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サードアイⅡ・グラウンディング ep.8「カクテルパーティー」

 その青年は人ごみの中を猫のようにすり抜けていった。その後を急いで追っていくと、ずらりと立ち並ぶ屋台の一番端にある、酒を扱う屋台に着いた。青年はすでに店員と軽口をたたいていて、こちらを振り返ると、手招きして隣の席を勧めた。
「マスター、ボクはいつものヤツね。あと、このひとには、そうだなあ、ファイヤーレッドアイっていうイメージで、何か作ってあげてよ」と、例のいたずらな笑みを浮かべて、
「こんな薄汚いところだけど、なかなか美味いんだよ」と耳打ちしてきた。店主は、「失礼だな!」と言って笑った。
 店はカウンター六席と、その後ろに立ち飲み用のテーブルが三つ置かれていた。屋台の奥の棚にはびっしりと酒瓶が積まれていて、それらを選んで軽妙にカクテルを作っていく腕さばきは見事なものだった。
「はい、これは、いつもの。そして、お兄さんには、ファイヤーレッドアイをっと。どうぞ召し上がれ」
 出てきた俺のカクテルを見て、青年は歓声をあげた。美しいシャンパングラスの底に沈む赤いジャムのようなものが、うっすらと滲みだしながらグラデーションを作っていく。その中を泳ぐように小さな赤い実が二つ、細かい泡に揺れ惑っていた。そっとかき混ぜてみると、底のほうから花弁が開くように立ち昇る赤が、黄金の泡のシャワーに包まれていった。一口飲んでみる。甘いのかと思いきや、酸味があって喉越しも爽やかだった。
「どう、気に入った?」と、青年は無邪気に俺の顔を覗き込んできた。
「旨いよ」と呟くと、彼は満足そうに微笑んだ。
「ボクの名前はガーデ。あなたは?」
「オーエンだ」
「ふーん、ゴージじゃなくってね」と、したり顔で呟く。こいつは何でも知っていやがる。
「キミはいったい、何者なんだ?」
 ガーデは目をキラキラとさせながら、「ボクは善良なる地球人さ」とおどけてみせた。
「さあ、今夜は飲もう!ゴージ改め、オーエンの帰還祝いだ」
 出てくる酒がどれも旨すぎて、すこし酔ってしまった。ガーデはあとから来る客たちとも陽気に言葉を交わしている。皆が彼と話したがっているようで、他の屋台からも何人か挨拶に来ていた。この屋台の一角が彼主催のパーティーみたいに盛り上がっている。
 ガーデは手をひらひらと動かす癖があって、その長い指先からは軽やかな音色が聞こえてくるかのようだ。指に光る色とりどりの宝石が、夜の灯りを受けて怪しげに光っている。時折り、淡い色の髪をかき上げて俺のほうをちらりと見る。その目はさらに透明度を増していた。
 こっちにきて半日、旅の疲れもあってか酒の回りが早かった。俺は、ガーデを中心に集う若者たちがシャンパンの泡のように金色に輝きながらシュワシュワと動く様をぼんやりと眺めていた。ここ何年も、こんなにゆったりとした時間はなかった。
 思えば、ゴージとして毎日を喧嘩に明け暮れる日常から、突然、四次元世界に連れられた。そこでヒノエの猛特訓が始まって、任務で何度も地球に訪れたのだった。
 今、こうして楽し気に集っている地球人たちを眺めながら、自分はいったい何者なんだと、ぼんやりと問うてみる。しかし、そんな問いも、新たに置かれたカクテルの輝きでうやむやになってしまった。今度のは、ガーデの瞳のような水色に七色の虹がかかっていて、グラスの中に空が映り込んでいるみたいだった。それを一気に飲み干す。目の奥が虹色に光り、見るもの全てがきらめいて見えた。


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