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わたしの愛読書 多和田葉子の本を紹介しまくる

 こんにちは!
「noteの本屋さん」を目指している、おすすめの本を紹介しまくる人です!

 今日ご紹介するのは、世界で活躍する芥川賞作家、多和田葉子。日本語とドイツ語を自在に操り、現実と幻想が溶け合う独特な世界を縦断する、まさに言葉の魔術師です。
 私は、多和田葉子はノーベル賞作家になるであろうと予想しています。


多和田葉子について

 多和田葉子は、1960年東京都生まれの小説家・詩人。
早稲田大学第一文学部を卒業後、80年代ごろにドイツへ渡り、現在はベルリンを拠点に活動。日本語とドイツ語の両言語で創作活動を行っており、その独特な世界観と実験的な文体で、日本のみならず世界的に高い評価を得ている。多和田の作品は、日本語版だけでなく、英訳版やドイツ語版など、様々な言語に翻訳されており、世界中の読者に愛されている。

 彼女の代表作を、今日は紹介します!

代表作その1『献灯使』(2018年に全米図書賞翻訳部門受賞)

「献灯使」は、近未来小説です。大きな災厄に見舞われた後の日本が舞台で、鎖国状態となり、外来語の使用が禁止され、インターネットや自動車も存在しない世界が描かれています。

 登場人物は、百歳を超えた作家の義郎と、彼のひ孫である無名です。無名は体が弱く、歩くこともままならない少年ですが、聡明で心優しい性格です。義郎は無名の成長を見守りながら、変わり果てた日本社会の中で懸命に生きています。

 物語は、義郎と無名の日常を中心に、様々な人々のエピソードが織り交ぜられて展開します。そこでは、人々の孤独や悲しみ、そして希望が繊細な筆致で描かれています。

 献灯使とは、作中で海外に派遣される使者のこと。無名もまた、献灯使として海外へ旅立つ運命を背負っています。

 この小説は、私たちが生きる現代社会への警鐘とも受け取れます。環境問題、高齢化社会、国際関係など、様々な問題を抱える現代社会において、私たちはどのように生きていくべきなのかを考えさせられる作品です。
 震災アンソロジー『それでも三月は、また』(講談社2012,2)に収められた「不死の島」にも通底するテーマを持っており、おそらく「不死の島」をより文学的に掬い上げた作品でしょう。個人的にはポスト震災文学の代表作だと思っています。

代表作その2『ゴットハルト鉄道』

 1996年に発表した短編集で、以下の3つの作品が収録されています。

  1. 「ゴットハルト鉄道」 アルプスの山塊を貫くゴットハルト鉄道のトンネルを舞台に、語り手の「わたし」の身体性を通して、風景や記憶、言葉が織りなす幻想的な世界を描く。トンネルの中を「聖人の腹」と表現するなど、独特な比喩表現が印象的で、全てが性器のメタファーになっている

  2. 「無精卵」 卵を産まなくなった雌鶏と、それを飼育する「わたし」の奇妙な関係を描く。言葉を使わなくなる「わたし」の意識の流れを通して、現実と幻想が交錯する不思議な世界が展開される

  3. 「隅田川の皺男」 隅田川沿いを散歩する「わたし」が、皺だらけの奇妙な男と出会う物語。男の語る言葉や行動を通して、日常の中に潜む異質さや不気味さが浮き彫りになる

 これら3つの作品は、いずれも現実と幻想が交錯し、曖昧に溶け合う世界を描いています。特有の詩的な文体と実験的な表現が光ります。特に「ゴットハルト鉄道」では、トンネルという閉鎖空間を舞台に、言葉や記憶が変容していく様子がエロティックかつ幻想的に描かれ、不思議な読後感を残します。

『ゴットハルト鉄道』は、講談社文芸文庫から出版されています。多和田さんの初期作品でありながら、その後の創作活動の萌芽を感じさせる、魅力的な短編集です。同文庫のアンソロジー『戦後短篇小説再発見 10 表現の冒険』にも収められています。ぜひ、手にとって読んでみてください。

代表作その3『地球にちりばめられて』

 2018年に発表した長編。この作品は、故郷を失った人々が、言葉や記憶を頼りに自身のルーツを探し求める物語です。

 主人公のヒルコは、留学中に故郷の島国が海面上昇によって消滅してしまい、難民としてヨーロッパに暮らしています。彼女は、故郷の言葉を話す人を探し求める中で、様々な言語や文化に触れ、自分自身のアイデンティティについて深く考えるようになります。

 この小説は、ヒルコだけでなく、様々な背景を持つ人々の物語が交錯する群像劇でもあります。それぞれの登場人物が、自身のルーツやアイデンティティについて悩み、葛藤しながらも、新たな出会いや経験を通して成長していく姿が描かれています。

『地球にちりばめられて』は、現代社会における移民や難民問題、アイデンティティの喪失、言葉の重要性など、様々なテーマを扱っています。多和田さんならではの詩的な文体と、現実と幻想が交錯する独特な世界観が、読者を深く引き込みます。

 この作品は、国際的にも高い評価を得ています。多和田の代表作の一つであり、現代社会を生きる私たちにとって、重要な問いを投げかける作品と言えるでしょう。

代表作その4『球形時間』

 2002年に発表した長編小説。舞台は現代の日本ですが、時間や空間が歪み、現実と幻想が交錯する不思議な世界が描かれています。

 物語は、女子高生のサヤと、クラスメートのカツオの視点から交互に語られます。サヤは、ある日、時空を超えてやってきたイギリス人女性イザベラ・バードと出会い、彼女を通して歴史や文化、アイデンティティについて考えるようになります。一方、カツオは、フィリピン人の血を引く少年や、太陽を崇拝する青年との交流を通して、セクシュアリティや自己認識を模索していきます。

 この小説は、思春期の少年少女の心の揺れ動きや葛藤を繊細に描きながら、時間や空間、アイデンティティといった普遍的なテーマを問いかける作品です。多和田さんならではの言葉遊びやユーモアも随所に散りばめられており、読者を楽しませながらも深く考えさせられます。

代表作その5『雲をつかむ話』(第64回読売文学賞受賞)

 2012年に発表した長編小説。

 物語は、ベルリン在住の詩人である「わたし」が、ある日エルベ川のほとりの自宅に、詩集を買いたいという若い男が訪ねてくるところから始まります。男は「わたし」の詩集を手に取るなり、涙を流しながら過去の出来事を語り始めます。

 男の話は、幼少期の記憶、東ドイツ時代の生活、ベルリンの壁崩壊後の変化、そして現在の孤独感など、多岐にわたります。彼の語る断片的な記憶は、まるで雲のように形を変えながら、「わたし」の心の中に深く入り込んできます。

 一方「わたし」自身も、過去の記憶や現在抱えている問題と向き合いながら、男の話に耳を傾けます。二人の会話は、言葉の持つ力、記憶の曖昧さと重要性、そして人間関係の複雑さについて、読者に深く考えさせるものとなっています。

 この小説は、ベルリンの街並みや風景描写が美しく、まるで映画を見ているかのような感覚を味わえます。また、彼女ならではの詩的表現や言葉遊びが随所に散りばめられており、美しいユーモアに彩られています。

まとめ

 多和田葉子の作品は、どれも独特な世界観と深いテーマ性を持っています。この記事で紹介された作品以外にも、多くの魅力的な作品がありますので、ぜひ手に取ってみてください。

多和田文学がもたらす詩的で視覚的な体験
現実と幻想が溶け合う瞬間を体験してください!

【編集後記】
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