一宮 集

一宮 集

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  • 健やかなる時も②(日本編)

    2024年9月、中東での任務を終え、日本へ帰還した穂積一尉。残り3年分の償還金を携え、15年に渡る軍隊生活に終止符を打とうとするものの、そう簡単にはいきそうにない。慰留される中、言われるままに民間の医療機関へ出向した彼は、引き続き147の調査を始めようとするのだが ──── 登場人物紹介 https://note.com/shu_ichimiya/n/n3b01af960431 ①クウェート編第一話はこちら https://note.com/shu_ichimiya/n/n7fdea7e6aa2f ※2008年6月6日からYahoo!ブログで連載していた近未来SF小説を、ほぼ当時の体裁のまま掲載しています。 ※※この作品はフィクションであり、実在する人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

  • Zingaro

    【あらすじ】パートナーとの別離を経て次第に道を踏み外していく銘と、彼を支えようと奮闘する人々。その中でまた、新たな出会いが始まって ──── 前作、Bilheteの続編です。 ※この作品はフィクションであり、実在する人物・地名・団体とは一切関係ありません。 目次 &参考音源一覧 https://note.com/shu_ichimiya/n/n69a434825bc5 登場人物紹介 https://note.com/shu_ichimiya/n/n21590c4df5c4 プロローグ https://note.com/shu_ichimiya/n/n55d84a1d6832

  • 【完結】健やかなる時も①(クウェート編)

    【あらすじ】2024年、イスラム過激派系テロ組織と欧米諸国との戦いが各地で激化していく中、連合軍の補給基地であるクウェートで軍医として働く穂積仁。アフガニスタンで救出された日本人を受け入れた同年5月26日、過去と未来を巻き込んでの謎解きは、この日から始まったのだ ──── 登場人物紹介 https://note.com/shu_ichimiya/n/n3b01af960431 ①クウェート編第一話はこちら↓ https://note.com/shu_ichimiya/n/n7fdea7e6aa2f ※2008年1月28日からYahoo!ブログで連載していた近未来SF小説を、ほぼ当時の体裁のまま掲載しています。 ※※この作品はフィクションであり、実在する人物・地名・団体等とは一切関係ありません。

  • 取材旅行記Ⅴ(全17回)

    連載中のZingaroに登場する田町駅、芝浦周辺、大崎駅、三田駅の他、今後登場するであろう東京駅、日本橋、船橋、池袋、北品川駅周辺などをざっくりと取材してきました。過去作品に登場する街も含まれています。 ※多少ネタバレを含むのとプライバシー保護のため、有料記事にしてあります。

  • 【完結】Bilhete

    【あらすじ】キャリアの頂点に達したその日、病に倒れたベーシスト。両親の庇護を離れ、音楽以外に生きる道を模索しようとする彼の前に現れたのは ──── 過去作「青の旋律」のスピンオフです。 ※この作品はフィクションであり、実在する人物・地名・団体とは一切関係ありません。 目次 &参考音源一覧 https://note.com/shu_ichimiya/n/nbdbd2af99451 プロローグ https://note.com/shu_ichimiya/n/n348b3b2d26dc 登場人物紹介 https://note.com/shu_ichimiya/n/naae12fd02d70

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Zingaro(目次&参考音源・BGM一覧)

※この作品はフィクションであり、実在する人物・地名・団体とは一切関係ありません。 Bilhete(前作) BGM一覧(YouTubeリスト) 登場人物紹介 プロローグ  Bob Berg / Promise 1.  Booker Ervin / Dorian 2.  Hank Jones / Interface 3.  Chet Baker / Seila 4.  Kenny Barron - Regina Carter / A Flow

    • 健やかなる時も② 120

      「 ──── 仁」 「うん?」 「少しは、楽しそうな顔をするものだ」 「出来る訳ないだろう?こんな状況で」 「まあ、そう言うな。せっかく皆が、好意でしてくれてることなんだから」 「……」 周囲の喧騒の中、147はそんなことを囁いてくるけれど。 僕は終始、浮かない顔だった。 信じられないことに。 三宅の目撃情報と、某所から配信されたメールのお陰で。 僕等の関係は、あっと言う間に病院中に知れ渡ってしまった。 それだけならまだしも。 室谷医師と看護部長は、このことを大い

      • 健やかなる時も② 119

        吹き荒ぶ風の音に紛れるようにして、耳慣れない金属音が響いた瞬間。 僕は彼から体を離し、辺りを見回した。 「どうした?」 「しっ」 察しのいい147が、ぴたりと口を閉ざしたあと。 全神経を集中させ、周囲の様子を窺うと。 間違いなく人の気配がする。 たなびくシーツの海の中に、1枚だけ影を見つけた僕は。 非常口近くに干されたそれに、ゆっくりと近付いて。 もう一度、耳を欹ててみる。 「 ──── ちょっと。やめてよ。ここじゃ駄目だって」 「大丈夫だって。気付かれねーから」

        • 健やかなる時も② 118

          11月の日差しの下。 向かい合って煙草を吸っている最中。 僕と彼との間には、60cmほどの距離がある。 手を伸ばせばすぐに届く筈なのに。 今はそれが、どうしてこんなに遠いのだろう。 そう思いながらも。 努めて穏やかな声で、こう切り出してみる。 彼から、一度も目を逸らさずに。 「 ──── 君の言う通りだよ。災難とはいえ、僕にも少なからず過失はある」 「……」 「腹を立てるのももっともだ。僕がもっと賢明で誠実な人間なら、君に嫌な思いをさせなくて済んだのに ──── 」

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        Zingaro(目次&参考音源・BGM一覧)

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        • 健やかなる時も②(日本編)
          120本
        • Zingaro
          250本
        • 【完結】健やかなる時も①(クウェート編)
          148本
        • 取材旅行記Ⅴ(全17回)
          17本
        • 【完結】Bilhete
          493本
        • 徒然(雑記)
          6本

        記事

          健やかなる時も② 117

          「こちらこそ、お噂はかねがね」 存外に愛想のいい彼の声。 けれど、騙されてはいけない。 これは嵐の前触れなのだ。 僕の勘は、そう忠告し。 そして、こういう場面において。 その手の警告は、滅多に外れない。 「ねえ、英語の方がいいかしら?」と、河辺医師は僕の袖を引く。「アラブの方なんでしょう?」 「彼は日本人ですよ」僕はもう、溜め息しか出ない。「国籍はアメリカですが」 「ひょっとして」と、147。「この前、穂積くんの携帯でお話した方かな?」 「携帯で?」彼女は、一瞬考え

          健やかなる時も② 117

          健やかなる時も② 116

          午前中の診察は、予定通りに終わり。 僕は一旦、ERへ戻る。 室谷医師からメールが入っていたからだ。 「悪いね。忙しかったのに」 「いえ」僕は、辺りを見回した。「147は?」 「まだおふくろのところにいるよ。離してくれないらしい」 珈琲を注ぎ終わった彼は、2つのマグカップを手にしたまま。 テーブルの上にそれを置いてから、僕の向かいに腰を下ろす。 「それにしても。さすが姉弟だなと思って。一発で判ったんだって?」 「ええ」カップに口を付けつつ、僕は頷いた。「先生にも、お

          健やかなる時も② 116

          健やかなる時も② 115

          室谷医師に147を預け、病室へ戻ろうとすると。 ドアを出るか出ないかのうちに、呼び止められた。 「どうしました?」 「すまない。ちょっと医事課に呼ばれてね」と、室谷医師。「お願いしてもいいかな?」 「何をですか?」 「先に、姉貴に会っておきたいと思ってね」147は、僕の肩に手をかけながら言う。「案内してくれるかい?」 「それは構わないけど。その格好で行ったら驚くんじゃないか?」 「そうか?」彼は、Yシャツ姿の自分を眺める。「別におかしくないだろう?」 「ボケてる

          健やかなる時も② 115

          健やかなる時も② 114

          「おはよう。今日も宜しくお願いします」 「あ、先生!おはようございます!」 「おはようございま~す!」 病院の朝は、相変わらず賑やかだ。 147を同行して警備室へ出向き、然るべき手続きを終え。 小児科病棟へ顔を出し、診療予約を確認したあと。 ERへ向かう途中の廊下で、看護部長に声をかけられた。 「あら穂積先生、珍しい!」 「そんなそんな。ちっとも珍しくないですよ」僕はつい、苦笑する。「木曜にもお会いしたじゃないですか?」 「そうじゃなくて。お連れさんがいるなんて珍

          健やかなる時も② 114

          健やかなる時も② 113

          0600。 眠っている彼を起こさないように、そっとベッドから抜け出して。 ジャージに着替え、5kmほどランニングする。 今日は快晴。 歩道のアスファルトは、眩い日差しの中できらきらと輝いて。 街路樹とビルの向こう側には、透明な青さを湛えた空が広がっている。 彼と過ごした時間のせいか。 いつもと同じ街並みの筈なのに、それはまるで違って見えた。 色彩や陰影、空気や匂いに至るまで。 目に見えるもの、感じるもの全てが、恐ろしく鮮明で。 密かに感動を覚えるほどだった。 軽く体を解

          健やかなる時も② 113

          健やかなる時も② 112

          全てが終わったあと。 汗ばんだ胸にきつく抱かれ、まだ速い鼓動を聞いている間。 僕はずっと目を閉じていた。 乱れた呼吸も整わないうちに、147は僕の顔を上向かせ。 触れ合わせるだけの口付けをくれる。 「 ──── 仁?」 「…うん?」 「大丈夫か?」 「大丈夫だよ。どうした?」 「何も言わないから。不安になったよ」 「言って欲しいか?最高だったって」 「そういう意味じゃない」彼は、呆れたようだった。「全く。本気で心配したのに」 「判ってるよ」僕は、彼の首筋にキス

          健やかなる時も② 112

          健やかなる時も② 111

          「 ──── 147?」 「うん?」 「寒くないか?」 「いや、大丈夫。あったかいよ」彼は、コートを手に辺りを見回す。「これはどうしたらいい?」 「貸してくれ。ジャケットも。こっちにかけておく」 「ありがとう」 服を受け取り、ポールハンガーにかけたあと。 ベランダに面したカーテンを開け、あらためて彼と向き合った時。 さすがに、微かな緊張を覚えたけれど。 彼は不思議そうに、その窓に視線を向けていた。 「どうして開けるんだ?」 「夜景が綺麗だから。君に見せたくて」

          健やかなる時も② 111

          247.

          「 ──── ありがとうございまーす!今のセットのメンバー紹介しますね!」ヒカルは、MC用のマイクを手に立ち上がる。「ドラムは蓑原来人、ベースは湯浅楓のアコルヂスチーム、アルトサックスは小池真理、トランペットは小野田直己の青学チームでした!」 「自分の紹介忘れてんぞー、ヒカル!」 「そうでした!ごめん、三ツ谷さん!」ヒカルは苦笑し、右手を振った。「ピアノ、匂坂ヒカルでした!じゃ、ピアノ交代しよっか!」 「えー!ヒカルさん、あと1曲!」 「そそ、もっと聴きたいです!」 「マジで

          健やかなる時も② 110

          目的地の前でタクシーを降りた時。 147は怪訝な顔をして、目の前にあるタワーを眺めた。 無理もない。 地上50階建て、最新型の高層マンションは、まるで宇宙ステーションのようで。 僕でさえ、まだ慣れていないのだ。 「一瞬、香港かシンガポールかと思ったよ」 「都内はますます土地が少なくなっててね。何処もこんな感じだ」 認証用のカード・キーを取り出そうとすると。 147はすかさず右手を捉えてくる。 反射的に振り解くと、彼はわざとらしくホールド・アップして。 不満そうに文句を言

          健やかなる時も② 110

          健やかなる時も② 109

          長い抱擁を解き、再会の喜びを分かち合ったあと。 霊園の直線道路を歩いている途中。 147は突然僕の左手を取り、自分のポケットに突っ込んで。 そのまま、指を絡めてくる。 けれど。 僕にはそれが酷く恥ずかしくて。 人目もないのに、つい外してしまう。 「全く」彼は、溜め息をつく。「寒いと思ってしてやってるのに」 「気持ちはありがたいけど、免疫がないせいか。どうも苦手なんだよ」 「2人きりならいいのか?」 「せめて、制服じゃなければな」 「そう言えば。どうして、そんな格好し

          健やかなる時も② 109

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          何とか弾けたという安堵と、思ったようにいかなかったことでの落ち込みを感じながら人混みを抜け出すと、健人はレジ前のカウンターに寄り掛かり、拓海からコロナビールを受け取ったところだった。 「大塚さん、お疲れさまでした!」拓海が、笑顔を向けてくる。「何飲まれます?」 「あっ、ええと ──── 」彼はうろうろと視線を彷徨わせ、小声で尋ねる。「すいません。こちらで一番安いドリンクって何でしょう?」 「演奏者はワンドリンク付いてっから、好きなもん頼めよ」右手の人差し指でライムを沈めなが

          健やかなる時も② 108

          短い階段を上る途中。 彼はサングラスを外し、胸ポケットに入れ。 有無を言わさず、僕に近付いて。 そのまま、抱き締めてくる。 時間にしたら多分、数秒のこと。 けれど。 その光景は何故か、スローモーションに見えた。 彼が両腕を伸ばして、僕を抱き寄せた時も。 抱擁された拍子に脱げた制帽が、微かな音を立てて地に落ちた時も。 冷え切ったコート越しに、彼の体温が伝わってきた時も。 僕にはまるで、現実感がなかった。 けれど。 耳元で彼の呼吸を聞き、頬に触れる唇を感じ。 逞しい背に腕を回し

          健やかなる時も② 108