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「いつやります課」ショートショート【音声と文章】
入社2年目の渡辺さんの会社の社長が替わられ、社内の人事が一新された。 社内でスモールビジネスを推奨するようになった。 そして、財務・総務・人事・営業・製造、どの部門のどんなアイディアでも受け付ける課ができた。 その名は「いつやります課」だ。 勤続12年のベテランA課長が分厚い企画書を抱えて「いつやります課」へ続く廊下を歩いていた。 同じ時に渡辺さんも申請に訪れ、A課長と廊下で一緒になった。 渡辺さんは企画書1枚だけ持っていた。 「君~。企画とは綿密な計画がなければ採用されないんだよ。」 手に持った書類を軽くバサッと仰ぎながらA課長は右側の歯だけが見えるようにニヤリと笑った。 「いつやります課」のドアの前についた。 まず、A課長がドアをノックし、中に入って行った。 渡辺さんは廊下の椅子に腰かけた。 少し時間がかかるかもしれない。 するとまもなく顔を紅潮させて苦虫を嚙み潰したような顔をしたA課長が部屋から出てきた。その顔から結果は目に見えていた。 渡辺さんがドアをノックし「はい、どうぞ」という声を聞いて中へ入った。 「いつやります課」の部屋にはデスクが一つだけあり、そしてそこに社長が座られていた。 どうやら、社長室とこの部屋は左のドア1枚で繋がっているようだった。 渡辺さんは企画書を社長に提出した。 〇年〇月〇日に〇〇をしたい。 詳細はこれから決めます。 企画書にはそれしか書いていなかった。 左胸にネッカチーフを差した社長は渡辺さんの顔をじっと見た。 いつ見ても社長の着こなしは年齢の割には洒落ている。 渡辺さんもまっすぐ社長を見た。 社長の目の奥は柔らかい。 社長は渡辺さんにいくつか尋ねた。 そして目じりに皺を寄せながら社長は 企画書をゆっくり机の上に下ろし「許可」の判を押した。 渡辺さんは社長に一礼して「いつやります課」を出た。 社長は窓の外を眺めた。 窓の外は赤とオレンジ色の夕陽が子どもたちを包んでいた。 ある日の日曜日。 都内の会議室の中でPCを広げた数人が作業会をしていた。 その中にあの渡辺さんがいた。 渡辺さんは大学生の頃からスモールビジネスをしていた。 年商は1億円。 そして、今日はクライアントさんと作業をしながら質問に答えるワークショップをしていた。 その中にカジュアルなシャツをお洒落に着こなしている50代の男性がいた。 彼はこのコミュニティに入ってまだ2か月ちょっとで スモールビジネスを作りかけているところだ。 渡辺さんが立ち上がり、ホワイトボードに図を書きながら話し始めた。 「皆さん、新しいことを始める時にまず最初にすることは何だと思いますか。 コンテンツ(商品)作りでしょうか? 提供するサービスを作ることでしょうか? 違います。 それは、いつまでにそれをするか、まず期日を決めることです。 そして期日を決めたら次にどんなことをするのかを考えて、あとはそれに間に合うように工夫しながら実行すればいいのです。 企画の初歩段階で綿密に計画を立てからいつまでにするかを決めると、時間がもったいないのです。また、自分ができる範囲内に納めてしまう可能性が高くなります。 だからスモールビジネスの企画はまず、期限を決めることが大事です。」 渡辺さんのお話が終わり、皆さんが手を叩いた。 着こなしの素敵な社長も うなずきながら手を叩いていた。 毎日note連続投稿2088日目! #ad #66日ライラン