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140文字小説

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2021年5月の記事一覧

少女の恩返し(2) (140文字小説)

少女の恩返し(2) (140文字小説)

 点字って、むずかしい。

 私はいま、独学で視覚障害者用のガイドヘルプを学んでいる。

 あの日、歩道の信号は青だった。

 でも無視した車が、私を襲った。

 気がつくと、病院のベッドでママに抱き締められた。

 私を助けてくれた人は、視力を失ったらしい。

 残りの人生を、私はその人に捧げたい。

少女の恩返し(1) (140文字小説)

少女の恩返し(1) (140文字小説)

 考えるより早く、足が出た。

 信号無視の車と、横断歩道にいたランドセルの少女。

 少女が助かった代償に、僕は光を失った。

 太陽も空も、月も星も、花も緑も、僕の世界から消えた。

 もう絵は描けない。

 僕が二十歳を超えたある日、制服姿の女性が家に来た。

「あなたの目にならせてください」

私は、たしかめたい (140文字小説)

私は、たしかめたい (140文字小説)

「おかけになった電話は…」

 機械的な声が、連絡が取れないことを無慈悲に伝えてくる。

 まただ。

 この時間、夫は電話にでない。

 言い訳はきまって、「忙しい」だ。

 夫に他の女性がいないか、私は不安でたまらない。

 私はまたコールする。

 バスの運転中でも、出てくれたっていいじゃない。

電車を早くしたら、世界が変わった。 (140文字小説)

電車を早くしたら、世界が変わった。 (140文字小説)

 路面電車が揺れる。

 振動に合わせて、僕のからだも揺れる。

 気分を変え、今日は一本早い電車だ。

 一本違えば、別世界に来たようだ。

 ふと、はす向かいに座る女性が目に入った。

 髪をまとめ、文庫本に目を落としている。

 電車の揺れの速さを、胸の鼓動の速さが追いこした。

 え?ひとめぼれ?

火の鳥と人魚 (140文字小説)

火の鳥と人魚 (140文字小説)

 頭を抱えている。

 火の鳥は、少し歳を取るが不死になる生き血を。

 人魚は、少し若くなるが不老になる肉を、それぞれ俺の前に並べている。

 不死も魅力だが、若いままで女と遊び倒したい。

 人魚の肉だ!

「あ~あ、また人魚の勝ちね」

「みんな、若いのがいいのよ」

「ほぎゃぎゃ(詐欺だ)」

最後の晩餐はステーキで (140文字小説)

最後の晩餐はステーキで (140文字小説)

「最後の晩餐、食べるならなに?」

 向かいに座る妻から、おだやかに訊ねられた。

 無難にステーキと答えておこう。

 翌日、夕食はステーキが出た。

 良い肉だった。満足だ。

「最後の晩餐、楽しんだ?」

 うすく笑む嫁の唇から鋭い牙が覗いている。

 ドラキュラ?

「あなた、とっても美味しそう」

「どっちもどっちだ」と大将は語った。 (140文字小説)

「どっちもどっちだ」と大将は語った。 (140文字小説)

 そんな人だと思わなかった。

 突然、彼女は手で顔を覆い、わんわんと泣き始めた。

 戸惑った俺はハンカチを渡した。

 カウンターの中では、大将も困惑してる。

 いったい何が原因なのか。

 心配だが、ラーメンものびる。

 彼女のことは落ち着くのを待とう。

 俺はマイフォークでまた麺をすすった。

家出少女は恋をする(下) (140文字小説)

家出少女は恋をする(下) (140文字小説)

 パンプスにも慣れ始めた。

 朝、駅まで駆ける途中、私は一本の電信柱で足を止める。

 よくここで話をした。

 遅い初恋を、一回りも離れたおじさんに捧げた。

 告白した時の困った顔は、今も忘れない。

 おじさん、私は元気だよ。

 天国で元気にしてる?

 幽霊の人生相談所、とっても楽しかったよ!

家出少女は恋をする(中) (140文字小説)

家出少女は恋をする(中) (140文字小説)

 愚痴りたくなったら、ここに来い。

 あの日、家出した私の話を聞いてくれたおじさんは、そう言った。

 そこで私はまた座ってる。

 目印の電信柱の横で。

「また愚痴か?」

 おじさんが来た。

「愚痴じゃないけど…」

「じゃあなんだ?」

「別に…」

「俺に惚れたか?」

 デリカシー無さすぎだよ。

家出少女は恋をする(上) (140文字小説)

家出少女は恋をする(上) (140文字小説)

「好きにしていいから、泊めてよ」

膝を抱えているJKに懇願された。

家出か?と俺が訊くと、こくんと頷いた。

ため息を吐き、JKの隣に腰をおろした。

理由は親とのケンカという、かわいいものだった。

「泊めるのは駄目だ。けど、また愚痴りたくなったら、ここに来い。いつでも聴いてやる」

因果応報 (140文字小説)

因果応報 (140文字小説)

 バカは搾取される。

 俺の持論だ。

 愚者は、賢者に尽くせばいい。

 今日も五件騙して、今月これで億を超えた。

 笑いが止まらねぇぜ!

 たまには親孝行してやるか。

「お袋!俺だ」

「ちゃんと受け取ったかい?」

「ん?なにを?」

「あんたの通帳と印鑑だよ。部下って人にちゃんと渡したよ」

秘密のメッセージ (140文字小説)

秘密のメッセージ (140文字小説)

 重力に逆らわず、消しゴムは床にキスをした。

 こんな時に、と僕はうなだれた。

 先生に頼みたいけれど、見られると厄介だ。

 試験が終わったら、すぐ回収しよう。

 そう思っていたら、よりによって中村さんが気づいて拾った。

 中村さんの耳が赤くなった。

 なぜ、僕は消しゴムに書いてたんだ!?

どん底の逆転 (140文字小説)

どん底の逆転 (140文字小説)

 辞令がおりた。

 九州への異動。事実上の左遷だ。

 取引先へのミスから二週間、会社の対応は早かった。

 彼女に話すと、そう、と一言だけ。

 こちらも事実上の破局だ。

 荷物を出した部屋で、床を拭きながら涙が落ちた。

 移動当日、駅には彼女がいた。

「鹿児島なら黒豚だよね!さあ行くよ!」

元気をもらう (140文字小説)

元気をもらう (140文字小説)

 密なバスはまだ来ない。

 自宅でコーヒー片手に、優雅に俺も仕事したい。

 買う気もない奴に、今日も店で尻尾をふるのか。

「おはようございま~す!」

 大きいランドセルを背負った小さな子が、元気に挨拶してくれた。

「おはよう。今日もがんばってね」と返した。

 まるで自分に向けたようだ。