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東原そら
2021年5月31日 21:55
点字って、むずかしい。 私はいま、独学で視覚障害者用のガイドヘルプを学んでいる。 あの日、歩道の信号は青だった。 でも無視した車が、私を襲った。 気がつくと、病院のベッドでママに抱き締められた。 私を助けてくれた人は、視力を失ったらしい。 残りの人生を、私はその人に捧げたい。
2021年5月30日 20:03
考えるより早く、足が出た。 信号無視の車と、横断歩道にいたランドセルの少女。 少女が助かった代償に、僕は光を失った。 太陽も空も、月も星も、花も緑も、僕の世界から消えた。 もう絵は描けない。 僕が二十歳を超えたある日、制服姿の女性が家に来た。「あなたの目にならせてください」
2021年5月30日 13:33
「おかけになった電話は…」 機械的な声が、連絡が取れないことを無慈悲に伝えてくる。 まただ。 この時間、夫は電話にでない。 言い訳はきまって、「忙しい」だ。 夫に他の女性がいないか、私は不安でたまらない。 私はまたコールする。 バスの運転中でも、出てくれたっていいじゃない。
2021年5月28日 20:11
路面電車が揺れる。 振動に合わせて、僕のからだも揺れる。 気分を変え、今日は一本早い電車だ。 一本違えば、別世界に来たようだ。 ふと、はす向かいに座る女性が目に入った。 髪をまとめ、文庫本に目を落としている。 電車の揺れの速さを、胸の鼓動の速さが追いこした。 え?ひとめぼれ?
2021年5月27日 19:45
頭を抱えている。 火の鳥は、少し歳を取るが不死になる生き血を。 人魚は、少し若くなるが不老になる肉を、それぞれ俺の前に並べている。 不死も魅力だが、若いままで女と遊び倒したい。 人魚の肉だ!「あ~あ、また人魚の勝ちね」「みんな、若いのがいいのよ」「ほぎゃぎゃ(詐欺だ)」
2021年5月27日 18:33
「最後の晩餐、食べるならなに?」 向かいに座る妻から、おだやかに訊ねられた。 無難にステーキと答えておこう。 翌日、夕食はステーキが出た。 良い肉だった。満足だ。「最後の晩餐、楽しんだ?」 うすく笑む嫁の唇から鋭い牙が覗いている。 ドラキュラ?「あなた、とっても美味しそう」
2021年5月25日 20:29
そんな人だと思わなかった。 突然、彼女は手で顔を覆い、わんわんと泣き始めた。 戸惑った俺はハンカチを渡した。 カウンターの中では、大将も困惑してる。 いったい何が原因なのか。 心配だが、ラーメンものびる。 彼女のことは落ち着くのを待とう。 俺はマイフォークでまた麺をすすった。
2021年5月25日 16:57
パンプスにも慣れ始めた。 朝、駅まで駆ける途中、私は一本の電信柱で足を止める。 よくここで話をした。 遅い初恋を、一回りも離れたおじさんに捧げた。 告白した時の困った顔は、今も忘れない。 おじさん、私は元気だよ。 天国で元気にしてる? 幽霊の人生相談所、とっても楽しかったよ!
2021年5月23日 20:13
愚痴りたくなったら、ここに来い。 あの日、家出した私の話を聞いてくれたおじさんは、そう言った。 そこで私はまた座ってる。 目印の電信柱の横で。「また愚痴か?」 おじさんが来た。「愚痴じゃないけど…」「じゃあなんだ?」「別に…」「俺に惚れたか?」 デリカシー無さすぎだよ。
2021年5月23日 19:59
「好きにしていいから、泊めてよ」膝を抱えているJKに懇願された。家出か?と俺が訊くと、こくんと頷いた。ため息を吐き、JKの隣に腰をおろした。理由は親とのケンカという、かわいいものだった。「泊めるのは駄目だ。けど、また愚痴りたくなったら、ここに来い。いつでも聴いてやる」
2021年5月22日 17:44
バカは搾取される。 俺の持論だ。 愚者は、賢者に尽くせばいい。 今日も五件騙して、今月これで億を超えた。 笑いが止まらねぇぜ! たまには親孝行してやるか。「お袋!俺だ」「ちゃんと受け取ったかい?」「ん?なにを?」「あんたの通帳と印鑑だよ。部下って人にちゃんと渡したよ」
2021年5月20日 20:09
重力に逆らわず、消しゴムは床にキスをした。 こんな時に、と僕はうなだれた。 先生に頼みたいけれど、見られると厄介だ。 試験が終わったら、すぐ回収しよう。 そう思っていたら、よりによって中村さんが気づいて拾った。 中村さんの耳が赤くなった。 なぜ、僕は消しゴムに書いてたんだ!?
2021年5月19日 19:53
辞令がおりた。 九州への異動。事実上の左遷だ。 取引先へのミスから二週間、会社の対応は早かった。 彼女に話すと、そう、と一言だけ。 こちらも事実上の破局だ。 荷物を出した部屋で、床を拭きながら涙が落ちた。 移動当日、駅には彼女がいた。「鹿児島なら黒豚だよね!さあ行くよ!」
2021年5月19日 15:49
密なバスはまだ来ない。 自宅でコーヒー片手に、優雅に俺も仕事したい。 買う気もない奴に、今日も店で尻尾をふるのか。「おはようございま~す!」 大きいランドセルを背負った小さな子が、元気に挨拶してくれた。「おはよう。今日もがんばってね」と返した。 まるで自分に向けたようだ。