ててっと

学生時代、小説家に憧れていたが、実際に書いたのは卒論のみ。日本語に関わる職業につくも、…

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学生時代、小説家に憧れていたが、実際に書いたのは卒論のみ。日本語に関わる職業につくも、日常の些末に物書きの夢は埋もれてしまう。あるきっかけで「やばい、このまま書かなかったら後悔しそう。書こう!」と、決意。まずは自分がワクワクするような物語を目指して書いています。

マガジン

  • 挿絵付き小説サードアイ

  • サードアイ・オープニング

    noteで週刊で掲載している「サードアイ」を完結させて、創作大賞の応募用に編集した「サードアイ・オープニング」です。これは第一章ということで、この後も続けていく予定です。どうぞオーエンを応援してやってください。よろしくお願いします。

最近の記事

サードアイ ep21 信じる決意 (最終話)

 俺達は王のいるテーブルに向かった。国王と話す機会が俺なんかにも訪れるとは。ヒノエの手前、失態をおかさないようにと、柄にもなく緊張する。  目の前にいる王は、見るからに威厳のある立派な人物だった。ヒノエともクロエとも違うオーラの輝きがあって、どこまでも澄んだ目をしている。この人の前では嘘がつけない、そんな感じがして身が引き締まる。  俺は威儀を正して丁重に挨拶をした。王は俺の顔をまじまじと見ると、破顔しながら「こたびの活躍、大いに感謝します」と申された。そんな大層なことはない

    • サードアイ ep 20 再会

       音楽祭が終わると、次は百名ほどの要人たちの食事会へと移った。ここにはブルーノやステファンたちの一般研究員たちはいなくて、俺は特別ゲストとして招待されたようだった。  国王は数名の貴族たちに囲まれて一段高いと奥まったテーブルに座っている。その近くでは、ゆるやかにピアノの演奏が行われていた。これもまた、素人の俺が聞いても心に響く音色だった。こんな中で食事ができるとは、なんという贅沢なんだろう。ヒノエが招待してくれたことにも、テーブルマナーを教えてくれたことにも、深く感謝した。

      • サードアイ ep19 他者への祈り

         王位奪還計画が無事成功して、四次元世界は大きな転換期を迎えていた。異次元上昇計画の最終ステージといったところだ。  軍内部の大幅な組織変更とそれに伴う人事異動があり、俺はファイアーレッドアイの特殊能力と今回の活躍が認められて、軍の中枢部に配属されることとなった。  ヒノエが回復して初めての軍法会議が行われた。彼女は変わらずに眩しさを放ちながら、きびきびと指令を出していく。頭の中にはすでに異次元上昇のシナリオが完成されていて、あとは全ての計画を実行に移すだけのようだ。  ヒノ

        • サードアイ ep 18 北海の太陽

           ブルーノに案内されて向かった先はラボの最上階に位置する司令塔で、壁一面に画面があって、各部屋の様子が映し出されているモニタールームだった。紹介されたのは、ラボの上級役員で、ショートカットのキリッとした年配の女性だった。ヒノエのような燃える赤い目をしている。  ブルーノは彼女を見ると、子犬のように近づいていき、 「マミー!元気でっか?」と、嬉しそうに話しかけた。 「ブルーノちゃん、久しぶりね。なかなか顔を見せないんだから」 「いやぁ、マミーの顔を見てると、エネルギー酔いしちゃ

        サードアイ ep21 信じる決意 (最終話)

        マガジン

        • 挿絵付き小説サードアイ
          19本
        • サードアイ・オープニング
          13本

        記事

          サードアイ ep17 去り行く理由

           ゴードン王子とその母との別れを見守って、急いでヒノエを連れて帰還した。ヒノエは集中治療室に入ったままのようだ。翌日、俺はブルーノの所に行った。 「これはこれはオウエン殿、遠征お疲れ様でやんした」 「ヒノエは無事か?」 「意識は戻りやした。まぁ、彼女は自家発電機みたいなもんだから、じきに良くなるでやんすよ」 「魂が消えかかってたぞ。普段はあんなことないのに、今回はどうしちまったんだ」 「エネルギーの使いすぎでさぁ。まあ、おそらくは、奥方の闇に呑まれたんでさぁね。さすがのヒノエ

          サードアイ ep17 去り行く理由

          サードアイ ep16 絆という名の束縛

           ヒノエとの訓練は日に日に過酷さを増していった。俺ができるだけ多く三次元に移動できるようにと、とにかく基礎体力作りに余念がなかった。男の俺でも音を上げるほどのトレーニングにヒノエは毎回付き合ってくれた。あいつは化け物かもしれないと本気で思う。  俺の場合、特殊任務の帰還に関しては、魂ひとつで空を飛んで帰れば済む話なのだが、行きは肉体と魂の分離をする例のマシーンを使わざるをえず、あれが非常に厄介だった。だが、回数を重ねるごとに、あの重力のかかり具合も、もぞもぞする不快感にも徐々

          サードアイ ep16 絆という名の束縛

          サードアイ ep 15 王位奪還計画

           体調が戻ってくると、多くの人々が入れ替わり立ち替わり見舞いにやってきた。彼らの話から様々な真実がわかってきた。  ここが本当に四次元の世界であって、長年にわたって人類の次元上昇の準備をしているということ。三次元の人々の魂のレベルを上げて、高次の意識改革をする大規模な計画があること。各国トップの平和への意思決定を促すために、この星の特殊部隊が暗躍していること、などである。  そして、私は次元上昇後、各国首相を従える皇帝となる予定だということだった。従って、私がこの星にやってく

          サードアイ ep 15 王位奪還計画

          サードアイ ep14 帝王の矜持

           私は生まれた時から王位継承者として育てられてきた。幼い頃から両親は常に公務で忙しく家を空けがちで、私たち兄弟の世話は乳母と家庭教師に任されていた。  乳母はとことん私たち兄弟に甘く、どんなわがままでも優しくきいてくれて、教師たちは子供たちの気がそがれぬように工夫をこらして学問を教えてくれた。一方で、大人の目の届かぬところでは、兄弟で悪さやいたずらを散々したものだった。  長じてからは、両親の仕事ぶりを間近で見ることで、上に立つ者の在り方を学んだ。父からは大志を抱き周囲に希望

          サードアイ ep14 帝王の矜持

          サードアイ ep 13 予知夢

           わたくしは生まれもって我欲が少ないほうだと思う。愛し愛されるという安住の生活に普通に憧れもしたけれど、一人の時間に慣れ親しむにつれ、それはそれ、これはこれという、割り切りにも似た諦めに、安らぎさえ覚えるようで。  例えばそれは、幸福感ということを考えるとき、自分と他人との境目がぼんやりとしていて、時折、自分が利することよりも、他人が喜ぶことのほうに幸せを感じられもして、うっかりすると、そのささやかな幸せさえも手放してしまいそうになる。  そしてそれは、いわゆる意志薄弱などで

          サードアイ ep 13 予知夢

          小説「サードアイ・オープニング」全12話を書いてみて

           今まで、たくさんの物語を読んできて、自分でも言葉を紡いできましたが、「大切なことは言葉にできない」と大好きな物語の中でも言われています。無尽蔵に溢れくる大河の全体に、柄杓を入れて汲み取るようなもので、言葉にしたとたん、全体の大半を取りこぼしてしまう上に、さらに全体から遠ざかってしまうようです。  人の心の揺れも川の流れと同様、いや、それ以上に留めおけないもので、人との関係性をテーマに書くとなると、金魚掬い並みの集中と緊張が要るのでしょうか。或いは、鍋でスープを作るがごとく、

          小説「サードアイ・オープニング」全12話を書いてみて

          「サードアイ・オープニング」第12話(#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門)

          第12話:信じる力  音楽祭が終わると、次は百名ほどの要人たちの食事会となった。ここにはブルーノやステファンたちの一般研究員たちの姿はなく、俺は特別ゲストとして招待されたようだった。  国王は数名の貴族たちに囲まれて一段高い奥まったテーブルに座っている。その近くでは、ゆるやかにピアノの演奏が行われていた。これもまた、素人の俺が聞いても心に響く音色だった。こんな中で食事ができるとはなんという幸運だと、ヒノエに感謝する。招待してくれたことにも、テーブルマナーを根気よく教えてくれ

          「サードアイ・オープニング」第12話(#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門)

          「サードアイ・オープニング」第11話(#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門)

          第11話:宙への祈り  王位奪還計画が無事成功して、四次元世界は大きな転換期を迎えていた。異次元上昇計画の最終ステージといったところだ。  軍内部の大幅な組織変更とそれに伴う人事異動があり、俺はファイアーレッドアイの特殊能力と今回の活躍が認められて、軍の中枢部に配属されることとなった。  ヒノエが回復して初めての軍法会議が行われた。彼女は変わらずに眩しさを放ちながら、きびきびと指令を出していく。頭の中にはすでに異次元上昇のシナリオが完成されていて、あとは全ての計画を実行に移

          「サードアイ・オープニング」第11話(#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門)

          「サードアイ・オープニング」第10話(#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門)

          第10話:わが命を賭しても  ゴードン王子とその母の壮絶な別れを見守って、急いでヒノエを連れて帰還した。ヒノエはそのまま集中治療室に入ったようだ。翌日、俺はブルーノの所に行った。 「これはこれはオウエン殿、遠征お疲れ様でやんした」 「ヒノエは無事か?」 「意識は戻りやした。まぁ、彼女は自家発電機みたいなもんだから、じきに良くなるでやんすよ」 「魂が消えかかってたぞ。普段はあんなことないのに、今回はどうしちまったんだ」 「エネルギーの使いすぎでさぁ。まあ、おそらくは、奥方の闇

          「サードアイ・オープニング」第10話(#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門)

          「サードアイ・オープニング」第9話(#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門)

          第9話:絆という名の依存  ヒノエとの訓練は日に日に過酷さを増していった。俺ができるだけ多く三次元に移動できるようにと、とにかく基礎体力作りに余念がなかった。男の俺でも音を上げるほどのトレーニングにヒノエは毎回付き合ってくれた。あいつは化け物かもしれないと本気で思う。  俺の場合、特殊任務の帰還に関しては、魂ひとつで空を飛んで帰れば済む話なのだが、行きは肉体と魂の分離をする例のマシーンを使わざるをえず、あれが非常に厄介だった。だが、回数を重ねるごとに、あの重力のかかり具合も

          「サードアイ・オープニング」第9話(#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門)

          「サードアイ・オープニング」第8話(#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門)

          第8話:帝王の矜持  私は生まれた時から王位継承者として育てられてきた。幼い頃から両親は常に公務で忙しく家を空けがちで、私たち兄弟の世話は乳母と家庭教師に任されていた。  乳母はとことん私たち兄弟に甘く、どんなわがままでも優しくきいてくれて、教師たちは子供たちの気がそがれぬように工夫をこらして学問を教えてくれた。一方で、大人の目の届かぬところでは、兄弟で悪さやいたずらを散々したものだった。  長じてからは、両親の仕事ぶりを間近で見ることで、上に立つ者の在り方を学んだ。父から

          「サードアイ・オープニング」第8話(#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門)

          「サードアイ・オープニング」第7話(#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門) 

          第7話:歌姫の夢の中  初任務が終わってほどなくして、ヒノエから呼び出しがかかった。向かった先は軍司令塔の会議室で、そこにはヒノエと十数人の恰幅のいい男たちがすでに集まっていた。 「体調はいかがかしら?ミスター・オーエン」  ヒノエはにっこりと微笑んで俺に問いかけた。その笑顔の真意を探るべく、じっと彼女のオレンジ色の瞳を見る。特に他意はなさそうだったが、上官としての尊厳を無視された憤りからか、眼差しは冷ややかだった。  室内は緊迫した空気が流れていた。これは、まずい展開だ。

          「サードアイ・オープニング」第7話(#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門)