父親が初任給で買った腕時計
物心ついた時から今まで、
父親はずっと同じ腕時計をしている。
その腕時計をしていない父親を、
ボクは知らない。
「初任給で買った」というそれは
どこにでも売っていそうなものなんだけど、
父親はもう何十年も、それを毎日着けている。それなのに、キズというキズが見当たらない。
相当大切にしてきたんだろうな。
旅行先で貴重品を金庫にしまうとなると、その腕時計を真っ先に外して金庫にしまうくらい、大切なものらしい。
父親は、一つの職場に生涯一筋で働いてきた。
その、初任給で買ったものだそうだ。
幼い頃、父親に聞いた。
「新しい時計を買わないの?」って。
そしたら父親は、
「腕時計を買い替えたり、いくつも持つようじゃダメだ。一人の人を愛するように、一つの時計を愛せる人間になれよ。」 って。
だから自分は、その腕時計だけは、
父親が亡くなったら
もらいたいと思っている。
父親の気持ちがこもっているから。
自分が父親のような生き方ができるかわからないけど、父親のように、まっすぐでありたいと思う。
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