近未来SF小説

『衣・食・銃』3話:火薬の匂い

『衣・食・銃』3話:火薬の匂い

 朝食の匂いがケイジを起こした。食堂から遠い部屋を使っているので、普段ならば匂いは届かない。違和感に引かれて体を起こした。時計はまもなく十時になろうとしている。  足元には、買ってきたばかりの荷物が袋のままで置かれていた。傍のメモに短く「身につけて」と書かれている。袋の中身は非常食と、折り畳みできるシリコンのコップと、水の中型ボトルが二本と、それらの下に見覚えあるマントがあった。ただの布に見えるが、触った感触は見た目に反して、ビニールシートのように角ばっている。持ち上げると

『衣・食・銃』2話:刺激的な日々へ

『衣・食・銃』2話:刺激的な日々へ

 校門から遠い、裏口でレタを招き入れた。敷地に入ってから建物の中までは薄い屋根と砂利落としのマットで道を作っている。この屋根の裏をよく見ると、ドーム型の監視カメラを見つけた。外部からは位置を確認できず、いざ下に来ても見つけにくい。侵入の証拠を確実に残すためだ。足元のマットも同様に、何かを落とせば絡めとって痕跡とする。回収するにはマットごと動かすしかない。  かつてレタが通った学校と比べたら異文化そのものだ。地域差として片付けるには世界的に情勢が変わりすぎた。使い込みかたも周

『衣・食・銃』1話:飲食店の役目

『衣・食・銃』1話:飲食店の役目

 夕方一番に食事を求める客は少ないが、店員は届け物を受け取るため、大急ぎで入り口前の雪を退ける。  パソコンの画面には「まもなく到着」の文字が表示されている。運び屋ギルドの到着は、普段は大賑わいの時間帯にぶつかり、そのまま貴重な席を使い潰される。今回もそうなると思っていたので、はじめは雪かきを適当に済ませるつもりでいた。  ギルドの中継協力者として登録した事業者には、荷物が一定の距離まで近づいた時点で自動メッセージが届く。今日は知らせがやけに早いので、車か何かの乗り物を想

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羅刹の紅(小説投稿)第二話

羅刹の紅(小説投稿)第二話

「うわぁ・・・」 彼は外の世界に目を大きく開いた。道路に立ち並んでいる桜が満開を迎えているのだ。そしてその壮大な光景を見て、彼は思わず息を吐きだすときに喉仏を震えさせてしまったようだ。彼の頬の近くを花びらがかすめる。 彼は舞い散る桜を見ながら学校へ歩き始めた。彼はここ最近、外にほとんど出ていない。家に娯楽は充分にあるし、季節の変わり目で雨の日が多かったからだ。なので、久しぶりに見る朝の風景に一種の新鮮味を感じていた。さえずるすずめの鳴き声、まだ少し寒い春風、二階建ての一軒家が

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3. VRLの世界(第1章 I.W. 0097)

3. VRLの世界(第1章 I.W. 0097)

『∞D - 夢想幻視のピグマリオン -』 作:漆野蓮 イラスト:Daken 第1章 I.W. 0097 3. VRLの世界 差出人:柊 周 <amane_hiiragi211@xxx.jp> 件名:21世紀試験の結果とVRL補足の件 宛先:21世紀の同朋  やあ同朋、久しぶり!  ちょっと間が空いてしまったね。  前回のメールで宣言したとおり、僕は21世紀試験を受けてきたよ。  もったいぶらずに結果を伝えよう。  僕はこの試験に合格した。  合格者は僕を含めて4人。

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一五分間死んだ男 その3

一五分間死んだ男 その3

 路側帯に停まった車のウィンドウが静かに下がった。  チキショウメ。  仁田は被害妄想の塊だった。今月に入って三カ所目。大学卒業以来勤めた信用金庫を昨年の暮れにリストラされ、再就職のために求人に応募し続けていた。だが、書類を送ってもブーメランのように送り返されるのが大半で、面接に漕ぎつけても希望を伝えた途端に相手の態度が変わる。「手取り一五万!」慨嘆しながらタバコを吹かした。何でオレが。これでも前職では管理職で、年に五百万もらっていたのだ。この日応募したのは、福祉施設の生活支

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2. 21世紀試験(第1章 I.W. 0097)

2. 21世紀試験(第1章 I.W. 0097)

『∞D - 夢想幻視のピグマリオン -』 作:漆野蓮 イラスト:Daken 第1章 I.W. 0097 2. 21世紀試験 『旅立ちの訓辞』の聴講を終えた柊とその友人、楠優は記念撮影を済ませ、思い出が詰まった校舎を後にした。 「ついに来たね……この日が! あとは試験を残すのみ!」 「周、21世紀試験対策はどうよ。といっても相変わらずあれから何の情報も出てこねえが」 「もうなるようにしかならないでしょ!」 「お前な……21世紀や木佐貫一にも大して思い入れのない人間にはな、そ

一五分間死んだ男 その2

一五分間死んだ男 その2

 坂口哲也、四〇才。無職。住所不定。私大文系学部中退の後、不動産管理会社、学習塾、飲食店などに勤務。現在無職。免許、資格等なし。過去五年以上、求職活動の実績なし。両親はすでに他界し、他の親族とは音信不通。姉がいたが、不慮の事故で近年他界。住所不定のため訃報を受け取れず、葬儀への出席なし。婚姻歴なし、現在交際相手もなし。交友関係は不明。思想信条主義主張に一貫性がなく、将来性は皆無。 「見事に何もない男だな」 国立横浜大学理工学部教授の曽我時延教授は、『坂口哲也』なる男の釣り書を

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1. 旅立ちの訓辞(第1章 I.W. 0097)

1. 旅立ちの訓辞(第1章 I.W. 0097)

『∞D - 夢想幻視のピグマリオン -』 作:漆野蓮 イラスト:Daken 第1章 I.W. 0097 1. 旅立ちの訓辞  寒さと乾きは峠を越え、麗らかな陽光が旅立つ生徒の心を優しく潤した。  3月11日、世界共同体日本区の各学校では、義務教育の修了を告げる卒業の式典が執り行われた。  式を終えた生徒は教室に集まり、『絶対的育成プログラム期間』の最終章、担任教師による『旅立ちの訓辞』が行われようとしていた。 「えー、君たちは本日をもって18年間におよぶ育成期間を修了す

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プロローグ 21世紀の同朋へ

プロローグ 21世紀の同朋へ

『∞D - 夢想幻視のピグマリオン -』 作:漆野蓮 イラスト:Daken プロローグ I.W.0097.2.11 「ねえ、優くんはどう思う?」 「周……嬉しい気持ちはよく分かる。だがお前の誕生日と21世紀シナリオ解禁日が重なったことは単なる偶然だ」 「そう……かな」 「まあ、とりあえず誕生日おめでとう。ようやく18歳になったな、俺たち」 「長かったね……」 「残るは卒業式を無事終えること」 「あと1ヶ月か……」 「で、どうするよ、記念すべき初VRLは」 「そうだね……ま

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