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新宿歌舞伎町の喫茶店で行われた社会人予行演習

大学生の頃、音楽雑誌を作るという名目で集まって、ひたすらダラダラするサークルに入っていた。
音楽雑誌を作るという名目で集まった割に、音楽にはあまり詳しくない大学生の集まりだった。
それっぽいサークルの形をなぞって数年連続でフジロックに行ったこともあったけれど、大御所のヘッドライナーを観てもわかるのは名前だけで、高いチケット代をドブに捨てて都内に戻ってスーパー銭湯でぬくぬくしていた。
大してライブも観ずに苗場食堂で酔っ払った同期が「くるり聴いてるってなんかオシャレだよな!」と浅はか過ぎる発言をした時はさすがにぶん殴ってやろうかと思ったけれど、僕自身も音楽を詳しいフリをしているだけの人間だという自覚があったので人のことは言えなかった。

サークルの活動の9割は、新宿歌舞伎町の入口らへんの喫茶店で行われた。
そのカフェはコーヒーが安く、フリーWi-Fiが飛んでいて、いつもあまり混んでいなかったので使い勝手がよかったのだ。
店の中央に机を並べて、10人ほどで一応持ってきたパソコンを広げて、会議や作業をはじめようとして、速攻飽きた。
仕事をサボっているサラリーマンを横目に、タバコを吸いながら恋バナやどうしようもない話を延々にしていた。

そんなヘタレサークルでも、一回だけフリーペーパーを作ることができた。
メジャーデビューしているアーティスト何組かに取材を申し込んで、なぜか承諾されて、レコード会社に行って意味不明なインタビューをして、統一感がないよくわからない記事を作った。
僕がそのサークルで得た学びは、何も考えずにダラダラサボっていても、少しだけ勇気を振り絞って動いてみると、最低限の形になるということだ。

喫茶店でのダラダラに飽きると、切り上げて近場のチェーン店の居酒屋に移動した。それは毎回のように行われた。
とりあえず飲み放題にして、安い酒を飲んで、酔っ払って、よく終電を逃して東口の漫画喫茶で山手線の始発が動くのを待った。

どうしようもない大学時代の話として書き進めてみたけれど、少し冷や汗をかいてきた。
会社員になってからのことを振り返ると、一応会議室にゾロゾロ集まってみんなパソコンを広げて、それっぽいことを言い合うものの生産性がなくて、「これ、やる必要あります?」みたいなことって一回や二回ではない。
会議の内容を聞かずに内職している人もいて、それって恋バナしてるのと同じじゃね?という気もしてきた。

しかし同時に、誰かしらが勇気を振り絞って進めようとすると、なんとか形になるのだ。
みんな給料をもらっているから、あの時のフリーペーパーとは違って、結構まともなものができあがったりする。

そう思うと、あの歌舞伎町でのダラダラとした時間は、実は社会に出る予行演習だったのではないか?
そんな気もしてきたが、あの予行演習がもっと生産性のあるものだったら、僕の今の給料はもっと高かったのかもしれない。

ちなみに当時のサークルのメンバーが以前仕事で新宿に行った時に懐かしくなって歌舞伎町の喫茶店を見に行ってみたら、お店が変わってしまっていたらしい。


迷路ゲーム / くるり


<太・プロフィール> Twitterアカウント:@futoshi_oli
▽東京生まれ東京育ち。
▽小学校から高校まで公立育ち、サッカーをしながら平凡に過ごす。
▽文学好きの両親の影響で小説を読み漁り、大学時代はライブハウスや映画館で多くの時間を過ごす。
▽新卒で地方勤務、ベンチャー企業への転職失敗などを経て、会社員を続ける。
▽週末に横浜F・マリノスの試合を観に行くことが生きがい。

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