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芸術一般

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芸術について、なんでも書きます。はじめはヨーロッパ絵画をかなり題材にしていましたが、現在は映画評論・芸術論・文学論などが多くなっています。
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#哲学

<書評>『眼と精神』

<書評>『眼と精神』

 『眼と精神 Eloge de la Philosophe L’oeil et l’esprit (原題を忠実に訳せば、「哲学をたたえて、眼と精神」)』 モーリス・メルロポンティ著 Maurice Merleau-Ponty 滝浦静雄・木田元訳 みすず書房 1966年発行 原書は、Editions Gallimard, Paris, 1953 et 1964 パリのガリマール書店が1953年及び1

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<書評>『ラスコーの壁画』

<書評>『ラスコーの壁画』

『ラスコーの壁画 La Peinture Prehistorique Lascaux ou La Naissance de L’Art』 ジョルジュ・バタイユ Georges Bataille 出口裕弘訳 二見書房 1975年 原書はGeneve, Suisse 1955年

 原題を直訳すれば「芸術の誕生であるラスコーの原始絵画」。20世紀のフランスの哲学者であるジョルジュ・バタイユの名著の一つ

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<書評>『悲劇の死』

<書評>『悲劇の死』

『悲劇の死 The Death of Tragedy』ジョージ・スタイナー George Steiner 喜志哲雄 蜂谷昭雄訳 筑摩書房 1979年 原書は1961年

 本書の内容は、もちろん本文が中心なのだが、スタイナーによる最後の解説的な第10章とそれを補足する訳者の解説は、最初に読むべきだと思った。最初に読んでいれば、本文の感じ方がかなり異なった気がする。

 アメリカ人ジョージ・スタイナ

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<書評・芸術一般>『デュシャンの世界』芸術とは生きること

<書評・芸術一般>『デュシャンの世界』芸術とは生きること

 『デュシャンの世界 Entretiens avec Marcel Duchamp(フランス語原題を直訳すれば、「デュシャンとの談話」)』Marcel Duchamp マルセル・デュシャン、 Pierre Cabanne ピエール・カバンヌ、Pierre Belfond ピエール・ベルフォン 1967年 Paris パリ。日本語版は、岩佐鉄男及び小林康夫訳 朝日出版社1978年。

 20世紀最高

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<書評>『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』

<書評>『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』

『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ Rosencrantz and Guildenstern are dead』 トム・ストッパードTom Stoppard 著 松岡和子訳 原著は1967年 翻訳は1985年 劇書房

 20世紀を代表する不条理を描いた劇作家の一人、チェコ人ながら英語圏で成長した英語作家のトム・ストッパードによる、シェイクスピアの『ハムレット』に名前だけ登場する人物二人

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<書評>『教育術』

<書評>『教育術』

『教育術Eeziehungskunst Methodisch-Didaktiscehs』 ルドルフ・シュタイナー Rudolf Steiner 著 坂野雄二・落合幸子訳 1989年 みすず書房 原著は1939年発行

 神智学(人智学)のルドルフ・シュタイナーによる、副題にあるとおり、「1919年8月21日から9月5日にかけて、シュトゥットガルトにおいて開催された14日間の講演集」の速記録をまとめ

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<書評>『パウル・クレー 造形思考への道』

<書評>『パウル・クレー 造形思考への道』

 『パウル・クレー 造形思考への道』 ウェルネール・ハフトマン著 西田秀穂・元木幸一訳 美術出版社 1982年(原著は1957年)

 20世紀に登場した数々の前衛芸術家の中で、コンポジション(構成、造形)と称される抽象絵画を中心に活躍したクレーについての研究書。クレーはまた、まるで書家のような筆使いの、一種プリミティヴな作品も晩年に多く残している。

 本書はクレーの芸術家としての歴史を追ってい

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<芸術一般>文学作品の評価は形式で決まる

<芸術一般>文学作品の評価は形式で決まる

 わかっている人には当たり前のことだと思うが、文学作品の評価は、書かれた内容(何を書いたか)ではなく、書かれた形式(どう書いたか)によって決まる。

 例えば、芥川賞受賞者が発表されると、マスコミは受賞作品について「xxxxのことを書いたのが評価された」云々と内容を紹介する。しかし、その書かれた内容が、どんなに特別な視点からのものであっても、またどんなに特別な(誰も知らないような)内容であって

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<芸術一般・エッセイ>ナンデ君とダカラ氏との12の対話(そしてときどき、ワカッタ嬢の闖入)(後編)

<芸術一般・エッセイ>ナンデ君とダカラ氏との12の対話(そしてときどき、ワカッタ嬢の闖入)(後編)


6.ナンデ君「なんで、生き物を殺したらいけないのですか」

 ナンデ君、少しわかったような顔をしながら、今日もダカラ氏の家を訪ねてきた。

ナ「死ぬことを避けなきゃというのは、なんとなくわかったんだけど、じゃあ、今度は殺すこと、もちろん人を殺すのはいけないのはわかっているけど、他の生き物、例えばハエや蚊、そしてゴキブリとかは、普通に殺していますよね。・・・これって、どうなんだろう?」
ダ「うん、

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<芸術一般・エッセイ>ナンデ君とダカラ氏との12の対話(そしてときどき、ワカッタ嬢の闖入)(前編)

<芸術一般・エッセイ>ナンデ君とダカラ氏との12の対話(そしてときどき、ワカッタ嬢の闖入)(前編)

(前口上として)

 ある本(『日本人にとっての東洋と西洋』谷川徹三・福田定良 法政大学出版局)を読んでいたら、問答と対話とは異なるものだと説明されていた。それによれば、問答とは仏教、なかんずく禅の基本としてあり、師が弟子の問いに答えるものだそうだ。そして、この場合は、師が弟子に一方的に答えを伝え、弟子はその答えに疑問を挟んだり、さらにヘーゲルの弁証法のように、アンチテーゼ(反対となる命題)を提示

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<芸術一般・エッセイ>関係の哲学

<芸術一般・エッセイ>関係の哲学

 哲学というほどのたいそうなものではないが、この世の人と人とのコミュニケーションとか、人がどう生きているのかとか、なぜ私がここにいるのかなどの、いわゆる根源的な疑問・テーマについて考えることは、昔から哲学という名称を持っていたので、私もそのまま表題に使わせてもらう。

 また、表題にある< >内の言葉は、noteマガジンの項目分けなのだが、そもそも<哲学>というマガジンを作っていない上に、私として

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<閑話休題>2022年のまとめと2023年の抱負

<閑話休題>2022年のまとめと2023年の抱負

 明けましておめでとうございます。旧年中のご愛顧を感謝申し上げますとともに、引き続き本年もどうぞ宜しくお願いいたします。

 2022年4月以降は、定年退職して時間ができたこともあり、読書及び創作活動に勤しむことができた。そこで、2022年のまとめと2023年の抱負を書きたい。

1.読書

(1)2022年のまとめ

 なんといっても、ダンテ『神曲』を邦訳ながら読了できたこと。翻訳しているせいも

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<芸術一般>三年目の『ゴドーを待ちながら』――あるペシミティックな芸術限界論――

<芸術一般>三年目の『ゴドーを待ちながら』――あるペシミティックな芸術限界論――

(注1:もう今から37年前の、まだ20代後半だった頃の心境です。当時の私は、仕事が社会貢献につながるとは考えられませんでした。私にとって最も大切な「自分自身のやりたいこと」を阻害するものだと認識しながら、生活のために止む無くやっているものが仕事でした。その不誠実さを反省することもなく、私はこの考えに従って、定年まで仕事をしました。その好悪について議論することは、既に停止していますので、ここで議論は

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<閑話休題>私と林達夫

<閑話休題>私と林達夫



 林達夫の『精神史』は,1969年に発表されているが,僕が読んだのは20歳の頃だったので,1979年になる。発表してから10年が経っていたが,当時は今よりも世の中が変わる速度が遅かったから,少しも古びた感じはなく,むしろ絵画の下絵をX線で読み取るという話題は,非常に新鮮なものがあった。

 『精神史』については,たまたま読んでいた大学の友人は,その冒頭に書かれているバロックやらレトリックという

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