Maryline

ヨーロッパ在住 小説家・エッセイスト 翻訳家

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  • 白い猫と妻の失踪

    長編小説 ある日突然、ノルマンディー画家の妻が失踪した。 どこに消えてしまったのか誰にもわからない。 その後、不思議な白い猫が現れる。

  • フランスの結婚式は無料?

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固定された記事

小説 白い猫と妻の失踪 1、果歩 鎌倉2019

抹茶の粉を入れた白い楽焼きの茶碗に、柄杓でお湯を注ぐ。お湯が落ちて立てる、コポコポコポという小さな音が茶室に響く。朝日の当たる茶碗から湯気がほんのりと立ち上る。…

Maryline
2年前
24

誕生日に 

 私は、今日83歳になった。自分がそんな歳になるなんて、全く信じられない。みんなでお祝いしてくれるので、いくつでもお誕生日というのは嬉しいものだ。  人生には本…

Maryline
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ミニマル旅

ミニマル旅里帰り 結論は思ったより荷物が減らせない 😂 ミニマリスト達は本当に リュックに下着3枚服2枚 財布パスポート携帯 程度の荷物で国際線に乗るそうだ 憧れる…

Maryline
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パリ風のお花見 1

今日は、久しぶりに春物のワンピースを着た。 春の日差しが強くなり、18度を超えると、長い冬が終わるなと思う。 一緒に植物園の桜を見に行くのは、だいたい恒例になっ…

Maryline
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レストランの人々

 いつものように、日曜日はパリの昔からあるブラッスリーに夫と一緒にランチに来る。行きつけの店がいくつかあって、その日の気分で選ぶ。ここには、だいたい月に1回くら…

Maryline
2年前
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一気に見てしまったLove Is Blind

最後まで見てしまいました。 ネトフリのLove Is Blindジャパン。 なんだか、最後はすっきりした感じ。 外国でもこういうリアリティー番組で心を病んでしまう人も多いし…

Maryline
2年前
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伸ばし続ける女たち

朝は、洗顔しシワを伸ばすためのクリームを塗り軽くマッサージしてから、メイクをした。 髪にヘアオイルを塗り、ヘアブラシ付きの、昔風に言うなら、くるくるドライヤーで…

Maryline
2年前
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長編小説を書いた理由

 2020年の初めに「私、今年は2本の小説を書くわ。」と、なぜか夫に突然宣言した。元旦にお散歩をして、パッサージュにあるサロン・ド・テでケーキを食べながら、今年の抱…

Maryline
2年前
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白い猫と妻の失踪23、エピローグ 果穂とジュリエット2042

 ノルマンディーのグランヴィルに来たのは、前夫が亡くなった年に旅行に来て以来だ。自分が80代になったなんて、全く信じられなかった。もしかすると自分はまだ30代な…

Maryline
2年前
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白い猫と妻の失踪22、エリックのいない世界 ジュリエット2042

 私は、相変わらず、海のそばで暮らしている。パリのマンションもそのままあるので、好きな時に行き来している。夫のいない生活はとても寂しい。夫が他界して1年がたった…

Maryline
2年前
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白い猫と妻の失踪21、エリック 聖堂灯台 2022

 灯台守りが住んでいたという灯台を訪れてみたいと、少し前から思っていた。聖堂が灯台の中にあるのは、世界でもここだけ、と言っていた気がする。ジュマン灯台は小さな岩…

Maryline
2年前
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白い猫と妻の失踪20、果穂 新しい出会い 2019

 フランス旅行の最後に泊まったリッツホテルで、フランス人デザイナーたちと食事をしたことで、私の人生は全く思いもかけない方向に動き始めた。  その後、ここにいたメ…

Maryline
2年前
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白い猫と妻の失踪19、エリック クロワッサンとコーヒー 2022

 妻は少しづつ落ち着きを取り戻し、なんとか私達は穏やかな暮らしを続けることができた。失われた記憶は、そのままだったけれど。 夫婦には、二人にしかわからないやりと…

Maryline
2年前
9

白い猫と妻の失踪18、果穂 モン・サン・ミッシェル2019

 船で本土に戻り、グランヴィルでも海の見えるホテルに数泊した。デイオール美術館を見学したり、ゆっくりと過ごした。ここはディオールの生家で、家の造りや庭が素晴らし…

Maryline
2年前
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白い猫と妻の失踪17、エリック 戻ってきた妻との生活について 2022

 空白の3年の後、戻ってきた妻と、このようにしてしばらく以前と同じように生活を続けた。私は、この静かな暮らしが続いて欲しい。と、それだけを願っていた。  妻はそ…

Maryline
2年前
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白い猫と妻の失踪16、果穂 新しい旅立ち 2019

 本格的な一人での生活が始まった。できることは、全てやったような、全てが心残りなような、複雑な気持ちだった。夫の最後の小説の出版の日程が決まった。夫は長編小説を…

Maryline
2年前
6
小説 白い猫と妻の失踪 1、果歩 鎌倉2019

小説 白い猫と妻の失踪 1、果歩 鎌倉2019

抹茶の粉を入れた白い楽焼きの茶碗に、柄杓でお湯を注ぐ。お湯が落ちて立てる、コポコポコポという小さな音が茶室に響く。朝日の当たる茶碗から湯気がほんのりと立ち上る。右手で持った茶筅を、楽焼の茶碗に入れて混ぜる。小さなしゃかしゃかという音が響く。

 着物の袖が揺れる。着物に沁みをつけてはいけないと思うと、いつも緊張する。背筋を伸ばし、いつもの動きでお茶を点て、静かに茶筅を横に置く。茶碗を持ち、正座した

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誕生日に 

誕生日に 

 私は、今日83歳になった。自分がそんな歳になるなんて、全く信じられない。みんなでお祝いしてくれるので、いくつでもお誕生日というのは嬉しいものだ。
 人生には本当に思いもかけないことがたくさん起こる。私の人生はどちらかといえば、平和で幸せで、多分一般的な人生ではないかと思う。それでも、その平凡に見える人生の中で、本当に毎日思いがけないことは起こるものだ。

 20代前半で結婚し、最初は借家で暮らし

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ミニマル旅

ミニマル旅

ミニマル旅里帰り

結論は思ったより荷物が減らせない 😂

ミニマリスト達は本当に
リュックに下着3枚服2枚
財布パスポート携帯
程度の荷物で国際線に乗るそうだ

憧れるう!

とにかく今回はお土産やめた
帰国前常にお土産を探してしまう病を克服
凄くスッキリした
かなりの負担だったんだなあ!

結局夫から私の母へのチョコレートはトランクに入れたけど

それ以外のお土産は全部諦めて荷物を減らした。

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パリ風のお花見 1

今日は、久しぶりに春物のワンピースを着た。

春の日差しが強くなり、18度を超えると、長い冬が終わるなと思う。

一緒に植物園の桜を見に行くのは、だいたい恒例になっている。

毎年見ていると、だんだん、今年は別にいいかな。という気持ちになることもあるけど。

それでも、仕事場のそばの桜が思いっきり咲いているのを通りすがりに見ると、私にも見せてあげたいと思うようで、夫から「明日にでも近くのサロン・ド

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レストランの人々

レストランの人々

 いつものように、日曜日はパリの昔からあるブラッスリーに夫と一緒にランチに来る。行きつけの店がいくつかあって、その日の気分で選ぶ。ここには、だいたい月に1回くらい来ているだろうか。

 いつものように、張り出した窓辺の席に案内される。窓越しに人間観察できるし、隣のテーブルと離れていて静かに過ごせる。店の作りの都合上、入り口の扉の横に張り出した空間があり、ちょっとコックピットのような小さな空間、テー

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一気に見てしまったLove Is Blind

最後まで見てしまいました。

ネトフリのLove Is Blindジャパン。

なんだか、最後はすっきりした感じ。

外国でもこういうリアリティー番組で心を病んでしまう人も多いし、

見ている人は楽しいけど、撮られている方は大変。相当の覚悟を持って出演しても、それでもやっぱり思ったより人に注目されるって大変そう。

しかも、もともとタレントさんや俳優さんでもないので、いきなり全世界に配信される番組

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伸ばし続ける女たち

伸ばし続ける女たち

朝は、洗顔しシワを伸ばすためのクリームを塗り軽くマッサージしてから、メイクをした。

髪にヘアオイルを塗り、ヘアブラシ付きの、昔風に言うなら、くるくるドライヤーで髪を整え、その後ヘアアイロンをかける。ヘアアイロンはツヤを出すのに、一番効果的なのだ。

使い始めるとたったの5分で1日中髪の状態が良いことがわかる。使わない人からすると、わざわざ器具を出してきて、コンセントに入れて、髪を伸ばすなんて、悠

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長編小説を書いた理由

長編小説を書いた理由

 2020年の初めに「私、今年は2本の小説を書くわ。」と、なぜか夫に突然宣言した。元旦にお散歩をして、パッサージュにあるサロン・ド・テでケーキを食べながら、今年の抱負について語っていた時に、いきなり思いついたのだ。文章を書くのは好きだけど、小説を書いたことなんて一度もないのに。

 でも、宣言してみると、これがあっさりと、形になっていった。宣言はしてみるものだなあ。と、思う。

 主人公がどんな人

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白い猫と妻の失踪23、エピローグ 果穂とジュリエット2042

白い猫と妻の失踪23、エピローグ 果穂とジュリエット2042

 ノルマンディーのグランヴィルに来たのは、前夫が亡くなった年に旅行に来て以来だ。自分が80代になったなんて、全く信じられなかった。もしかすると自分はまだ30代なのではないかと錯覚することがあるほどで、自分が若い頃に抱いていた人生の後半を生きる人々のイメージと自分が体験していることのギャップに驚いている。人生は思ったよりすごいスピードで進んでしまう。

 自分の人生で、一番の転機は、大学生の時に夫に

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白い猫と妻の失踪22、エリックのいない世界 ジュリエット2042

白い猫と妻の失踪22、エリックのいない世界 ジュリエット2042

 私は、相変わらず、海のそばで暮らしている。パリのマンションもそのままあるので、好きな時に行き来している。夫のいない生活はとても寂しい。夫が他界して1年がたった。
とうとう夫が亡くなるまで、私の記憶は戻らなかった。でも生活にも仕事にも何も支障がなかったし、二人でとても楽しい人生を過ごすことができて、お互いに満足している。夫が突然1年とちょっと前に病気になって、1ヶ月後にはあっという間に天国に行って

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白い猫と妻の失踪21、エリック 聖堂灯台 2022

白い猫と妻の失踪21、エリック 聖堂灯台 2022

 灯台守りが住んでいたという灯台を訪れてみたいと、少し前から思っていた。聖堂が灯台の中にあるのは、世界でもここだけ、と言っていた気がする。ジュマン灯台は小さな岩礁の上に、7年もの歳月を掛けて建てられたそうだ。
天気の良い、ある平日の朝突然「今日は、ジュマン灯台に行ってみようかな。」と思った。こんな風に、直感に従うことの大切さを、私は最近痛感している。思ったことは、その瞬間にやってみたほうがいい。一

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白い猫と妻の失踪20、果穂 新しい出会い 2019

白い猫と妻の失踪20、果穂 新しい出会い 2019

 フランス旅行の最後に泊まったリッツホテルで、フランス人デザイナーたちと食事をしたことで、私の人生は全く思いもかけない方向に動き始めた。

 その後、ここにいたメンバーの一人と気の合う親友になった。そしてある時突然

「ところで、僕たちこんなに気が合うんだから、一緒に暮らしてみない?」という話が持ち上がり、気がついたら再婚までしてしまった。

 彼の国籍は、アメリカ、フランス、イタリアと3カ国に渡

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白い猫と妻の失踪19、エリック クロワッサンとコーヒー 2022

白い猫と妻の失踪19、エリック クロワッサンとコーヒー 2022

 妻は少しづつ落ち着きを取り戻し、なんとか私達は穏やかな暮らしを続けることができた。失われた記憶は、そのままだったけれど。
夫婦には、二人にしかわからないやりとりが沢山ある。私たちは物によく名前をつけた。家電や車、枕にも名前があった。
例えば、枕を買った日に読んでいた小説が「ゴドーを待ちながら」だったから、枕の名前はゴドーになった。「ねえ、ゴドーを取って。」というと、この家の中では「枕を取って。」

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白い猫と妻の失踪18、果穂 モン・サン・ミッシェル2019

白い猫と妻の失踪18、果穂 モン・サン・ミッシェル2019

 船で本土に戻り、グランヴィルでも海の見えるホテルに数泊した。デイオール美術館を見学したり、ゆっくりと過ごした。ここはディオールの生家で、家の造りや庭が素晴らしかった。

 ショゼイ島のホテルで教えて貰ったピコレットというサロンドテで朝食をとった。素晴らしく美味しい紅茶は100種類もあり、焼きたてスコーンが出る。あまりにも美味しかったので、ほとんど毎日ランチとお茶にも通った。チョコレートケーキ、注

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白い猫と妻の失踪17、エリック 戻ってきた妻との生活について 2022

白い猫と妻の失踪17、エリック 戻ってきた妻との生活について 2022

 空白の3年の後、戻ってきた妻と、このようにしてしばらく以前と同じように生活を続けた。私は、この静かな暮らしが続いて欲しい。と、それだけを願っていた。

 妻はその後精密検査を受け、特にこれといった異常は見つからなかった。記憶喪失について、脳に何が起こっているのかは、医者にも正確にはわからないのだそうだ。薬は処方されているけれど、果たしてそれを飲んだからといって、記憶が戻るという保証もない。医学的

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白い猫と妻の失踪16、果穂 新しい旅立ち 2019

白い猫と妻の失踪16、果穂 新しい旅立ち 2019

 本格的な一人での生活が始まった。できることは、全てやったような、全てが心残りなような、複雑な気持ちだった。夫の最後の小説の出版の日程が決まった。夫は長編小説を書くことが多かったので、数年かけて書いた小説を仕上げ、出版が決まるといつも二人で長期の海外旅行に出かけたものだ。

 仕事がひと段落して、一人の生活が落ち着いてくると旅に出るのもいいなと思い始めた。夫が若い頃によく行っていた、イギリスかアジ

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