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西新宿の夜が明ける

引っ越すことになった。例によってまた転職をするのだ。しかも前に勤めていた会社に戻る。なかなか変なキャリアを辿るなあと自分で自分を思っていたが、引っ越し当日を迎えて感じたのは夜が明けるときのような期待感だった。

転職の理由は非常にシンプルで、仕事が耐えられなくなったのだ。それは今の仕事が嫌いだということではなく、前にしていた記者の仕事があまりにも面白かったから、毎日の9時間の拘束が窮屈で仕方なく、少しでも嫌なことや悪いことがあれば目についてしまう。そんな状態を1年近く続けていたから限界がピークに達し、「あ、これはもう辞めだ」となったのである。

辞めようと決心してからは、まるで夜明けのように視界が徐々に開けてきて、かなり前向きに毎日を過ごせるようになった。ただ、引っ越しの準備をしながらここ1年くらい西新宿のオフィスに通い働いていたことを考えていたが、そんな”退屈な夜”でもなかったなと思った。

そう思えたのは仕事内容ではなく、一緒に働いていた20人あまりのメンバーがしなやかさを持っていて、それを随所で感じていたからだ。

「坂本さん来てくれたんですね!たくさん飲みましょう」
入社して間もない頃、同じチームの人たちと飲み会があった。私のチームはほとんどが女性で、なおかつ年齢が20代だ。男性で30代なのは私ともう一人(管理職)しかおらず、これまで働いてきた会社と性別や年齢の構成比がかなり違った。私自身は「へ〜」くらいしか思っていなかったのだが、入社してすぐの頃は「もしかするとメンバーの人たちが、性別や年齢がかけ離れている私の扱いに困るかな?」と申し訳なく思った。

ただ蓋を開けてみたら、飲み会でも対等に話すし、「坂本さんは男性だから〜」みたいな扱いを受けることはほぼない。年齢や性別が違うのは当たり前として会話が進み、もちろん性別や年齢をいじることもない。男性の管理職が私を指して「若い女の子の中におじさんが」みたいなことをいうこともあったが、みんな「はあ、そうですか」くらいの反応で特に反応しない。後日その男性管理職が酔っ払って性的少数者である私に向かって差別発言をしたが、誰もそれに反応しなかった。その感じが非常に心地が良かった。

そして仲良くなるにつれて、メンバーから「兄貴」みたいなノリで絡んでもらえることが増えて、飲み会も結構開催してもらった。その中で仕事の話をしたり、勤務体系の疑問についてアドバイスを求められたりして、私と同じように主体的に働いている人でしかなく、「私を扱うことに困るかな」とか勝手に推察していた自分が間違っていたなと感じた。当たり前に柔軟な人たちだったのだ。

そして退職することが発表されると、本心まではわからないがみんな寂しがってくれたうえで、次のステップを応援してくれた。その姿も潔く、「ああ、人として良い人たちに囲まれていたな」と本心から思えたのだ。個別に声をかけてくれる人もいて、なんの負い目も感じることなく進むことができそうだ。

私のキャリアの夜明けが訪れるまで、あと10日ほど。元の職場に戻り同じ仕事やりつつ、新しい挑戦をするつもりだ。夜が明けたときに多くの知識や経験、そして人を巻き込んで納得いく活動ができるように、これからも生きていくと決心をしている。


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