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2024年3月の記事一覧

「めずらしい人」(錯覚について・03)

「めずらしい人」(錯覚について・03)

 川端康成の掌編小説『めずらしい人』は次のように始まります。

 地の文で「めずらしい人」と括弧でくくることで読者の興味を惹いています。括弧付きなのですから、意味ありげで訳ありっぽく見えるわけです。

 めずらしい人に会うのはめずらしい出来事ではありませんが、それが度重なるとめずらしいことになります。しかも三日おきか五日おきにめずらしい人に会う人こそ、めずらしい人だと言えるでしょう。

 冒頭の数

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薄っぺらいものが目立つ場所(薄っぺらいもの・04)

薄っぺらいものが目立つ場所(薄っぺらいもの・04)

 世界は薄っぺらいものに満ちている――。

 そんなふうに考えていると、何でも薄っぺらく見えてくるのは、私が薄っぺらいからにちがいありません。

 私は自分の中に薄っぺらいものやぺらぺらしたものがあると感じて生きています。

 たとえば、ぺらぺらした紙を見ていると自分の中にぺらぺらした紙みたいなものがあるように思えてなりません。

「ぺらぺらした紙」を、たとえば「タブラ・ラサ」、「一冊のノート」、

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蝶のように鳥のように(断片集)

蝶のように鳥のように(断片集)

 今回の記事では、アスタリスク(*)ではじまる各文章を連想だけでつないでありますので――言葉やイメージを「掛ける」ことでつないでいくという意味です――、テーマに統一感がなく結びつきが緩く感じられると思います。

 それぞれを独立した断片としてお読みください。

     *

 ない。ないから、そのないところに何かを掛ける――。

 何かに、それとは別の何かを見る――。これが「何か」との出会い。遭

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描写・反描写

描写・反描写

 今回は二部構成です。まず以下の目次をご覧になってから、お読みください。長い記事ですが、太文字の部分だけに目をとおしても読めるように書いてあります。

◆描写*純粋な描写

 学生時代の話ですが、純文学をやるんだと意気込んでいる同じ学科の人から、純文学の定義を聞かされたことがありました。

 ずいぶん硬直した考えの持ち主でした。次のように言っていたのです。

・描写に徹する。
・観念的な語を使わな

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出す、出さない、ほのめかす(『檸檬』を読む・01)

出す、出さない、ほのめかす(『檸檬』を読む・01)

 梶井基次郎の『檸檬』を読みます。引用にさいして使用するのは『梶井基次郎全集 全一巻』(ちくま文庫)ですが、青空文庫でも読めます。

     *

『檸檬』で檸檬という果物の色はどのように描かれているでしょう? 

「レモンエロウの絵具をチューブから搾り出して固めたようなあの単純な色も、それからあの丈の詰まった紡錘形の恰好も。」(『梶井基次郎全集 全一巻』(ちくま文庫)p.17・ルビの省略は引用

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相手の言葉に染まる(錯覚について・04)

相手の言葉に染まる(錯覚について・04)

 古井由吉の小説では相手の言葉に染まっていくという身振りがよく出てきます。相手の話を聞きながら、その話に自分を同期し、さらには同化していくのです。そうした過程が快感として描かれているのが特徴的だと言えます。

 以下は、古井由吉の『妻隠』(『杳子・妻隠』新潮文庫・所収)からの一節です。

 今回はこの引用文だけに絞って話を進めます。

 以下のリンクに、「見る「古井由吉」と「聞く「古井由吉」」につ

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ぺらぺら(薄っぺらいもの・02)

ぺらぺら(薄っぺらいもの・02)

 今回は「薄っぺらいもの・01」の続きです。

 いま私は薄い液晶の画面に表示されている自分の書いた文字を見つめています。

 と書きましたが、半分は正確ではない気がします。

「薄い」は「ある程度(そこそこ)厚みのある」という感じで、「自分の書いた」は「自分がキーボードのキーを叩いて入力した」であり、「文字」は利用しているサイトが用意した活字といういうべきでしょう。

 細かいことを言っています

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薄っぺらいもの・01

薄っぺらいもの・01

 世界は薄っぺらいものに満ちています。薄っぺらいのに厚いものに、です。

 薄いと厚いは矛盾しません。辞書を開くと、短い見出し語に長い語義や説明や例文があるのと似ています。

 短いほど長かったり長いほど短かったりするのですが、目をうんと細めて見ると、よく見えます。

 ぎゃくに目を大きく開くと、見えすぎて見えなくなり気付きません。

 薄いは厚い。長いは短い。小さいは大きい。見えるは見えない。

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「読む」と「書く」のアンバランス(薄っぺらいもの・07)

「読む」と「書く」のアンバランス(薄っぺらいもの・07)


◆第一話
 文章を書くのは料理を作るのに似ています。天才と呼ばれる人は別なのでしょうが、私なんかはずいぶん苦心して文章を書いています。

 勢いに任せて殴り書きする癖があるにしても、文章を書くのには手間と時間がかかるのです。

 料理も手間隙かけてせっかく作ったのに、ぺろりと平らげられる場合があります。あっけないですが、作ったほうとしてはうれしいものです。

 書くのに時間と労力を要するのに、さ

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書物の夢 夢の書物

書物の夢 夢の書物

 文字からなる文章を読むという作業は、文字の形の具象的な側面(個人差のある筆跡)を取捨して、文字の形の抽象的な面(同一の複製であること)を読み取っていると言えるでしょう。取捨選択がおこなわれているという意味です。具象(具体・個性)を切り捨て、抽象性を選んでいるのです。 

 言葉は       魔法
 言葉は      魔法
 言葉は     魔法
 言葉は     魔法
 言葉は    魔法

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「かける」と「かける」(かける、かかる・03)

「かける」と「かける」(かける、かかる・03)


かけるとかける
 かけるとかける。
「かける」と「かける」。

 上のフレーズは「AするとAする」と読めば、「Aすると(その結果)Aする(ことになる)」とも、「「Aすること」と「Aすること」」とも読めます。

 いずれにせよ、前者と後者は別物でなければなりません。

     *

 かける、掛ける、懸ける、架ける、賭ける、欠ける、駆ける、翔る、駈ける、掻ける、書ける、描ける、画ける

「かける

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共鳴、共振、呼応(薄っぺらいもの・06)

共鳴、共振、呼応(薄っぺらいもの・06)

 今回は梶井基次郎の小説の読書感想文です。まず、長いですが前提となる話から書きます。

◆物、言葉、そのイメージ*共鳴、共振、共感

 薄っぺらいもの、ぺらぺらしたものが、震える、振れる、鳴る、響く。音声、波、熱が生まれる。

 空気、管、線、帯を、通る、伝わる。

 薄っぺらいもの、ぺらぺらしたものが、震える、振れる、鳴る、響く。音声、波、熱が生まれる。

 共に振れる、共に震える、共に鳴る、共

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雨、濡れる、待つ

雨、濡れる、待つ

 今回の記事は、見出しのある文章を連想でつなげてあります。それぞれ断片としてお読みください。

雨、濡れる、待つ
 雨、濡れる、待つ。

 この三つが出てくる歌はとても多い気がします。私は音楽には疎いので、数えたことも調べたこともありません。そんな気がするだけです。

 そういえば、初めて買ったレコードが雨の出てくる曲でした。これは待つ歌ではありませんけど。

 私が初めて歌い覚えた(聞き覚えた)

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多層的で多元的なもの同士が、ある一点で一瞬だけつながる世界

多層的で多元的なもの同士が、ある一点で一瞬だけつながる世界

「春」を感じるたびに連想するのは「張る」です。辞書の語源の説明には諸説が紹介してありますが、私は「張る」派です。

 春になると、いろいろなものが張ります。木々や草花の芽やつぼみが膨らむのは張っているからでしょう。

 山の奥でも雪解けが進み、川面が膨らんで見えます。道を歩く人たちの頬も上気したかのように見えます。細い血管が膨らんでいるようです。

 山川草木、そして人が膨らみ張って見えます。膨張

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