私は、猫にも犬にもなれない。
深夜、私は猫になる。
ネオン街の片隅。
ウイスキーとタバコの匂いが混ざり合う、
甘くて苦いステージ。
猫はここで、シャンソンを歌うのだ。
古いスタンドマイクに、赤いヒール。
長くて艶やかな黒髪に、厚い唇。
…そして、薄明かりの中で光る、濡れた瞳。
気まぐれな猫は、愛想と色気だけを武器に、
夜の街を渡り歩く。
そして、
ご主人様からエサを貰うと、すぐに、
……夜の果てに、消えていくのだ。
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昼、私は犬になる。
ご主人様には、逆らえない。
言うことを聞くのが、当たり前。
スリスリと、足元に擦り寄って、
ご主人様の顔色を伺うのだ。
プルルルル…… プルルルル……
…カタカタ… カタカタ……
けたましく鳴り響くフォンコールと、
キーボードを弾く音。
……騒々しい檻の中。
閉じ込められた犬は、
何度も何度も…シッポを振ってアピールする。
ご主人様の、お気に入りになる為に…。
そして、エサを貰う為に…。
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今日も、日は沈む。
三日月に照らされて、
檻から出た犬は、猫になる。
そして、また、
エサを求めて、夜の街へ消えるのだ。
………昼だけだと、エサが足りないの。
お腹が空いて、死んだらどうするの……?
猫は、独り言を呟いた。
しかし、夜空に響いたのは、
「ニャー」という、悲しい鳴き声だけだった…。