある日、上司がAさんに声をかけた。
海外勤務に関する異動についての話だった。

Aさんが元々希望していた魅力的な話で、
そうそうあるチャンスではなかったが、
突然の話だったため、時期とか環境とか考えるとそう簡単に出せる答えではなく、
Aさんは「一日時間を下さい」と答えた。

その上司は待て

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両親への感謝状

両親への感謝状

「お前にはこの仕事は向かない」
父親には、そう反対されていた。
母親が自分の進学について何度も何度も父親に頭を下げてくれていたことを、知っていた。

子供の頃はいつも鍵っ子で、
いつも家に大人がいなかった。

両親共働きだった。本職以外にも、空手の師範をしていた父親は道場を抱えていたり、肩書きはひとつではなく、いろんな仕事をしていた。
入退院を繰り返していた祖父母の病院にも、
母親は仕事を

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ボイスメッセージから伝わる心

ボイスメッセージから伝わる心

2020年4月19日。今日は日曜日だ。
何年経ってもきっと忘れることのない、
そんな今日のことを書き留めておこうと思う。

ここ最近、ずっと体が重かった。
体重的なものではなく、
心の重みがそのまま体にのしかかっていた。

ほとんど休む間もなく
休憩時間がとれないことで
ご飯すら食べられない時も日常的で、
それでも常に頭を働かせて
手を、足を、体を動かし続けなければ
次から次へと来る仕事に対応出来

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2020年の記憶と鬼滅の刃

2020年の記憶と鬼滅の刃

病院を出ると、雨だった。
腕時計を一度見て、空を仰いだ。
雨か、、、。

午前0時。
日付けが変わろうとする頃、
辺りは当に真っ暗だった。

それどころか、
自分は今日の天気も知らずに働いていた。
しばらく、もぐらになっていたみたいだ。

少し寒いな。

雨のせいもあって吐く息は少し白く、
暖かい病院の中で白衣から私服に着替えた後、
肘までまくっていた薄手のパーカーの袖は、

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東京タワーと青いボク

東京タワーと青いボク

空気が澄んでいる。

冬の冷たい冷気は、
肺の奥までそれを感じていた。

公園のベンチに座りながら、
パーカーのフードを被り背中を丸めた。

寒い。

吐く息は、相変わらず白い。

両手をポケットに突っ込んで、
ただ、同じ道を行ったり来たり。
イチョウ並木を眺めてみたり。
東京タワーを見上げてみたり。

公園にあった
ブランコに乗ってみたりもした。

クリスマスが近いその時期

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