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2020年の記憶と鬼滅の刃

病院を出ると、雨だった。
腕時計を一度見て、空を仰いだ。
雨か、、、。

午前0時。
日付けが変わろうとする頃、
辺りは当に真っ暗だった。

それどころか、
自分は今日の天気も知らずに働いていた。
しばらく、もぐらになっていたみたいだ。

少し寒いな。

雨のせいもあって吐く息は少し白く、
暖かい病院の中で白衣から私服に着替えた後、
肘までまくっていた薄手のパーカーの袖は、
外気に触れたことで再び下ろすことになった。

少しの時間でも、今日はやっと家に帰れる。

意識がやや朦朧としていた。
もう、何日も寝ていない。

体は疲れ果てていた。

空腹はピークを超えており、
もう何が食べたいのかすら、
自分に問いかけるのも面倒だと思った。

お昼はカップラーメンを5分で口に放り込み、
それ以降、何も食べていない。


2020年「医療崩壊」
ゆっくり、そして着実に起きていた。

マスクやベッドがない他、
医療機器が不足し、
自分たちの精神的崩壊も
刻一刻と深刻なものになっていた。

スタッフが次々と精神的・体力的限界を迎え、
残されたスタッフへの負担も積み重なるばかりであった。

その原因は、
巨大感染症による圧迫が含まれていた。

組織の一員である自分の役割として、
患者・家族を守るだけでなく
スタッフも守っていく立場にあった。


いつ、みんな解放されるのだろう。


斬っても斬っても増殖し、
倒しても倒しても向かってくる。

すでにヘトヘトなのに
何かを守りたいと思う気持ち。

まるで『鬼滅の刃』だ。


COVID-19、いわゆる
新型コロナウイルス感染症その正体とは、
「鬼」だった。


数時間だけ病院から解放された自分は、
雨に打たれながら歩き始めた。


戦争や天災のように、
きっとこの2020年の出来事も、
歳をとってから人々の記憶として伝わっていくのかな。

仕事や経済、生活用品や感染防護品、
交通網にまで影響したあの年、、

いや〜マジでキツかったなって。

そんなことを考えながら、
ほんの数時間の自由と幸せを噛み締めていた。


そしてまた、朝が来た。 体が重い。


これを書いている今はもう、病院にいる。



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