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たった一つ、変わらないもの。


家の近く、小さな空き地。

小学生の僕らは、いつもここに集まった。


  両親は離婚し、母子家庭。

  家に帰っても、誰もいない。

  学校にも、居場所が無い。



……そんな、似た者同士の僕らは、

同じ苦しみ、同じ時間を共有し合った。



……リンだけは僕の味方で、特別な存在…。


…そう、思っていた。


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「すごーい!!   …ねぇ、すごいよ!

   ベッド広すぎ、お風呂も大きすぎ!

    …しかも、夜景がすっごい綺麗…! 」



…大人になった僕らは、

今、高級ホテルの最上階にいる。


リンは、子供みたいにはしゃぎながら、

部屋の隅から隅まで、見て回り、

目を輝かせている。



…僕とリンが合うのは、7年ぶり。


高校を卒業してから今まで、

会えなかった。


…いや、会わないようにしていた。


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高校の修学旅行。

僕らは、初めて東京に来た。


…見るもの全てが、大きくて、、

    目線はいつも、空の方を向いていた。



〈  2日目。自由行動の時間。〉

同じ活動グループだった、リンと僕は、

原宿の竹下通りに行った。


そこでリンは、

スーツの知らない大人に、声を掛けられる。


『あのー、、、すいません、

   ちょっと、お話いいですか?

   わたくし、〇〇事務所の△△という者です。


   好きな芸能人とかってー、、いますか…?』



………"スカウト" だった。


リンは、「へぇ」とか、「はぁ」とか、

中途半端な返事をしながら、

四角い名刺を、両手で持っていた。


…長い黒髪が風に揺れ、光を放っていた。


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高校を卒業した直後、

リンは、東京へ行った。


最初の頃は、テレビや雑誌に出るたびに、

「ねぇ! 聞いて!

  次はねー、〇〇っていう雑誌に出るの!」


…という電話が、頻繁に掛かってきていたのだが、


最近は、もう、、そんなことは無くなった。



テレビを見ても、雑誌を見ても、

どこにでも、リンは生きていた。



……僕の知っているリンは、

      もう、遠くへ行ってしまった、、、。


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数年経った、ある日の深夜。

久々に、リンからの電話だった。


「ねぇ! 元気にしてたぁ?

   久しぶりにさぁ、、会いたいなーと思って…


   ……ちょっと、、、色々と疲れちゃってさ、、

    忙しかったら、全然大丈夫なんだけど、」



…会わない理由が、見つからなかった。


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……そして今、ここにいる。


スカイツリーと、夜の輝き。


……そして、バスローブ姿のリン。

     濡れた髪が、首筋に張り付く。



2人でバルコニーの椅子に座り、

夜景を、ぼんやり眺めていた。



「……私ね、、

   この仕事、辞めようと思ってるの…。」



……リンは、ウイスキーを一口飲み込む。


「もう、親の借金も全部払ったし、

    社長の夢も、叶えたし、、

    ドラマも、映画も、雑誌も、全部出られた…。


    ……もうそろそろ、

    自分の為に生きてもいいのかなぁって、、

     自分の人生、楽しんでもいいのかなぁって、

      思ったの…。」



…僕らは、無言のまま、夜空を見上げる。



「ねぇ、、、小さい頃の約束、覚えてる?

     

   ……大きくなったら、結婚するっていう約束。」


「ねぇ、レン、、、私と________。」


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子供の頃も、今も、変わらない。


僕の味方はリンだけで、

…リンは特別な存在。



…そして、


リンの味方は僕だけで、


……僕もずっと、、

特別な存在だったのかもしれない。



    


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