本能寺の変1582 第193話 16光秀の雌伏時代 4服部七兵衛 天正十年六月二日、明智光秀が織田信長を討った。その時、秀吉は備中高松で毛利と対峙、徳川家康は堺から京都へ向かっていた。甲斐の武田は消滅した。日本は戦国時代、世界は大航海時代。時は今。歴史の謎。その原因・動機を究明する。『光秀記』
第193話 16光秀の雌伏時代 4服部七兵衛
そして、山陽道。
信長の心は、西へ。
その先には、毛利があった。
信長は、荒木村重に播磨への出陣を命じた。
「好機」、・・・・・。
「厄事」、・・・・・。
村重の心の内は、よくわからない。
光秀の場合とは、何か、異なる部分を感じる。
荒木摂津守、是れも、越前より、直ちに、播州奥郡へ相働き、
人質執(と)り固め参るべきの旨、仰せ付けられ侯。
(『信長公記』)
五年前、永禄十三年1570、三月。
信長は、今は亡き毛利元就から、播磨への出勢を依頼されていた。
旧冬、如閑斎を差し下し候のところ、
元就より、只今永興寺(周端)を以って、委しき趣を承り候、
条々御入魂の次第、大慶に候、
先度、生田寺に遂(逐)一申し含め候ひし、
定めて相達すべく候、
播州出勢の日限、追って申すべく候、
油断に非ず候、
備前表行(てだて)の事、其の節に至り時日を移すべからず候、
随って、芸・豊間の和平は然るべく存ずるの条、
上意を加えられ候様に馳走せしむべく候、
其れに就きて、豊州の使者の申し分、粗(ほぼ)承り候、
其の通り、湍西堂に申し渉し候、
何篇、信長に於いては、疎意有るべからず候条、
貴所別して執り申さるべき事、専用に候、
暫く在洛たるべきの間、尚重ねて申すべく候、
恐々謹言、
(永禄十三年)
三月十八日 信長(花押)
小早川左衛門佐(隆景)殿
(「小早川家文書」「織田信長文書の研究」)
表面上、織田と毛利は、友好関係にあった。
そのことがあった。
これ、すなわち、大義名分。
それ故、織田と毛利の間には、波風が立っていない。
表面上、友好関係にあった。
信長は、毛利との戦いを想定した。
しかし、互いに、心の内は違った。
「漣(さざなみ)」が立っていた。
信長は、毛利との戦いを想定した。
「遠からず」、・・・・・。
毛利、また然り。
「避けられぬ」、・・・・・。
そう、思っていた。
信長は、越前の復興を急いだ。
同じ頃。
信長は、越前の各所に数多くの禁制を与えている。
破壊も早いが、復興も早い。
以下は、織田庄に宛てたもの(福井県丹生郡越前町織田)。
禁制
越州織田庄
一、軍勢・甲乙人等、濫妨・狼藉の事、
一、伐採山林・竹木の事、
一、放火の事、
右条々、堅く停止せしめおわんぬ、
若し違犯の輩(ともがら)に於いては、速やかに厳科に処すべき者
なり、
仍って下知、件の如し、
天正三年九月 (朱印)
弾正忠
(「剣神社文書」「織田信長文書の研究」)
この他にも、かなりの数にのぼっている。
永平寺宛禁制 (福井県吉田郡永平寺町 「永平寺文書」)
熊坂郷宛禁制 ( 〃 福井市大味町 「法雲寺文書」)
寮村宛禁制 ( 〃 福井市寮町 「中島正文氏所蔵文書」)
新郷郷宛禁制 ( 〃 あわら市・坂井市 「斎藤文書」)
竹守村宛禁制 (現在地不明 「瓜生文書」)
石場荘宛禁制 (現在地不明 「慶松勝三家文書」)
風尾村宛禁制 ( 〃 福井市風尾町 「勝鬘寺文書」)
河口荘本庄郷宛朱印状( 〃 あわら市・坂井市 「越前国相越記」)
河口荘荒居郷宛禁制( 〃 あわら市・坂井市 「坂井郡春日神社文
書」)
(「織田信長文書の研究」)
多聞院英俊は、信長を源頼朝に比した。
同三日。
越前の様子は、奈良にも伝えられた。
一、越前国の事、
去る月、十六日に木ノ辺(芽)・鉢伏、
追って、十七日・八日に府中に至り、
廿日・廿一日に、一乗ノ谷へ入る、
一国一円、敗北しおわんぬ、
亡国になるべしと申す、
朝倉三郎・同孫三郎・同与三・豊前ノ西方院を始めとして、
ここにて、五百・六百、彼にて、五百・千、
此の手にて、二百・三百討ち捕り、
五十人・六十人づつ生け捕りて、首を刎ね、
或いは、男女老若論せずして、撫で切り、
一国大旨討ち▢おわんぬ、←(注)殺?
扨(さて)も数万▢害ノ罪、これを為す如何、←(注)殺?
此の比(ころ)は、加賀国へ切り入り、
は(早)や、く(口)ち二郡は切り従へおわんぬ、
奥二郡も、種々懇望の間、加州一国も存分に候、
能登・越中も存分たるべしと云々、
抑(そもそ)も、頼朝以来はこれ在るべからざる歟、
希代の事なり、
(「多聞院日記」九月三日条)
多聞院英俊は、日記の中で信長を源頼朝と比した。
頼朝は、この時から三、四百年ほど前の時代を生きた。
信長にとっても、英俊にとっても、それほど遠い昔の人物ではなかった。
信長の越前一揆殲滅戦。
「大殺戮」
斯くして、諸国に拡散していく。
⇒ 次へつづく 第194話 16光秀の雌伏時代 4服部七兵衛
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