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浅草の喫茶店で会いましょう

大阪から友達が遊びにきた。宗(たかし)は私が大阪にいる時に知り合い、いつもお笑いだの人間関係だのの話しで笑い、最後はだいたい「かつみさゆり」の話をして帰るという、変わった友達だ。波長がとにかく合うので、私が大阪に行く時、宗が東京にくるときは大抵遊ぶ。

宗が遊びにきた時、東京らしいところと考えて、東東京を選んだ。下町であるそのあたりであれば、東京っぽさが満載で楽しめると思ったからだ。私は東京出身だが両親は地方の人間なので、下町にいる代々東京に住む人たちには、何か憧れのようなものさえある。 


まずは柴又、そして浅草と移動してスーパー銭湯へ(謎)。風呂から出たあと「行ってみたい喫茶店があって」と宗を誘い、たどり着いたのが珈琲アロマだ。

道に少しせりだしたビニール製のオレンジ色の屋根は日に焼け、窓ガラスに貼ってある張り紙もどことなく古い。味がある店という印象を持った。

店内に入ると半円のカウンター席の中で、店主の夫婦がせっせと動いており、手書きのメニューも愛らしさを感じた。

「お兄さんたち、どこからきたの」
店主の女性から声がかかる。大阪から友達が来てくれて、という話をすると一旦驚きや歓迎のリアクションをとってくれた後、頃合いをみて作業へ戻っていく。その切り替えの早さがなんとも商売人らしく、深入りされない温度感が心地よかった。

店内にはテレビで放映されたという内容や、確かサインも何枚かあったと思うが、観光客ばかりでもなく、とにかくお客さんが良かった。

近くでゲストハウスをやっているらしい女性が、店主の男性と親しげに話している。物珍しさに惹かれて入ってきた外国人にも、店主は過不足なく目線を向け、デートとおもわしき男女カップルにも気さくに声をかける。

店主の女性を離さないのは、保険についてずっと悩んでいるおばさんだ。健康、介護、遺産、病気、怪我…。とにかくいろいろな引き出しから個人情報を並べるその姿は、店主と街への信頼を感じさせるものだった。「いろいろな話してすみませんね、お会計お願いします」と律儀に話を畳むその姿は、土地柄もあってか東京の伝統芸能かと思った。

宗と互いに小突き合いながら、ちっさい声で「最高なぁ〜」と言い合い、次の予定の時間がきたから外へ出た。

「環ちゃん、ありがとうね。東京もこんな最高なとこがあんねんな」
宗が笑う。こうやって褒め合って、互いの心地よいことができる友達がいるのってめちゃくちゃ幸せだなと、歩き出した宗の背中を見て思う。

「宗くん、かつみさゆりって大阪ならまだテレビ出てる?」
「全然出てんで、なんなら今日見てからきたわ」
珈琲アロマを出ると、また日常が始まる。

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