セン シラノ

短編小説、ひとりごと。食べることと、お酒が好きです。朝より夜の方が調子良いタイプです。

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短編小説、ひとりごと。食べることと、お酒が好きです。朝より夜の方が調子良いタイプです。

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私は、特別じゃない。

「8月、もう終わるのか…。」 独り言が、部屋にポツンッ…と落ちた。 クーラーの効いた部屋に寝そべり、 猫のような欠伸ををする、休日の午後。 私は、白い天井をぼーっと眺め、 この夏を思い出していた。 悲しくもない、嬉しくもない、 ただ、時間が流れるだけの平凡な毎日。 ……人生は、特別なものじゃない。 小説や映画のようなことは、起きないのだ…。 一人暮らしの、狭い部屋。 午後の陽だまりが、薄いカーテンを通り抜けて、 部屋の片隅に集まっていた

    • それを、愛と…

      「もしもし…。」 夜、薄暗い部屋。 ベッドに座り、布団にくるまった私は、 スマホを耳に近づけた。 『…久しぶり、元気にしてた?』 耳に絡まる、、甘くて低い声。 あの頃の思い出が、一気に押し寄せる。 …息苦しくて、切なくて、、 思わず、目をぎゅーっと、つぶってしまった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 共働きの両親は、 忙しくなると、私を叔父に預けた。 叔父は、嫌な顔をせずに、 私と一緒に過ごしてくれた。 遊園地ではしゃいだり、 動物

      • 就活ゾンビ。

        ……うーん、、なんか見覚えある感じ。 面接会場に着いた私は、 エントランスの前で、足を止めた。 …そして、後ろを振り返った。 スーツを着た人間が、次々にやって来る。 同じ服、 同じ髪型、 同じ顔… …なんだっけ、これ、、 なんか見覚えあるんだけどなぁ。 虚ろな目をした人間が、 次々と、エントランスに吸い込まれていく… あっ、、 そう、これはまさに、 ゾンビゲームだ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー …えっ、えぇ、、みんな大丈夫

        • 私は、猫にも犬にもなれない。

          深夜、私は猫になる。 ネオン街の片隅。 ウイスキーとタバコの匂いが混ざり合う、 甘くて苦いステージ。 猫はここで、シャンソンを歌うのだ。 古いスタンドマイクに、赤いヒール。 長くて艶やかな黒髪に、厚い唇。 …そして、薄明かりの中で光る、濡れた瞳。 気まぐれな猫は、愛想と色気だけを武器に、 夜の街を渡り歩く。 そして、 ご主人様からエサを貰うと、すぐに、 ……夜の果てに、消えていくのだ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 昼、私は犬になる。 ご

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        私は、特別じゃない。

          いつもと変わらない、非日常。

          目覚ましのアラームは、鳴らない…。 朝。ベッドルーム。 窓から差しこむ陽の光が、瞼を照らす。 セミの声や、小鳥のさえずりが耳に届く。 寝返りを打ち、うっすら目を開けると、 窓の外は、雲一つない青空。 そう、 今日は私の、特別な日…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー キッチンへ向かい、ブラックコーヒーを淹れる。 …コーヒーの香ばしい薫りが、鼻をくすぐる…。 私は、ティーカップを片手で持ち上げて、 窓の外を眺めた。 (今日は、何をしようか…何を食べ

          いつもと変わらない、非日常。

          夜の魔物。

          「げつようび、またあそぼうね!ぜったいだよ…」 ……そう言い、お互いにハグをした。 子どもの頃、 金曜日は、永久の別れのよう…。 悲しくて、切なくて、寂しくて…、 バイバイの手が、弱々しくなる。 ……空は、紅色。 夕日が、 僕たちの背中を、赤く染める…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 子どもの頃、夜、 死ぬのが怖くて、眠れなくなったことがある。 「明日って、本当に存在するのかな…」 「今、目をつぶって、、 二度と、起きられなかっ

          夜の魔物。

          君と、黄昏ドライブ。

          海岸通り。 夕焼けの赤と、夜の藍色が滲む空。 ヤシの木と、広くて深い海。 僕は、君を右側に乗せ、 海辺をドライブ。 ……何も話さないけど、心地良い。 カーステレオから流れる、 君の好きな、ボサノヴァ。 アコースティックギターと、 ウッドベースの音色が、心地良い。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 海岸通りを抜けて、トンネルに入った。 真っ暗闇の中、 彼女の、揺れるイヤリングだけが、 光り輝いている。 出口はまだ、遠く…。 ……このまま

          君と、黄昏ドライブ。

          早川義夫と、私。

          ………ザワザワ、ザワザワ… 「 名前は_____。職業、趣味、兄弟は_____。」 …うわー、、…なんか、堅苦しい…。 都内の有名ホテル。 私は今、婚活パーティーに来ている。 ( 親に勝手に申し込まれて、仕方なく…) 35歳独身。※処女、未婚。 趣味は、イケメンを眺めること。 最近は、恋愛ゲームにはまっている。 そんな、 落ちこぼれで、どうしようもない私に、 まさか、あんなことが起きるなんて、、 …この時は、思ってもいなかった…。 ーーーーーーーーー

          早川義夫と、私。

          思い出のレモンケーキ。

          「アップルティー、…それと、レモンケーキ。」 午後の、北欧風カフェ。 私のお気に入りの場所。 休日はいつも、ここへ来て、 紅茶と、甘いスイーツを楽しむ。 ……心の糸が、緩んでいく…、 …私の、唯一の自由時間…。 そんなある日、 ……私は、不思議な出会いをした。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 『…すいません、 ここの椅子、、座っても良いですか…? 』 レモンケーキを食べていた時、 後ろから、柔らかな声が聞こえた。 …振り返る

          思い出のレモンケーキ。

          空の蒼さを知るカエル。

          君が悲しいのは、 未来を信じていたから。 当たり前だと思っていた色彩が、 ある日突然、灰色になる。 真っ暗で、何も無い、 モノクロの世界。 思い描いていた未来が、崩れ落ち、 その先に続く階段を、作り直さないといけない。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー あなたの涙は、真剣に向き合った証。 自分の体よりも、大きなものと戦う時、 恐怖と不安が、足首を掴んで離さない。 思うように体が動かなくても、 手や腕を使って、何とか戦い続ける。 最後の最後まで

          空の蒼さを知るカエル。

          たった一つ、変わらないもの。

          家の近く、小さな空き地。 小学生の僕らは、いつもここに集まった。 両親は離婚し、母子家庭。 家に帰っても、誰もいない。 学校にも、居場所が無い。 ……そんな、似た者同士の僕らは、 同じ苦しみ、同じ時間を共有し合った。 ……リンだけは僕の味方で、特別な存在…。 …そう、思っていた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「すごーい!! …ねぇ、すごいよ! ベッド広すぎ、お風呂も大きすぎ! …しかも、夜景がすっごい綺麗…!

          たった一つ、変わらないもの。

          午後、ヒミツの逃避行。

          「 すいませーん!チョコレートパフェ、1つ!」 ……はーい! 少々お待ちくださいねー。 駅前の、レトロな喫茶店。 私は、ここのアルバイト。 大学に行かず、就職もせず、 地元の喫茶店で、アルバイトをしている。 ……何の取り柄もない、、 そんな私の、ある日の出来事。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 金曜日の、午後14時。 まだ、太陽が眩しい時間。 ……カラン、コロン、 店のドアが動いた。 『いらっしゃいませ、お好きなお席にどうぞ。』

          午後、ヒミツの逃避行。

          異世界と、訪問者。

          ……朝からずっと、動いていない。 ソファに座り、テレビを見続ける。 朝のニュース。ワイドショー。 録画していたドラマ、バラエティ番組。 映画のDVD、コンサートのDVD。 …ふと、気がつけば、もう午後3時。 遅めの昼食を買いに、 コンビニに行こうとした、その時、 …家のチャイムが鳴った。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ……ピンポン、ピンポーン。 ドンドンドンドン、、、(ドアを叩く音。) 「ねぇねぇ!!開けてぇ! お願いだから

          異世界と、訪問者。

          コッケイな彼女。

          僕の目の前で、肉を頬張る彼女。 炭火の香ばしい匂い。 換気扇に吸い込まれる、白い煙。 店内で流れるJ- popと、騒がしい笑い声。 そんな中、僕らは個室。 ここだけ、異世界。 彼女は、黙々と、肉を口に詰める。 僕は、ただ黙って、それを見つめていた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 中学生の頃、合唱部だった。 …夏の暑さが残る、秋の入り口。 放課後、音楽室で、 合唱コンクールの練習をしていた。 先生のピアノの音と、部員の歌声が、 僕の眠気を誘

          コッケイな彼女。

          妄想と夏、そして老い。

          スイカ割り、かき氷、夏の恋、海、花火… あー! 泣 夏を感じたい! ……そんな私は、今、絶賛在宅ワーク中。 ここから見えるのは、パソコンと冷蔵庫のみ。 そして、ノーメイク、メガネ、 髪は後ろで束ねただけ、ゆるい服。 …私の女子力は消えたのか?! せめて、妄想の中だけでも、夏を楽しみたい! せめて、妄想では、イケてる女になりたい! …ということで、ただ今より、 「 夏祭りごっこ at home 」 を、開催いたします。 ーーーーー

          妄想と夏、そして老い。

          恋とそれは、、

          誰もいない校舎、セミの鳴き声。 青空と、照りつける太陽。 夏休みなのに学校にいるのは、 園芸係の、水やり当番だから。 そして、…あの人に会う為。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 『 だーーれだ!! 』 突然、視界が暗くなり、 目元に、柔らかい手の感触。 そして、耳をくすぐる可愛らしい声と、 甘い香り。 「……このみ、、せん、せい? 」 『 んふふ…、あたりー! 』 視界が明るくなり、 先生のいたずらな笑顔が、ぼんやり見える。 僕よ

          恋とそれは、、