コッケイな彼女。
僕の目の前で、肉を頬張る彼女。
炭火の香ばしい匂い。
換気扇に吸い込まれる、白い煙。
店内で流れるJ- popと、騒がしい笑い声。
そんな中、僕らは個室。
ここだけ、異世界。
彼女は、黙々と、肉を口に詰める。
僕は、ただ黙って、それを見つめていた。
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中学生の頃、合唱部だった。
…夏の暑さが残る、秋の入り口。
放課後、音楽室で、
合唱コンクールの練習をしていた。
先生のピアノの音と、部員の歌声が、
僕の眠気を誘う。
……暑いし、眠たいし、早く終わらないかなぁ。
そんなことを思っていると、
突然、ピアノの音が止まった。
シーンと静まる音楽室。
……しばらくして、先生は急に立ち上がった。
そして大声で、こう言った。
「人差し指と、中指と、薬指をくっつけてー、
そう、それを口の中に縦に入れるの。
口を縦に大きく開いてー、、
そう、もっと!! もっと大きく開くの!! 」
…部員全員が、3本指を口に入れている。
口を開いた、マヌケな顔、顔、顔…。
鼻の穴が膨らんだ、顔、顔、顔…。
その様子がとても滑稽で、 奇妙で、、
……初めて、興奮を覚えた。
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それから僕は、
人が、口を大きく開けた時に、
無意識に、興奮するようになった。
・テレビの、大食いギャル。フードファイター。
・恵方巻き、ハンバーガーを食べる人。
・歯医者で治療される人。
・若手ロックバンドの、ボーカルの叫び。
など……
それはまるで、
人の本能がさらけ出された瞬間。
……とても、趣深い姿だ。
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そして、大人になった僕は、
口いっぱいに肉を頬張る彼女を、
ただ、見つめていた。
人の本能、本性がさらけ出される瞬間。
僕と目も合わせず、
必死に肉に食らいつく彼女を見て、
……やはり、人間は滑稽な生き物だ。
と、心の中で、そう思った。
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