太田光海 / Akimi Ota

映像作家・人類学者。『カナルタ 螺旋状の夢』監督。マンチェスター大学映像人類学部博士課…

太田光海 / Akimi Ota

映像作家・人類学者。『カナルタ 螺旋状の夢』監督。マンチェスター大学映像人類学部博士課程修了。コムアイさんと胎児の旅を記録する最新作『La Vie Cinématique 映画的人生』制作中。現在、ブラジルに拠点。noteでは僕の日々の活動の最前線を綴ります。

マガジン

  • カナルタ コトハジメ

    2021年10月2日(土)より全国のミニシアターで劇場公開されるドキュメンタリー映画『カナルタ 螺旋状の夢』。僕自身がひとりでアマゾン熱帯雨林に飛び込み、かつて「首狩り族」として恐れられていたシュアール族と呼ばれる人々の村に1年間住み込んで撮った映画です。この連載では、『カナルタ』をより深く味わってもらえるように、撮影に至るまでの様々なエピソードを綴ります。

記事一覧

『カナルタ』メキシコ上映ツアー、決定。

今月エクアドルの首都キトで日本国外初の劇場公開が行われた『カナルタ』が、メキシコでも今月末〜5月末にかけて上映されることが決まった。今回は複数都市で、大学、映画…

「非時代」の態度、もしくは否定弁証法の必要性について(『芥正彦責任編集 地下演劇 第7号』掲載文)

*劇作家・芥正彦氏編集による雑誌『地下演劇』の50年ぶり第7号に寄稿した文章を、出版者である熊谷朋哉(SLOGAN)氏の特別の許可を得て以下に公開する* 芥正彦が主催す…

「このために『カナルタ』をエクアドルで上映したかった」と確信した、緊張感ある上映後ディスカッション

今日4月12日の『カナルタ 螺旋状の夢』上映後のディスカッションが色んな意味でとても刺激的だったので、書き留めておきたい。 『カナルタ』のキト劇場公開も今日で4日目…

23

『イレイザーヘッド』(1977年、デヴィッド・リンチ)

グロテスクで、腐敗臭がして、バッドトリップだった。だが、これ「も」なければ、映画は面白くない。何がどうなったからどうなるのかがわかってしまったら、失われるセンサ…

『カナルタ 螺旋状の夢』を、4年越しで撮影国エクアドルに届ける旅

エクアドルの首都キトに来ている。4月9日から14日までの6日間、『カナルタ 螺旋状の夢』が劇場で公開されるためだ。 会場はOcho y Medio(8と2分の1という意味)…

12

リベルダージ:地球の裏側で日系コミュニティを覗いて見えたもの

ブラジル・サンパウロには、世界最大級とも言われる日本人街が存在する。街の中心のやや東側にある、リベルダージ地区だ。 1910年代にはすでに日本人が集住していたという…

12

サンパウロの展示で感じた、ブラジルにおける表現の切実さ

南米最大の街なだけあり、サンパウロは展示の宝庫だ。短い滞在期間中に全て観られるとは到底思えないが、できるだけ観てこの土地特有の美術・展示シーンから吸収したい。 …

16

遠くて近い国、ブラジル

ブラジルはサンパウロに来て、はや2日が経つ。 ポーラ美術振興財団による「若手芸術家の在外研修助成」に申請する際に、行き先としてブラジルを選んだのはすでに約1年半…

18

金子遊氏の性加害疑惑について、現時点で紡ぐ言葉

東京ドキュメンタリー映画祭のディレクターであり映像作家・批評家の金子遊氏が、2023年7月23日に亡くなった(死因は非公表)水井真希さんから生前に性加害を告発さ…

181

地球にわずかに残された、生き物たちが開いている場所

ペルーに入国してからすでに1ヶ月半、今滞在中のアマゾン熱帯雨林にあるワンピス族の村に来てからも、1ヶ月が経った。村にあるWi-Fiが通じるポイントに来て、超久しぶりに…

41

この空を見るために俺は生まれてきた

ペルーのアマゾン熱帯雨林にひっそりと存在する、御伽話の世界のような小さな町、サンタ・マリア・デ・ニエバ。道路がこの町で終わり、以降は水路での移動しかできなくなる…

65

水中撮影ロケ!

今日は早くも5月19日。前回が5月8日だったから、10日以上も空いてしまった! 毎日様々なことが起きていて、ざっと振り返るだけでも8日は歌舞伎鑑賞、9日は三河島水再生セ…

500
10

青石太郎という存在

昨日5月7日は、映像作家・青石太郎の作品上映会に行って、『Lilypop』と『時空は愛の跡』を鑑賞。多摩市の映画カフェ「キノコヤ」という場所だった。 太郎は高校の同級生…

カナルタ、セバスティアン

映画『カナルタ 螺旋状の夢』主演の1人であるセバスティアン・ツァマラインが、9月8日に息を引き取りました。2019年に最後に彼の元を訪ねたあと、少しずつ体調を崩してい…

『カナルタ 螺旋状の夢』下高井戸シネマ満席最終上映を終えて

映画『カナルタ 螺旋状の夢』都内再上映は昨日4月29日(金)に下高井戸シネマで最終回を迎え、満席の会場と共に会期を終えました。 残念ながら僕自身は当日会場にいませ…

作家・田口ランディさんによる映画『カナルタ 螺旋状の夢』評 「存在をかけて信じる力」

作家・田口ランディさんから、『カナルタ 螺旋状の夢』に向けたエッセイをご寄稿いただきました。この場を借りて発表させていただきます。田口ランディさん、心よりありが…

『カナルタ』メキシコ上映ツアー、決定。

『カナルタ』メキシコ上映ツアー、決定。

今月エクアドルの首都キトで日本国外初の劇場公開が行われた『カナルタ』が、メキシコでも今月末〜5月末にかけて上映されることが決まった。今回は複数都市で、大学、映画館、カルチャーセンターなど様々な場で上映される。

上映ツアーで巡る都市は3つ:オアハカ、サン・クリストバル・デ・ラス・カサス、そしてメキシコシティ。大学の先輩から繋いでいただいた現地のご縁を辿りながら企画していった上映ツアーだが、メキシコ

もっとみる
「非時代」の態度、もしくは否定弁証法の必要性について(『芥正彦責任編集 地下演劇 第7号』掲載文)

「非時代」の態度、もしくは否定弁証法の必要性について(『芥正彦責任編集 地下演劇 第7号』掲載文)

*劇作家・芥正彦氏編集による雑誌『地下演劇』の50年ぶり第7号に寄稿した文章を、出版者である熊谷朋哉(SLOGAN)氏の特別の許可を得て以下に公開する*

芥正彦が主催する勉強会に筆者が参加したのは、たかだか2回に過ぎない。しかし、間違いなく言えるのは、芥がたたずむあの四谷の「稽古場」には、ある種の「知」の在り方を未来に託し、発展的に紡いでいくための種が時を越えて保存されているということだ。

もっとみる
「このために『カナルタ』をエクアドルで上映したかった」と確信した、緊張感ある上映後ディスカッション

「このために『カナルタ』をエクアドルで上映したかった」と確信した、緊張感ある上映後ディスカッション

今日4月12日の『カナルタ 螺旋状の夢』上映後のディスカッションが色んな意味でとても刺激的だったので、書き留めておきたい。

『カナルタ』のキト劇場公開も今日で4日目。俺は期間中、毎晩上映後に劇場に行ってお客さんたちとディスカッションを行っている。毎回、全然違う人たちと出会い、交流することができていて、非常に刺激的だ。初回上映は観客の人数も多く、あまり多くの人と話せなかったが、様々な人に声を掛けら

もっとみる
『イレイザーヘッド』(1977年、デヴィッド・リンチ)

『イレイザーヘッド』(1977年、デヴィッド・リンチ)

グロテスクで、腐敗臭がして、バッドトリップだった。だが、これ「も」なければ、映画は面白くない。何がどうなったからどうなるのかがわかってしまったら、失われるセンサーがある。映画の中でくらい、そんなロジックは脇に置かせてほしい。リンチはこの作品を通してとりあえずそう言っている。

この映画が世に存在しているからといって、我々を日々がんじがらめにする現実の理屈は一向に消えやしない。現実の機序にとってこの

もっとみる
『カナルタ 螺旋状の夢』を、4年越しで撮影国エクアドルに届ける旅

『カナルタ 螺旋状の夢』を、4年越しで撮影国エクアドルに届ける旅

エクアドルの首都キトに来ている。4月9日から14日までの6日間、『カナルタ 螺旋状の夢』が劇場で公開されるためだ。

会場はOcho y Medio(8と2分の1という意味)という独立系映画館。

新市街の文化的なエリアにあり、キトでほぼ唯一と言っていい、継続的にアートハウスシネマを上映するシアターだ。

映画祭以外で、『カナルタ』が日本国外で劇場公開されるのは、これが初めて。色々と想いが詰まって

もっとみる
リベルダージ:地球の裏側で日系コミュニティを覗いて見えたもの

リベルダージ:地球の裏側で日系コミュニティを覗いて見えたもの

ブラジル・サンパウロには、世界最大級とも言われる日本人街が存在する。街の中心のやや東側にある、リベルダージ地区だ。

1910年代にはすでに日本人が集住していたというリベルダージ地区は、100年以上の時をかけて、変化を経験しつつ今も日系ブラジル人たちの拠り所であり続けている。また、高まる日本食人気や韓国・中国系の人々や文化の合流によって、サンパウロにおけるポップカルチャーの一つの中心地とも呼べる場

もっとみる
サンパウロの展示で感じた、ブラジルにおける表現の切実さ

サンパウロの展示で感じた、ブラジルにおける表現の切実さ

南米最大の街なだけあり、サンパウロは展示の宝庫だ。短い滞在期間中に全て観られるとは到底思えないが、できるだけ観てこの土地特有の美術・展示シーンから吸収したい。

そこで今回訪れたのは、街の中心を貫くパウリスタ通り沿いにある、写真やアーカイブ・マテリアルを展示の中心に置くInstituto Moreira Salles(IMS)だ。

今行われている展示は、2つ。

一つは、ブラジル軍事政権下の19

もっとみる
遠くて近い国、ブラジル

遠くて近い国、ブラジル

ブラジルはサンパウロに来て、はや2日が経つ。

ポーラ美術振興財団による「若手芸術家の在外研修助成」に申請する際に、行き先としてブラジルを選んだのはすでに約1年半前。申請するからには絶対に実現させたかったので、必死に計画書を書いた。その甲斐あってか、無事に選考に通ったものの、その後様々な事情によりすぐに出発することができずにいた。しかし、失効期限ギリギリの今月、何とか帳尻を合わせて飛行機に飛び乗る

もっとみる
金子遊氏の性加害疑惑について、現時点で紡ぐ言葉

金子遊氏の性加害疑惑について、現時点で紡ぐ言葉

東京ドキュメンタリー映画祭のディレクターであり映像作家・批評家の金子遊氏が、2023年7月23日に亡くなった(死因は非公表)水井真希さんから生前に性加害を告発されていた事実が広まったことで、ディレクターを降板した。下が、水井さんの一連の告発ツイートだ。

水井さんの告発内容は、端的に言って現実に起きたのが信じられないほど身の毛のよだつものだ。そして、最悪なことに、昨年12月からツイートは公開されて

もっとみる
地球にわずかに残された、生き物たちが開いている場所

地球にわずかに残された、生き物たちが開いている場所

ペルーに入国してからすでに1ヶ月半、今滞在中のアマゾン熱帯雨林にあるワンピス族の村に来てからも、1ヶ月が経った。村にあるWi-Fiが通じるポイントに来て、超久しぶりに文章を更新している。スマホで打っているけど、スマホで長文を打つのが苦手なので短めに。

人類学のフィールドワークでこの村に5ヶ月くらい滞在したのが6年前。その後、博士論文を提出した直後の2019年11月ごろにも数日だけ滞在したので、そ

もっとみる
この空を見るために俺は生まれてきた

この空を見るために俺は生まれてきた

ペルーのアマゾン熱帯雨林にひっそりと存在する、御伽話の世界のような小さな町、サンタ・マリア・デ・ニエバ。道路がこの町で終わり、以降は水路での移動しかできなくなる。観光の「カ」の字もないこの地は、真の意味で地元の主に先住民系の住民たちの交易や行政のささやかな中心地であり、交錯地点だ。

俺は6年前、人類学のフィールドワークを行う目的でこの地を訪れ、ここに充満する湧き上がるようなエネルギーにすぐさま魅

もっとみる
水中撮影ロケ!

水中撮影ロケ!

今日は早くも5月19日。前回が5月8日だったから、10日以上も空いてしまった!

毎日様々なことが起きていて、ざっと振り返るだけでも8日は歌舞伎鑑賞、9日は三河島水再生センターで行われたコムちゃんの水をアートで考える活動「HYPE FREE WATER」の取材に同行。さらに、その日は映画『La Vie Cinématique 映画的人生』クラウドファンディング最終日だったので、最後の追い込みをかけ

もっとみる
青石太郎という存在

青石太郎という存在

昨日5月7日は、映像作家・青石太郎の作品上映会に行って、『Lilypop』と『時空は愛の跡』を鑑賞。多摩市の映画カフェ「キノコヤ」という場所だった。

太郎は高校の同級生で、1年生のときにクラスが一緒だった。俺が高校時代に一番影響を受けた友達の1人だ。映画や音楽、服などの粋(いき)について色々と教えてもらったり、ブレずに突き詰めることを教えてくれた友達で、ずっと尊敬している。

高校卒業後、彼は武

もっとみる
カナルタ、セバスティアン

カナルタ、セバスティアン

映画『カナルタ 螺旋状の夢』主演の1人であるセバスティアン・ツァマラインが、9月8日に息を引き取りました。2019年に最後に彼の元を訪ねたあと、少しずつ体調を崩していき、最後は全身に癌が転移した状態でした。

去年10月に劇場公開が始まった頃にはかなり病状が悪化していて、都会で入院することもしばしばでした。そしてここ半年は、彼の病状が急変したと彼の家族から聞くたびに死を覚悟したことが何度もあり、そ

もっとみる
『カナルタ 螺旋状の夢』下高井戸シネマ満席最終上映を終えて

『カナルタ 螺旋状の夢』下高井戸シネマ満席最終上映を終えて

映画『カナルタ 螺旋状の夢』都内再上映は昨日4月29日(金)に下高井戸シネマで最終回を迎え、満席の会場と共に会期を終えました。

残念ながら僕自身は当日会場にいませんでいたが、フルに埋まった館内を想像するととてつもない高揚感を感じます。ご来場いただいた皆さん、本当に心よりありがとうございました。

思い返せば、コロナ禍でロックダウンとなり、八方塞がりとなったヨーロッパを急遽後にし、2020年に約1

もっとみる
作家・田口ランディさんによる映画『カナルタ 螺旋状の夢』評 「存在をかけて信じる力」

作家・田口ランディさんによる映画『カナルタ 螺旋状の夢』評 「存在をかけて信じる力」

作家・田口ランディさんから、『カナルタ 螺旋状の夢』に向けたエッセイをご寄稿いただきました。この場を借りて発表させていただきます。田口ランディさん、心よりありがとうございます。

--------------------------------------------

『カナルタ 螺旋状の夢』
存在をかけて信じる力

田口ランディ

 幻覚植物によるトリップという題材は、古今東西の多くの映画や文

もっとみる