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この空を見るために俺は生まれてきた

ペルーのアマゾン熱帯雨林にひっそりと存在する、御伽話の世界のような小さな町、サンタ・マリア・デ・ニエバ。道路がこの町で終わり、以降は水路での移動しかできなくなる。観光の「カ」の字もないこの地は、真の意味で地元の主に先住民系の住民たちの交易や行政のささやかな中心地であり、交錯地点だ。

俺は6年前、人類学のフィールドワークを行う目的でこの地を訪れ、ここに充満する湧き上がるようなエネルギーにすぐさま魅了された。日本はおろか、欧米や南米内からの観光客も皆無に近いこの町では、完全なる異邦人として人々の好奇の目を楽しみながら、この星にまだまだ存在する人間の豊かな可能性に思う存分身を浸す。今回、コムアイというヴィジョナリーであり稀代のアーティストを恋人としてここに連れてくることができたのは、何よりの栄誉だ。俺ら自身にとって、そして世界にとって、この旅がどれだけ大きな意味を持つのかは誰に言われなくとも理解している。今後、大きな花が開いていく物語の始まりに、俺らはいる。

ペルー初の先住民族による自治政府「ワンピス国」の入り口でもあるこの地で、俺はワンピス族のリーダーの1人で親友のヘロニモ・ペッツェインと4年ぶりに再会した。ここでは、世界の地軸がガラリと逆転する。資本主義や科学主義は周縁に追いやられ、シャーマニズム、薬草、そして森や川を守ることが自明中の自明である世界に入る。ここでは、日々俺らが苦しみ、「なぜ世界は理解してくれないのだろう」と悩まざるを得ない多くの事柄が、意味をなさなくなる。自然の恵みを受け、木々に囲まれて暮らし、子供たちや動物たちが思いっきり身体を躍動させ、喜怒哀楽を惜しみなく表現しながら生きることが、何よりの優先事項になる。

多くの人たちにとって、「こちら」の世界が存在することを理解すること自体が難しい。それでも、ハッキリと言う必要がある。この世界は存在し、しかもそれはとんでもなくでかい、と。確かに、資本主義的暴力はここにも忍び寄ってきている。それでも今現在、確実にこの世界は生きていて、それは素晴らしくパワーに満ちている。

これまでに、本当に多くの生物種や、素晴らしい知恵を持った人々がここアマゾン熱帯雨林で、世界的注目を十分に浴びることなくこの世を去った。なかには自らの土地を違法採掘者や伐採者から守ろうとして残忍な方法で殺された人もいる。俺はその事実やニュースを知るたびに胸が刺されるような痛みを覚えてきた。これからもきっと何度も経験する。それでも、俺はこの空を、この森を、川を、人々の表情を、この目に焼き付けるために生まれてきたのだと思う。50年後にここがどうなっているのかわからない。それでも、俺はこの地の美しさを身をもって経験した、その事実を抱えてこの世を去る。

縮こまって細々と生きる意味など何もない。意志を持って、敬意を忘れず、精一杯の情報を吟味した上で、自分の感覚が「これだ」と訴えているなら、飛び込まない理由など何もない。国境一つ越えるだけで、常識などいくらでも逆転する。言葉が通じないなら学べばいい。言葉ができないなら全身でコミュニケーションを取ればいい。どんな困難も、乗り越えた先には必ず誰も見たことのない景色が広がっている。6年前、誰のツテもなく「これ以上先に行ったら死ぬぞ」と言われながらも信じて突き進んだおかげで、今俺はこの地で名が知られるようになった。道を歩けば人々が俺に気付き、声をかけてくれる。民族のリーダーたちと信頼関係を作れている。一朝一夕にできる関係ではない。信じて、耐えて、自らを主張して作り上げた、新しい現実だ。6年の年月を経て、時間をかけて積み上げてきたものの重みを感じるし、これを大事にしながらさらに発展させていきたい、その想いを強くしている。

リスクを取って新しい景色を見ようする全ての挑戦者に、幸あれ。

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