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サードアイ ep 7 仲間割れ

 男のサードアイがすでに開いてると知って、ブルーノはなめらかな自分の額をパチンと叩いた。

「あいや!間に合わなかったでやんすか。うまくはめ込んでおいたのに」

そう言って、そのまま頭をかかえこむ。

「うまく適合しやすかね。アリフみたいにならないといいんでやんすが」

「見た感じでは、おそらく問題ないと思うわ」

 すると、男が話に割り込んできた。

「おい、その、アリフってやつ、オレの額に何か貼り付けた例の老人か?」

(ほお、このお猿は、すでにアリフに会っているってことか。なるほど、そこで無理やり開かされたってわけだ)

「あー、おそらく、そうでさぁ。まぁ、老人ってのは仮の姿でやんすよ。アリフは憑依するもんで。それが彼の特殊能力でさぁ。それであっちの世界でも肉体を持って動けるんでやんすよ」

「アリフって奴は、お前らと同じ、この星の住人なのか」

「そうでやんすが、アリフは、つまり、こっから落っこちたんでやんす。自分たちのやり方であっちの世界を変えてみせるって、仲間を引き連れて」

「じゃあ、あのじじいはお前らの敵ってことか?」

 お決まりの短絡的な思考だ。すぐに敵か味方かを決めたがる。三次元世界に長く居すぎたせいだろう。またも噛み砕いて説明せねばなるまい。

「ここの世界ではね、魂のレベル上昇がおこっていて、すでに我々は物事を白黒はっきりと二分しない思考法を採用しているの。善だ悪だ、敵だ味方だと決めつけると、物事の本質を見誤ることになるってわかっているから」

「グレーゾーンをとるってことだな」

「そう!なので、あなたのいう老人は、敵でもなく味方でもないというわけ。ただ単に、彼の信念に基づいて行動をとったに過ぎない。目的は共通しているけど、選ぶ道が異なった、というだけで」

「仲間割れっていうやつか。そいつは厄介だな」

「どういう意味?」

「だってよ、目的が一緒なのに、行く道が違うって、むだに戦力を分散させちまってるじゃないか。仲間を引き連れて出てったって、そういうこったろ?」

 確かに、一理ある。我々は物事の相反する両極を双対として保持し、高次元で統合するという思考法に慣れている。そのため、相手の立場とか事情とかを勘案しすぎて真相を複雑にするきらいがある。だからなのか、このような旧態依然の二極論で展開される男のシンプルな言い分に、かえって新鮮さを覚えた。

「それはそうだけど、信念に基づいた者の行動を変えることはできない。残念ながら、我々はアリフの決断を受け入れるしかなかったの」

「奴の信念って、何だ?」

「三次元の人々を直接目覚めさせることは可能であり、彼らに接して意識変革を行えば我々の次元まで上昇させうるって思考。でも、みてごらんなさい。人々は相も変わらず、やれ自分の土地が、権利が、取り分がなどといって、無駄に争って多くの血をながしているじゃない。人類始まってこのかた、一向に進化してやしない。敵だ味方だ、正義だ大義だと言っている限り、この不毛な争いは収まりっこないのよ」

「なるほど。それで、おまえらは、三次元を見捨てて、自分たちだけで、その、次元上昇とやらをしようってのか?」

 その言い草に私は語気を荒げた。

「口が過ぎるぞ!我々がどれだけ身を粉にして世界の維持に努めているか、知らない口がとやかく言うでない!」

 オーラが出すぎたようだ。
 男は目がくらんだのか、そのまま倒れ込んでしまった。ステファンが駆け寄って介抱する。ブルーノは眼を丸くして首を傾げた。

「あれれ、大変でさぁ。まだ体力が戻ってなかったんでやんすかね。しばらく寝かしておきましょう。しかし、ヒノエがこんなに怒ったのは久しぶりでやんすね。火の粉が飛んでくるような権幕でやんしたよ」

「いや、こやつはアタシの光をまともに食らっただけよ。結果、見えてるってこと。鍛え甲斐があるってものね。我々の戦力にすべく、まずは、こ生意気なお猿に、礼節からきっちりと叩き込まないと。ふふ、楽しみだわ」

「ひえ~、くわばら、くわばら」

そう言うと、ブルーノは濡れた犬みたいにぶるぶると身震いをした。















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