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東京タワーと青いボク

空気が澄んでいる。

冬の冷たい冷気は、
肺の奥までそれを感じていた。

公園のベンチに座りながら、
パーカーのフードを被り背中を丸めた。

寒い。

吐く息は、相変わらず白い。

両手をポケットに突っ込んで、
ただ、同じ道を行ったり来たり。
イチョウ並木を眺めてみたり。
東京タワーを見上げてみたり。

公園にあった
ブランコに乗ってみたりもした。

クリスマスが近いその時期
街はネオンカラーに包まれていて、
煌びやかな街を彩っていたのは、
クリスマスツリーの緑やサンタクロースの赤がほとんどで、東京タワーの赤も、
どことなくクリスマスを感じさせていた。

そんな東京タワーが見える街の露店通りを
何度も行ったり来たりしていた。

人で賑わっていた。
音楽を楽しむ人、飲食を楽しむ人、
マトリョーシカなどの雑貨を楽しむ人。

イチョウを踏む足音は、
とても静かだった。

何度も何度も
東京タワーを見上げては腕時計を見る。
時間だけが過ぎていった。


露店でマグカップを買った。
ブーツの形をした青いマグカップを2つ。

靴は2つでひとつだから。
そう思って、2つ。

その魔法のマグカップに、
次々と注がれる温かい飲み物。

ボクはお酒が飲めない。

注がれる温かい飲み物は全て、
ノンアルコールだった。

温かい飲み物が体に沁み渡る
そんな冬の季節に、待っていた。


冬の凍てつく寒さも、待っている時間は、
それをあまり感じることはなかった。

ただ、夜中3時を回った頃、
その寒さを体にずしりと受け止め、
そして知ることになる。


来なかった。18時間待っても。
連絡すればいいのに、しなかった。
ひたすら待とうと思っていたから。

出勤のタイムリミットまで待っていた。
来るかもしれない。

もし相手が来た時にボクが居なかったら
きっと悲しい思いをするのではないかと思い
ひたすら待つことに専念していた。

あの頃のボクはまだ、青かった。

「待つ」

人は、待つ生き物だ。

人生で最も長い18時間だった。
でも、多分幸せな18時間だったんだと思う。


ただ「待つ」


明け方のソラを見ながら
ほんのり浮かべた涙。


それはもう、ずいぶん昔のはなし。



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