OLi[生きる姿を、音楽と。]

32歳の不器用なサラリーマン2人(環と太)が心の奥に閉まっていた大切なストーリーを紹介…

OLi[生きる姿を、音楽と。]

32歳の不器用なサラリーマン2人(環と太)が心の奥に閉まっていた大切なストーリーを紹介するエッセイメディア「OLi」です。 1日1日を生きるあなたに、人の生きる姿を、音楽とともに紹介します。 毎週金曜日更新。願わくば、僕たちが紹介するストーリーや音楽があなたに寄り添いますように。

マガジン

  • 環のストーリー

    生きる姿を、音楽と。環のストーリーを紹介します。

  • トウキョウ百景

    東京生まれ東京育ちの30代。 太と環は、それぞれの東京で生まれ育ち、二十歳の時に東京で出会いました。 2人が見てきた東京の景色、東京での物語を、紹介していきます。 ぼくらが育ったのは、東京だった。 「トウキョウ百景」

  • 太のストーリー

    生きる姿を、音楽と。太のストーリーを紹介します。

記事一覧

家族で行く品川の水族館

「じゃあ品川でメキシカンを食べて、水族館でも行こう」。 そんなデートみたいな誘いを、家族にするとは思ってもみなかった。 2020年春、父が定年退職を迎えた。転職…

下丸子のガス橋で泣き腫らした日々が、いつか誰かを救うかもしれない

下丸子のガス橋のグラウンドで何度も泣いた 平日仕事の時や休日に都内で電車に乗っていると、路線図で見かける駅名や、目的地までの通過駅で、ふと過去に経験した感情が湧…

もしかしてあなたも怒っている?

「Hi, I'm Tamaki」 菊川の映画館でそう話しかけると、白人男性の目が輝く。 「You really come here!!!」 サムは笑って握手を求めてくる。そしてパンフレットにサイン…

五反田で捕まえたタクシーの中で

社会人になって間もない頃の同期入社が集まる研修で、本当にどうしようもない一日を過ごしたことがあった。 研修自体はもちろん、そのあとの飲み会が更に居心地が悪かった…

練馬ICを降りて道を間違える

東京で車を運転するのが苦手だ。異様に多い車の数、それゆえに極端に狭い車間距離。車線は3も4もあり、右折専用、直進専用、左折専用など用途が限られてる場合も多いと思う…

多摩川のカラオケで拳を突き上げた

「お、アジカン好きなんだ!ソラニン聴いた?めっちゃ良くなかった?」 「あー。聴いたと思うけど、印象に残ってないってことはあんまり良くなかったんだと思う」 「おー、…

初めて行ったクラブは渋谷だった

大学生の頃、初めてクラブというものに行った。クラブのイメージといえば、大音量で音楽が流れ、アルコール度数の強い酒を飲み、男女がいちゃいちゃして、ドラッグが蔓延す…

マスクの下でニヤけながら桜台の商店街を歩く

コロナで緊急事態宣言が出て、外出できなくなった2020年春。 それから数年、自粛などもあって遠出をすることがほとんどできなかったあの時期のほとんどを、僕は練馬で過ご…

新宿5丁目で第二の故郷を感じる

地元が東京だと告げると、東京以外の出身の人からは「いいな」とうらやましがられることが多い。「都会だね」とか「楽しいことが多そう」といったことから、「出身は東京っ…

東京駅で最後を迎えて

ああ、もうこの人とは一生会わないんだろうな、という事実が突きつけられる瞬間を、今まで何回か味わったことがある。 変わってしまった友だちとの弾まない会話、恋愛の終…

中井駅のエスカレーターで振り返った君は

高校3年生は受験勉強一色だった。進学校にいっていた私は、周りの95%くらいが大学進学を希望していて、多分に漏れず私も進学を選んだ。母の職業と同じ保育士の道を選ぼう…

ポッポを食べるためだけにわざわざ国領まで

地元のイトーヨーカドーには、ポッポが入っていた。 今はもうなくなってしまったらしい(店舗が縮小傾向にあるらしくてちょっと悲しい)。 小さい頃に家族で行ったり、小…

代々木上原で心が開けない

代々木上原にある書店でアルバイトをしていたことがある。店長は穏やかで良い人だし、アルバイトの人たちも分け隔てなく話してくれるのが心地よかった。ただし、ずーっと馴…

赤坂のサイゼリヤで悪い癖が出た

制作会社に勤めていた頃の話だ。 夜遅い時間に赤坂で開かれた、クライアントとの噛み合わない(よくある)ミーティングを終えて心身ともに疲弊しながらも、自分たちがやる…

下高井戸での違和感は私のアラーム?

声が大きいなと思った。 下高井戸駅の本屋で待っていると、吉田くんが若干の汗を滲ませながら「遅くなりました」とはにかんだ。時間に遅れたことは本当にどうでもよかった…

戸越銀座を自転車で駆け抜けた

小学生の頃、所属していたサッカーチームで、よく戸越まで自転車で試合をしに行った。 平日に試合があることもあって、学校から帰って来てから、サッカーボールを背負って…

家族で行く品川の水族館

家族で行く品川の水族館

「じゃあ品川でメキシカンを食べて、水族館でも行こう」。
そんなデートみたいな誘いを、家族にするとは思ってもみなかった。

2020年春、父が定年退職を迎えた。転職の回数が多い父だったが、最後は名の知れた企業で管理職をこなし、満足いくだけ働いた様子だった。父の誕生日と定年退職祝いをささやかだがすることになり、父の大好きなメキシカンを食べることとなった。当時私は大阪に住んでいたので、アクセスの良い品川

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下丸子のガス橋で泣き腫らした日々が、いつか誰かを救うかもしれない

下丸子のガス橋で泣き腫らした日々が、いつか誰かを救うかもしれない

下丸子のガス橋のグラウンドで何度も泣いた

平日仕事の時や休日に都内で電車に乗っていると、路線図で見かける駅名や、目的地までの通過駅で、ふと過去に経験した感情が湧き上がることがある。
嬉しかったことや楽しかったことはもちろん、思い出したくない嫌な出来事も含めてフラッシュバックする。
僕にとって、少し暗い感情にさせられる地名の一つが、下丸子だ。

小学生の頃、サッカーチームの都大会出場をかけた地区予

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もしかしてあなたも怒っている?

もしかしてあなたも怒っている?

「Hi, I'm Tamaki」
菊川の映画館でそう話しかけると、白人男性の目が輝く。
「You really come here!!!」
サムは笑って握手を求めてくる。そしてパンフレットにサインをしてくれた。

サムは映像関係の仕事をしている。彼が何年もかけて作った戦争に関する映像作品の上映会があり、ちょうどタイミングが合ったのでお邪魔することにした。会場は50席ほどが満員。そして上映が始まると

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五反田で捕まえたタクシーの中で

五反田で捕まえたタクシーの中で

社会人になって間もない頃の同期入社が集まる研修で、本当にどうしようもない一日を過ごしたことがあった。
研修自体はもちろん、そのあとの飲み会が更に居心地が悪かった。

何の実績もないのに研修でも飲み会でも自信満々に話す同期と対照的に、僕は何の実績もないからこそ研修中は自信なく話し、飲み会では話す言葉を失った。
謙虚というよりは卑屈な態度をとって、何か話さなきゃと放った言葉は誰も得しない言葉で、あまり

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練馬ICを降りて道を間違える

練馬ICを降りて道を間違える

東京で車を運転するのが苦手だ。異様に多い車の数、それゆえに極端に狭い車間距離。車線は3も4もあり、右折専用、直進専用、左折専用など用途が限られてる場合も多いと思う。事前に知らなければ通行できないのでは?と思うことがしばしばある。

私は2013年に石垣島で車の免許をとった。島内には高速道路がなく、車線も2車線までだったと思う。そこで一年ほど生活していたので、ごみごみと人の多い中で車を運転した経験が

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多摩川のカラオケで拳を突き上げた

多摩川のカラオケで拳を突き上げた

「お、アジカン好きなんだ!ソラニン聴いた?めっちゃ良くなかった?」
「あー。聴いたと思うけど、印象に残ってないってことはあんまり良くなかったんだと思う」
「おー、まじか。今度また聴いてみて。オレ漫画のソラニンが好きなんだよね」

ソラニンが劇場上映された2010年。
大学に入学して軽音楽サークルに入り、人生ではじめて組んだコピーバンドのメンバーと、東急の多摩川駅でお昼過ぎに待ち合わせをして、スタジ

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初めて行ったクラブは渋谷だった

初めて行ったクラブは渋谷だった

大学生の頃、初めてクラブというものに行った。クラブのイメージといえば、大音量で音楽が流れ、アルコール度数の強い酒を飲み、男女がいちゃいちゃして、ドラッグが蔓延する。そんな偏見まみれのイメージだった。ただ、私は初めて入ったクラブで同じような印象を抱き、結局は階段に座って始発が来るのを待っていた。

クラブに行こうとなったのは、親友・美香の誘いだった。美香の友達がクラブに何度か行ったことがあるお兄さん

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マスクの下でニヤけながら桜台の商店街を歩く

マスクの下でニヤけながら桜台の商店街を歩く

コロナで緊急事態宣言が出て、外出できなくなった2020年春。
それから数年、自粛などもあって遠出をすることがほとんどできなかったあの時期のほとんどを、僕は練馬で過ごした。

もっぱら近所をぶらぶらするようになった僕は、少し距離があったけれど桜台駅の方まで散歩しに行くことがあった。
こじんまりとしていたけれど、落ち着いた雰囲気で、そして魅力的な飲食店も集まっていて、とても好きな街だった。

駅から歩

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新宿5丁目で第二の故郷を感じる

新宿5丁目で第二の故郷を感じる

地元が東京だと告げると、東京以外の出身の人からは「いいな」とうらやましがられることが多い。「都会だね」とか「楽しいことが多そう」といったことから、「出身は東京っていいたい」とか「田舎は何もないから」といったことまでさまざまだ。

ただ、私は褒めてくれる人たちと同じような気持ちにはあまりなれず、「東京以外の出身って言いたかった」と思ってしまうことが多い。

だって、田んぼで鳴くかえるの声、木々の青々

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東京駅で最後を迎えて

東京駅で最後を迎えて

ああ、もうこの人とは一生会わないんだろうな、という事実が突きつけられる瞬間を、今まで何回か味わったことがある。
変わってしまった友だちとの弾まない会話、恋愛の終わり、辞める職場での最後の挨拶。
二度と会いたくない人と思う人もいれば、またちょっとだけなら会ってみたい人もいて、変わる前のあなたとならまた会いたいんだけどなあという複雑なものある。
ただ東京駅で最後を迎えた人とは、それらの感情のどれも当て

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中井駅のエスカレーターで振り返った君は

中井駅のエスカレーターで振り返った君は

高校3年生は受験勉強一色だった。進学校にいっていた私は、周りの95%くらいが大学進学を希望していて、多分に漏れず私も進学を選んだ。母の職業と同じ保育士の道を選ぼうかな~と思っていたけど、その選択になんだか魅力をあまり感じなくなってきて、マスコミ業界を目指すことに決め、大学を選ぶことにした。マスコミ業界を目指すといっても結構安直な動機で、BRUTUSという雑誌が好きだったから、それを作りたいな、みた

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ポッポを食べるためだけにわざわざ国領まで

ポッポを食べるためだけにわざわざ国領まで

地元のイトーヨーカドーには、ポッポが入っていた。
今はもうなくなってしまったらしい(店舗が縮小傾向にあるらしくてちょっと悲しい)。

小さい頃に家族で行ったり、小中高の友だちともサッカーの練習の帰りなどによく寄った。
ラーメンやお好み焼き、たこ焼きなどをお手軽な価格で食べられる。庶民的な味で美味しい。
ファストフードチェーン、ファミレスチェーン、個人店など選択肢はたくさんあるが、その中でも無性にポ

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代々木上原で心が開けない

代々木上原で心が開けない

代々木上原にある書店でアルバイトをしていたことがある。店長は穏やかで良い人だし、アルバイトの人たちも分け隔てなく話してくれるのが心地よかった。ただし、ずーっと馴染めないなぁという気持ちを抱いていた。

「環くん、今度飲み会やるんだけど、こない?」
年の近い和田さんに声をかけてもらう。
「いいんですか?行ってみたいです」
そう答えはしたものの、馴染んでない自分が行って、本当に楽しめるのかと少し不安だ

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赤坂のサイゼリヤで悪い癖が出た

赤坂のサイゼリヤで悪い癖が出た

制作会社に勤めていた頃の話だ。
夜遅い時間に赤坂で開かれた、クライアントとの噛み合わない(よくある)ミーティングを終えて心身ともに疲弊しながらも、自分たちがやるべきタスクをすぐに整理しておかないと明日からの状況が更に悪くなることは明白だった。
クライアントの逆鱗に触れるミスをした張本人であり、テンパりまくっている先輩と2人で作戦会議ができる場所を探し、サイゼリヤに行き着いた。

赤坂は、僕が高校生

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下高井戸での違和感は私のアラーム?

下高井戸での違和感は私のアラーム?

声が大きいなと思った。
下高井戸駅の本屋で待っていると、吉田くんが若干の汗を滲ませながら「遅くなりました」とはにかんだ。時間に遅れたことは本当にどうでもよかったものの、なぜこんなにも本屋で声が大きいのだろうと少しひっかかった。

それから下高井戸駅の周りを散策して、カレー屋さんへ行く。クラフトビールを飲みながら、仕事やジェンダーのことに話が進む。同じソースから情報を得ていることや、大切にしたい考え

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戸越銀座を自転車で駆け抜けた

戸越銀座を自転車で駆け抜けた

小学生の頃、所属していたサッカーチームで、よく戸越まで自転車で試合をしに行った。
平日に試合があることもあって、学校から帰って来てから、サッカーボールを背負って夕暮れ時の戸越銀座商店街を自転車で駆け抜けた記憶がある。
戸越に行く日はいつも天気が良かったイメージがあり、活気のある商店街を通るのがすごく好きだった。

小学校のサッカーチームでの活動が終わると、しばらく僕は戸越に行く機会がなくなった。次

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