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【短編小説】最高気温50℃
「昔はもっと涼しかったのにね」
平成生まれのおばあちゃんが、口癖のように言っていた。
35℃を超えるのが当たり前の時代に産まれた私にとっては、何を言っているんだとしか思えなかった。まあ、おばあちゃんも歳だから、昔の在りし日のことを懐かしんでいるのだろう。そう思っていた。
ある日おばあちゃんが倒れた。
ベットの上のおばあちゃんは、苦しそうに、
「水、水……」
と苦しそうに連呼し
【私小説】私の進路と死④─タビノオワリ─
旅に出てから3日目。この日私は、初めて東京で朝を迎えた。
宿代を払って、外へ出てみる。
(それにしても、人多いな……)
人、人、人。朝だというのに、どこもかしこも人で埋め尽くされていた。時間帯ということもあるのだろうが。
東京に来ていつも思うのだが、どこに行っても人がいる。駅やその周りはもちろんのこと、閑静な住宅街や公園、細い道、寺社仏閣にも人がいる。
周りにこんなに人がいて、
【私小説】私の進路と死(前編)
11月も終わりに差しかかったころ、総合の時間に高校の話が出た。
話の内容は、入試の種類や学科について。どこの中学校でもやっているような高校の説明会だった。
「高校か……」
正直私には、将来なりたい職業がない、というより、無能すぎてどの職業を選んでも上手くいかない。そんな気がするのだ。
世の中は、人としっかりコミュニケーションが取れ、何でもそつなくこなせて、話が上手な人間だけが必要と
【私小説】私の進路と死②─鎌倉─
12月の初めのある日の早朝。地図を持って、私は旅に出た。あてのない旅に。
計画としてはこうだ。
まず、誰にも何も言わないで家を出る。三浦くんにも、多田くんにも。もちろん、あの母親は論外だ。もし誰かに言い出したら、強引に引き止めようとしてくるかもしれないからだ。
とりあえず海の方へ出よう。そう思ったので、藤沢経由で鎌倉をめぐって横浜を経由して東京へ出ようと思った。埼玉、千葉方面どちらに
【私小説】秋の楽しみ(前編)─焼き芋と読書、そして紅葉─
11月になった。先月まで緑色だった銀杏の葉は黄色く色づき、少し暖かった空気も冷たくなった。
(もう秋の盛りか)
秋だ。秋の盛りだ。
私は秋が好きだ。
まず、食べ物がおいしい。
夕方から夜になりかけの時間帯に、
「焼き芋~。焼き芋~」
と軽トラックに乗った焼き芋屋さんが、拡声器で触れ回る。
(どうする……)
この宣伝文句を聞くとふいに焼き芋を買いたい衝動に襲われる。そ