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松下幸之助という人物。

パナソニックが9月末に実施する早期希望退職に、1000人を超える応募があったことがわかった。国内従業員数の1%以上に相当する。勤続10年以上の社員を対象に、退職金を上乗せして支給する。

パナソニック、という会社は、別会社になったのかもしれない。松下幸之助は、生前に下記のような事を話している。

「きみ、社員は大事にせんとあかんよ。わしが、店を始めたころや。そのころは、店自体も小さいながら、それでも、次第に発展しておったから、人を採らんといかんわな。それで募集すると。けど、誰も来ぃへんわけや、早い話。ところが、時折、応募して来てくれる者がいる。こっちはな、とにかく人が欲しいから、まあ、誰でもいいというわけやないけど、そこそこであれば、決めるんや。明日から、来なさいと言う。ところが、そう言って本当に明日から来てくれるかどうか、心配になる。翌朝、その子が来てくれるか、表の道に出て、角のところで、そっと覗いていて、遠くから歩いてくる彼の姿を見つけると、嬉しかったな。よう来てくれた。すぐに店に戻って、待つんや。そんな状態やったな。だから、その子を育てんといかん、立派な人に育てんといかん、と心のなかで誓っておったもんや」

この話を聞いたとき、松下の、社員を大事にする原点がここにあるのではないかと思った。

「経営を進めていくと、いいときもあるし、悪いときもある。いいときには、それは、問題はありませんがね。悪いときには、会社を縮小せんといかんという場合も出て来ますわね。だから、縮小することは、決して悪いことではありません。縮小しなければ、その会社は潰れますからな。ただ、縮小するから、人が余るに決まってます。しかし、それを、簡単に余った人の首を切るということでは、経営者としては失格ですわ。その余った人を、どう活用するか。どう使うかということを、経営者は考えんといけない。これは、当然のことです。

余ったら、首を切る。赤字になったら、社員の首を切る。そういう経営者は経営者たる資格はありませんわ。そういうことをしていると、会社は大きくなりませんね。大事な社員を、経営者が工夫もせず、新しい仕事の分野、事業も考え出すこともしないんですからね、失格と言われても仕方ないと思いますな。私は、そういう考え方で仕事をやってきましたね。社員は宝です、私にとっては。そんな宝を、捨てることは、ようしませんでしたよ」

次の話は、あまりにも有名である。後藤清一の『叱り叱られの記』から引用する《部分略》。

“おっ!皆よう聞けよ。大将は泣いてはったで。よう聞けよッ”。昭和4年12月のことである。師走の風は松下にも冷たかった。同年7月の浜口内閣苦心のデフレ政策が裏目に出るに及んで、事情は一変した。月商10万円の売り上げは、半分に急減。倉庫満杯。製品はどんどん累積する。あの街この街に失業者が溢れ出る。物価暴落、倒産続出。松下の従業員も、解雇の不安で浮足立った。密かに、整理すべき人の名前をメモし始めていた。

窮状打開に、井植氏は、ついに折から西宮で静養中の大将の枕元に走った。

“松下始まって以来のこの窮状を打開する道は、ひとまず従業員を半減し、生産を半減するほかありません”

大将は病床で腕を組む。長い間、黙思し、しばし落涙されたという。そして口を開かれた。

「一人といえども辞めさせたらあかん」

“なあ、ワシはこう思うんや。企業の都合で解雇したり採ったりでは、社員は働きながら不安を覚える。松下という会社は、ええときはどんどん人を採用して、スワッというとき、社員を整理してしまうのか。大をなそうという松下としては、それは耐えられんことや。曇る日照る日や。一人といえども辞めさせたらあかん。ええか、一人も解雇したらあかん!”

そして、沈着な指示が飛ぶ。工場は半日操業。従業員も半日勤務。生産半減。ただし、社員の給与は全額支給すること。ビタ一文削ることはあいならぬ。一方、店員は休日を返上して販売に回る。工場幹部も、昼からは販売に回る。

井植氏は小躍りする。異論のあろうはずがない。時を移さず、大将の意は全社に伝えられる。ウォーッ。歓呼。嗚咽しながらの歓呼。大将、よう言うてくれはりました。売りまっせ、やりまっせ。こみあげる感動に、皆突き動かさた。

翌日から、井植氏を先頭に、店員、工場幹部は、勇躍不況の街に散る。何としても売る。熱意、火の玉と化して、世間の沈滞した空気をよそに、松下に恐ろしいほどの気迫がみなぎった。わずか2カ月で、あれほどの在庫が、きれいさっぱりと空になった。社員一人ひとりの顔に、未曽有の不況を突破していく歓喜さえうかがえた。やがて、半日操業中止。全社を挙げて殺到する注文の消化に追われるようになった。(引用ここまで)

松下幸之助の、人を大事にする思いは、生涯、変わることはなかった。

(抜粋)

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時代は変わったから(松下氏の考え方は通用しない)というが、欧米では、日本型雇用が見直されている。人をコストとしてみて切り捨てるやり方ではなく、資産(まさしく人材)として大切に育てていこうというやり方である。

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